３３章「ローマの山賊(さんぞく)」

アルベールとフランツは、聖ペテロ寺院とコロッセオを見物するつもりだったが、聖ペテロ寺院の見物が一日がかりになってしまい、コロッセオは夜に行くことになった。その道筋が城外になることを御者に伝えたため、それを聞きつけた宿屋の亭主パストリーニが忠告にやってきた。二人はパストリーニから山賊ルイジ・バンパの話をきかされるはめになった。

目次

３３（１）窓が一日２０スカン　 2-33-1-24「ねえ君」と、アルベールは言った。「現在を楽しむのさ。そして、先のことを『くよくよ』考えたりするのはやめにしようや」。「だが、せめて、」と、フランツはたずねた。「窓くらいはあるだろうな？」。「どっちへ向いた？」。「あたりまえさ、クール町のほうを向いた」。「へへえ、窓でございますか！」と、亭主は叫んだ。

３３（２）聖ペテロ寺院参拝　 2-33-2-22「お馬車はいつごろ御入用で？」。「あと一時間だ」。「では、あと一時間いたしましたら、門のところにまいっております」。一時間の後に、馬車は約束どおり二人の青年を待っていた。お粗末至極な辻馬車で、晴れの祭りを当てこみに飾りたてたといった代物だった。だが、たとい見かけは『ぱっ』としなくっても、青年たちはこの三日間のため、こうした乗物でも手にはいったことを喜んだ。「閣下！」と、案内者が、窓に顔を出しているフランツを見かけて叫んだ。

３３（３）夜のポポロ門を外へ　 2-33-3-15食事の終りになって、亭主自身やってきた。フランツは、はじめ、『てっきり』賞めてもらいたさにやって来たものと思い込み、それを口に出そうとしかけた途端、亭主の言葉にさえぎられた。「閣下、」と、亭主は言った。「お気に召しましたら重畳でございます。ところが、只今伺いましたのはそのためなのではございませんので・・・・」。

３３（４）パストリーニの警告　 2-33-4-8「で、ポポロ門を出て、城壁についてまわって、サン・ジョバンニ門からお帰りになるように馭者にお申しつけになりました？」。「そう言いつけたんだが」「ところがでございます。その御道中はいけませが」。「いけない！」。「でないにしても、ひじょうに危険でございますが」。「危険！というのはどういうわけだね？」。「名高いルイジ・バンパが出ますんで」。

３３（５）アルベールの勇気　 2-33-5-14ルイジ・バンパがつかまえにくる。こっちで『きゃつ』をつかまえてやる。そして、ローマに引っ立ててつれてくるんだ。ローマ法王さまに献上する。なにしろこれは大手柄だ。なんでも望みの旨をかなえてやろうと仰せが出る。で、僕たちはあっさり、お厩にある馬を二頭と馬車を一台拝領したいと申し出る。そして、僕たちは謝肉祭を馬車の上から見ることにするんだ。

３３（６）ブルゲの時計　 2-33-6-11じつは、わたくしもあるとき、フェランチノからアラトリに行こうとして、あの男の手につかまりました。すると、いいあんばいにわたくしたちが昔馴染だったことを思い出してくれましてね。身代金なぞ取らなかったばかりか、すばらしい時計を土産にくれて、身の上話を聞かせてくれましたうえ、そのまま見逃してくれました」。「その時計というのをひとつ見せてもらおうぜ」と、アルベールが言った。

３３（７）バンパ「生い立ち」　 2-33-7-4子供のじぶんから、バンパは一風変っておりました。ある日のこと、ちょうど八つのときに、パレストリーナの司祭さんのところへきて、どうか物を読むことを教えてくれと頼みました。これはなかなかやっかいなことでして。と申しますのは、なにしろ自分では羊の群れを離れることができなかったんでございますから。

３３（８）バンパ「鉄砲名人」　 2-33-8-24真の自由というものが失われ、めいめいみんな独立して勝手気儘なことをやり出している国では、少しでも勇気があり、しっかりした体をしているものは、まず第一に鉄砲がほしいと思うのでして。それがあれば、人を攻撃することもでき、自分を守ることもできます。そして、それを持っているものは恐ろしがられ、みんなからも畏敬されます。

３３（９）バンパ「山賊ククメット」　 2-33-9-11しばらくするうち、ククメットは一般の注意の的になりました。この山賊の首領については、いろいろ『ずば』ぬけた大胆）な振舞や、見るに忍びない残忍な所業）などが噂）にのぼっておりました。ある日のこと、彼は一人の少女を奪ってきました。それはフロジノーヌの測量師の娘でした。山賊の群れの掟は定まっております。

３３（１０）バンパ「リタの悲鳴」　 2-33-10-13すべてをさとった彼は、杯を引ったくると、それを差し出した男の顔に投げつけ、叫び声のした方へ向かってかけ出しました。彼は、百歩ばかり行った叢の角のところで、ククメットの腕に抱かれ、気をうしなっているリタの姿を見つけました。カルリニの姿を見ると、ククメットは両手にピストルを取って立ちあがりました。二人の山賊は、一瞬互いに睨み合いました。

３３（１１）バンパ「カルリニ万歳」　 2-33-11-37ディアボラチオは、『しん』と静まりかえっているなかへはいっていきました。そして、首領の前にリタをおろしました。と、そのときはじめて、一同には、少女の顔と、男の顔の青かったわけがわかりました。リタは左の乳房の下へ、柄も通れと短刀を突き刺されていたのでした。みんなの眼は、一様にカルリニの上にそそがれました。帯のところには、からの鞘だけが見られました。

