３３（４）パストリーニの警告(けいこく)

2-33-4-1「そうそう、じつはこういうわけでございまして。2-33-4-2あの、八時に馬車をお申しつけになりましたな？」。 2-33-4-3「そのとおり」。 2-33-4-4「あの、コロセオへいらっしゃいますので？」。 2-33-4-5「というのは、コリゼーのことかい？」。 2-33-4-6「おなじことなんでございますよ」。 2-33-4-7「そうなのさ」。 2-33-4-8「で、ポポロ門を出て、城壁についてまわって、サン・ジョバンニ門からお帰りになるように馭者（ぎょしゃ）にお申しつけになりました？」。 2-33-4-9「そう言いつけたんだが」。 2-33-4-10「ところがでございます。その御道中（ご・どうちゅう）はいけませが」。 2-33-4-11「いけない！」。 2-33-4-12「でないにしても、ひじょうに危険でございますが」。 2-33-4-13「危険！というのはどういうわけだね？」。 2-33-4-14「名高（なだか）いルイジ・バンパが出ますんで」。 2-33-4-15「まず亭主、その名高いルイジ・バンパとは何者（なにもの）だね？」と、アルベールがたずねた。2-33-4-16「なるほどローマでは名高いかもしれない。2-33-4-17だが、ちょっと断っとくが、パリでは誰も知ってやしないんだぜ」。 2-33-4-18「なんとおっしゃいます！2-33-4-19御存（ごぞん）じない？」。 2-33-4-20「存じあげ奉（たてまつ）っていないのさ」。 2-33-4-21「名前も御存じありません？」。 2-33-4-22「知らんね」。 2-33-4-23「では申しあげますが、デセラリスやガスパローネなんか足もとにもおよばないほどの山賊（さんぞく）なんでございまして」。 2-33-4-24「気をつけろよ、アルベール！」と、フランツが叫んだ。2-33-4-25「いよいよ山賊とおいでなすったぜ！」。 2-33-4-26「念のために言っとくが、亭主、これからお前のしゃべることはなに一つ真（ま）に受けないぜ。2-33-4-27さ、その約束さえできたら、話したいだけ話すがいい。2-33-4-28聞こう。2-33-4-29『昔（むかし）、昔、あるところに・・・・』と。2-33-4-30さあ、はじめないか！」。 2-33-4-31亭主は、二人の青年のなかでも、特にふんべつのあるらしいフランツの方（ほう）を向いた。2-33-4-32亭主の立場（たちば）もいくぶん認めてやらなければならなかった。2-33-4-33彼は、いままでずいぶんフランス人を泊（と）めてきたが、フランス人の『じょうだん』好きな一面（いちめん）だけはなんとも理解できずにいた。2-33-4-34「閣下！、」と、彼はいまも言ったように、フランツのほうを向きながら言った。2-33-4-35「もしもわたくしを嘘（うそ）つきだと思い込んでおいででしたら、なにも申しあげないことにいたしましょう。2-33-4-36が、これはたしかに、閣下がたのおためを思ってのことなんでございますが」。 2-33-4-37「アルベールは、なにも君（きみ）のことを嘘つきだと言ってるんじゃないのさ」と、フランツが言った。2-33-4-38「ただ君の言うことを真に受けないと言ったまでさ。2-33-4-39ところが僕は、君の言うことを真に受けてる。2-33-4-40安心（あんしん）しろよ。2-33-4-41さ、話したり」。2-33-4-42「でも閣下、ほんとのことを申しあげているこのわたくしをお疑いになりますようでは・・・・」。2-33-4-43「君（きみ） 、」と、フランツは言った。2-33-4-44「君はカサンドル（神話中の人物：トロイの王子パリスの妹：通称カサンドラ）より神経質だね。2-33-4-45カサンドルは予言者だった。2-33-4-46だが、誰にも耳を貸してもらえなかった。2-33-4-47ところが君は、だ、少なくも君は聞き手の半数（はんすう）だけはちゃんと味方（みかた）にもっているわけだ。2-33-4-48さ、腰を掛けた。2-33-4-49そしてバンパ君（くん）の話を聞こう」。2-33-4-50「さっきも申しあげましたとおり、閣下、それはあの名高（なだか）いマストリラこのかた見たことのないほどの山賊なんでございまして」。 アポロドロス「ギリシャ神話」 E-5-17カサンドラがその内部に武装の勢があると言い、さらに予言者ラオコンもそう言ったので、一部の者は焼き払うべし、一部の者は断崖より投ずべしと言った。しかし大部分の者はこれを神への奉献物としてそのままにおおくべきであると考えたので、犠牲に取りかかり、宴を張らんとした。

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引用者：2016/9/22　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義