３３（１１）バンパ「カルリニ万歳(ばんざい)」

2-33-11-1『籤引（くじびき）きだ！籤引きだ！』と、首領を見るなり山賊どもはわれもわれもと叫びました。2-33-11-2彼らの眼は乱酔（らんすい）と淫欲（いんよく）に輝（かがや）き、体（からだ）は燃（も）えさかる焚火（たきび）の赤い光に照らしだされて、まるで悪鬼（あっき）さながらでした。2-33-11-3みんなの望（のぞ）みはもっともでした。2-33-11-4それで、首領（しゅりょう）は頭（あたま）でちょっと合図（あいず）をして、一同（いちどう）の願いを聞き入れたことを知らせました。2-33-11-5みんなの名札（なふだ）が帽子（ぼうし）のなかに入れられました。2-33-11-6そしてカルリニの名も、他（ほか）の連中の名といっしょに入れられました。 2-33-11-7一団（いちだん）の中の一番若い男が、その即席（そくせき）の籤函（くじばこ）の中から籤の紙を取り出しました。2-33-11-8それにはディアボラチオの名が記されていました。2-33-11-9それは、さっきカルリニに首領の健康を祝わせようとして、その返事に、カルリニから顔に杯を叩（たた）きつけられた男でした。2-33-11-10こめかみから口にかけての大きな傷口（きずぐち）からは、血がこんこんと流れていました。2-33-11-11ディアボラチオは、こうして自分がうまい運を引きあてたのを見て、カラカラと笑いました。 2-33-11-12『かしら、』と、彼は、言いました。2-33-11-13『さっきカルリニは、あんたの健康のためには飲（の）まんと言いましたぜ。2-33-11-14ひとつあっしの健康のために飲ましてやってくださらんか。2-33-11-15あっしのためなら、あんたよりはいくらか楽な気持になってくれましょうから』。2-33-11-16一同は、カルリニが憤然（ふんぜん）として猛（たけ）り立つこととばかり思っていました。2-33-11-17ところが驚（おどろ）いたことには、彼は片手（かたて）に杯（さかずき）を取り、片手に瓶（びん）を手にして、杯に一ぱいつぎながら、2-33-11-18『ディアボラチオ、おぬしの健康のためだ』　と、落ちつきはらった声で言いました。2-33-11-19そして、手元（てもと）に顫（ふる）えも見せず、その杯を飲み干（ほ）しました。2-33-11-20やがて、彼は焚火（たきび）のそばに座（ざ）を占（し）めて、『おれの晩飯（ばんめし）はどこにあるんだ！』と言いました。2-33-11-21『駈（か）けずりまわって腹（はら）が減（へ）った』。 2-33-11-22『カルリニ万歳（ばんざい）！』と、山賊どもは叫びました。2-33-11-23『みごとみごと。2-33-11-24それこそ友だちがいっていうもんだ』。2-33-11-25みんなは、ふたたび焚火のまわりに輪（わ）をつくりました。2-33-11-26そしてディアボラチオは出ていきました。2-33-11-27カルリニは、さもなにごともなかったようすで、食く）ったり飲（の）んだりしていました。2-33-11-28山賊どもは、その落ちついたようすに合点（がてん）がゆかず、ただ驚いて見つめていました。2-33-11-29そこへ後（うしろ）のほうから、地響（じひび）きたてる重（おも）い足音（あしおと）が聞こえました。2-33-11-30みんなはふり返りました。 2-33-11-31そして少女を腕（うで）に抱えたディアボラチオの姿を見つけました。2-33-11-32女は頭を仰向（あおむ）けにしていました。2-33-11-33そして、その長い髪（かみ）の毛は地にまで垂（た）れていました。2-33-11-34その二人の姿が、焚火の投げる光の円（えん）のなかにはいってきたとき、みんなは少女の顔のまっ青（さお）なのと、男の顔のまっ青なのに気がつきました。2-33-11-35突然（とつぜん）あらわれたこの姿の、いかにも気味（きみ）の悪（わる）い、いかにも『しん』としているのに、みんなは思わず立ちあがりました。2-33-11-36ただカルリニだけが坐ったままで、さも身のまわりになにごともなかったといったように、飲み食いをつづけておりました。 2-33-11-37ディアボラチオは、『しん』と静まりかえっているなかへはいっていきました。2-33-11-38そして、首領の前にリタをおろしました。2-33-11-39と、そのときはじめて、一同には、少女の顔と、男の顔の青かったわけがわかりました。2-33-11-40リタは左の乳房（にゅうぼう）の下へ、柄（え）も通（とお）れと短刀（たんとう）を突（つ）き刺（さ）されていたのでした。2-33-11-41みんなの眼（め）は、一様（いちよう）にカルリニの上にそそがれました。2-33-11-42帯（おび）のところには、からの鞘（さや）だけが見られました。 2-33-11-43『ははあ!』と、首領は言いました。2-33-11-44『これでカルリニがあとに残ったわけがわかったぞ』。2-33-11-45気立（きだ）ての荒（あら）い連中には、思い切った所業（しょぎょう）の意味もわかるのでして。2-33-11-46山賊どもの誰一人（だれひとり）、おそらくカルリニのような真似（まね）はできなかったことでしょうが、カルリニのやったことだけはわかりました。 2-33-11-47『どうだ！』と、カルリニは立ちあがり、ピストルの一つに手をかけながら死骸（しがい）のほうへ歩み寄（よ）りながら申しました。2-33-11-48『誰か、まだおれとこの女を張合（はりあ）おうという奴（やつ）がいるか？』。2-33-11-49『ないよ、』と、首領は言いました。2-33-11-50『女はお前にくれてやらあ！』。2-33-11-51カルリニは、女を抱（かか）え、焚火の照らし出されている光の外へ運びました。

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引用者：2016/9/25　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義