３３（１２）バンパ「リタの父親」　 2-33-12-38『よくやってくだすった』と、老人は低い声で申しました。『接吻してもらおう、わしの息子（むすこ）よ』。カルリニは涙にせきこみながら、恋人の父の腕に身を投げ入れました。これこそは、この命知らずの男の流した生まれてはじめての涙でした。『さあ、』と、老人はカルリニに申しました。『これから娘を埋めるのを手伝ってもらおう』。

３３（１３）バンパ「狩られるククメット」　 2-33-13-16こうした話は、バンパとテレザの話のなかにもたびたび出ました。それを聞かされると、娘はひどくこわがりました。だがバンパは、とてもよく当る鉄砲をたたきながら、微笑を浮かべて安心させてやるのでした。それでも娘が心配しますと、彼はそこから百歩ばかり離れたところに、枯枝に止（と）まった鴉）などのいるのを指し、狙い定めて引金を引きます。すると鴉は、たちまち撃たれて、その木の根元に落ちるのでした。

３３（１４）バンパ「カドリーユ」　 2-33-14-18その舞踏会は、もともと伯爵によって、その手中の玉）である娘のカルメラ姫を喜ばすために催されたものでございました。カルメラ姫は、年）かっこうなり身丈なり、ちょうどテレザと同じくらい。そして、テレザは、少なくもカルメラ姫ときそい合えるほどの美しい容色をもっていました。舞踏会の晩、テレザはいちばんきれいな衣装、いちばん贅沢なブローチ、いちばん光るガラスの飾りを身につけました。彼女は、フラスカチの女の着る衣装を持っていました。

３３（１５）バンパ「自分だけの宝物」　 2-33-15-21テレザは、ほとんどカドリーユの人気を一人で背負ってしまいました。テレザがカルメラ姫を羨ましいと思ったように、姫のほうでも、テレザのことを妬ましく思わなかったとは申せません。こうしてテレザの相手を勤めたりっぱな青年は、甘い言葉の言えるだけを言って、さっきテレザを迎いにきた場所、いまバンパがその帰るのを待ちうけていたところまで連れて帰ってまいりました。カドリーユをやっていながらも、少女は二度三度バンパのほうへ眼を投げました。と、その度ごとに、色青ざめ、顔を引きつらしているバンパの姿が見えました。

３３（１６）バンパ「プレゼント」　 2-33-16-41そしてこれらの衣装がどこからきたかを聞くのも忘れ、バンパに礼を言うのも忘れて、化粧室につくりかえられたばかりの洞穴のなかへ飛びこみました。テレザがはいると、その背後（はいご）からバンパが戸を閉めました。と申しますのは、いまいるところからパレストリーナの方角をかくしている小さな丘の頂きに、一人の馬に乗った旅人が、さも路がわからないといったようなようすでちょっと立ち止まり、その姿が、南の国での遠景に特有な、『くっきり』した輪郭で青空に描き出されているのが見えましたからで。

３３（１７）バンパ「船乗りシンドバッド」　 2-33-17-8そこまでくると、バンパはさも皇帝でもするようなおごそかな身ぶりで、三筋の路のうち、旅人のたどる一つの路の方を指しました。『この路なんです』と、彼は申しました。『間（ま）ちがいっこありません』。『さあ、これは褒美だよ』と、旅人は、若い羊飼のほうへ小銭を何枚か出しながら申しました。『けっこうです』と、バンパは手を引っこめながら申しました。『僕は、お役に立ったまでです。それを売り物にしたくはありませんから』。『では、』と旅人は申しました。都会人の奴隷根性と、田舎の人の自尊心とのちがいを、すっかり呑み込んででもいるらしいようすで。『では、金は受けないにしたところで、贈物だったらもらってくれるね？』。『ええ、それなら別です』。

３３（１８）バンパ「二人の晴れ姿」　 2-33-18-28バンパは死骸に近寄りました。そして、それがククメットであることを見てとりました。二人の若い男女に助けられたその日から、ククメットはテレザに心をひかれはじめました。そして、あの娘を、きっとわが物にして見せるぞと誓いました。その日から、彼は娘をねらい始めました。バンパが旅人に道を教えるため、テレザ一人を残して行ったのを見澄ました彼は、時こそ来れと女を奪い、もうこれでわが物になったぞと思った途端、バンパの放った一弾は、狙いたがわず彼の心臓を貫きました。

３３（１９）バンパ「首領に選出」　 2-33-19-51『おれは、お前たちの『かしら』になるつもりでやってきたんだ』と、若者は申しました。山賊どもはカラカラ笑い出しました。『そんなどえらいことを望むなんて、お前いったい何をやってきたんだ？』と、名代がたずねました。『お前たちの『かしら』のククメットのやつをやっつけたのさ。ほら、これがあいつの脱け殻なんだ』と、バンパが申しました。『それからおれは、許嫁の女に婚礼衣裳をやろうと思って、サン・フェリーチェのお邸に火をつけたんだ』。

３３（２０）夜のコリゼーへの道筋　 2-33-20-22「どうだい、アルベール君、」と、フランツは友だちの方を見返りながら言った。「これでも君は、城外の往来を通ってコリゼーへ出かけるつもりなのかね？」。「もちろんさ」と、アルベールは言った。「そのほうが、途中）の景色さえいいんだったなら」。ちょうどそのとき、九時が鳴った。

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引用者：2016/9/20-29　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書