３３（９）バンパ「山賊ククメット」

2-33-9-1テレザは十七（じゅうなな）、バンパは十八（じゅうはち）になりました。2-33-9-2ちょうどその頃、レピニ山の山賊（さんぞく）のことが大評判（だいひょうばん）になりかけていました。2-33-9-3山賊というやつは、ローマ附近で、いままでついぞ根絶（ねだ）やしにされていませんのでして。2-33-9-4なるほど首領（しゅりょう）のいないということはあります。2-33-9-5ですが、一度（いちど）首領が出てくると、部下（ぶか）に事欠（ことか）くようなことはないのでして。2-33-9-6あの名高いククメットは、アブリュツで駆（か）りたてられ、まるで本式（ほんしき）の戦争のようなことまでやったあとでナポリ王国を追われ（おわれ：本は逐われ）、マンフレッド（シチリヤの王）のようにガリリアノ（イタリーの川の名）を渡って、ソンニノとジュペルの間（あいだ）、アマシヌ河の畔（ほとり）に逃れてきました。 2-33-9-7この男が、一つの徒党（ととう）を作ろうと思いたちました。2-33-9-8そして、やがてはデケサリスやガスパローネを凌駕（りょうが）するつもりで、彼らの歩んだ道をたどりました。2-33-9-9パレストリーナ、プラスカチ、それにパンピナーラでは、幾人家の若者が姿を消してしまいました。2-33-9-10はじめのうちはみんな心を痛めましたが、やがて彼らが、ククメットの一党（いっとう）に馳（は）せ参（さん）じたということがわかりました。2-33-9-11しばらくするうち、ククメットは一般の注意の的（まと）になりました。2-33-9-12この山賊の首領については、いろいろ『ずば』ぬけた大胆（だいたん）な振舞（ふるまい）や、見るに忍（しの）びない残忍（ざんにん）な所業（しょぎょう）などが噂（うわさ）にのぼっておりました。 2-33-9-13ある日のこと、彼は一人の少女を奪ってきました。2-33-9-14それはフロジノーヌの測量師（そくりょうし）の娘でした。2-33-9-15山賊の群れの掟（おきて）は定（さだ）まっております。2-33-9-16女は、まずそれを奪ってきた者の所有（しょゆう）になります。2-33-9-17それから他の者は籤（くじ）を引きます。2-33-9-18そして、かわいそうな女は、山賊たちから棄（す）てられるか、或いは当人（とうにん）が死んでしまうときまで、一団（いちだん）こぞっての慰（なぐさ：本は弄）み者になるのです。 2-33-9-19もしも女の両親（りょうしん）が、その女を買うだけ裕福（ゆうふく）だったときには、身代金（みのしろきん）を出させる談判（だんぱん）に使者（ししゃ）を出します。2-33-9-20使者の命（いのち）が危（あや）うくでもされると、女の命にかかわります。2-33-9-21そして、身代金が拒（こば）まれたときは、女はなんといっても取り返しのつかない宣告（せんこく）を受けます。 娘の恋人カルリニ 2-33-9-22その娘は、ククメットの一団のなかに恋人（こいびと）をもっていました。2-33-9-23それはカルリニという男でした。2-33-9-24男のいるのに気がつくと、娘はそのほうへ手を差し伸べて、もう助かったものと思いました。2-33-9-25だが、気の毒（どく）なカルリニは、女の姿を見ると同時に胸が張（は）り裂（さ）けるように思いました。2-33-9-26それは、自分の恋人がこれからどういう目に遭（あ）わされるか、想像（そうぞう）することができましたので。2-33-9-27だが彼は、ククメットの気に入りであり、三年このかた苦難（くなん）をともにし、かつて、いまにも首領の頭上（ずじょう）に刃（やいば）を打ちおろそうとしていた兵士をピストルで打ち倒して命を救ってやったこともあるというので、おそらくククメットが、自分に同情（どうじょう）してくれるだろうと思っていました。 2-33-9-28で、彼は首領を物陰（ものかげ）に呼びました。2-33-9-29そのあいだ、彼女は森の空地（あきち）の真中（まんなか）の大きな松の幹（みき）によりかかって坐り、ローマの百姓娘（ひゃくしょう・むすめ）の美しい被り物（かぶりもの）をベール代わりにして、山賊どものいやらしい眼つきから、顔をかくしていたのでした。 2-33-9-30そこで、彼はすべてを語りました。2-33-9-31捕えられた娘との恋、いつまでも変るまいという二人の誓い、そしてお互いが近くにいるようになってからというもの、どういうふうにして毎晩、或る廃墟（はいきょ）のところで逢引（あいびき）をしていたかということなどを話しました。 2-33-9-32じつはその晩、カルニリは、ククメットの言いつけで、近所の村まで使いにやらされていたのでした。2-33-9-33それで彼は、逢引（あいびき：デート）に行くことができなかったというわけでした。2-33-9-34ククメットの話では、彼が偶然（ぐうぜん）そこへ行きあわせ、娘を誘拐（ゆうかい）したのだということでした。 娘の名はリタ 2-33-9-35カルニリは首領に向かって、自分のために一つ特例（とくれい）を聞いてほしい、そしてリタに手をつけないでほしい、なにしろ父親は金持だし、莫大（ばくだい）な身代金を払うにちがいないからと頼みました。2-33-9-36ククメットは、その歎願（たんがん）を承知（しょうち）してくれたようなようすでした。2-33-9-37そして、フロジノーヌにいるリタの父のところへ行かせるため、羊飼いを見つけてこいと言いつけました。2-33-9-38そこで、カルリニは喜（よろこ）び勇（いさ）んで少女に近づき、もう助かったと言い聞かせました。2-33-9-39そして父に宛（あ）てた手紙を書かせ、その身の上に起こったこと、身代金は三百ピアストル（３００X１０X１０００＝３００万円）だと言ってやらせることにしました。 2-33-9-40父にたいしての猶予（ゆうよ）期限（きげん）は十二時間、すなわち、その翌朝の九時までということになっていました。2-33-9-41手紙を書き終わると、カルリニはすぐさまそれをもって、使いに行くものを探（さが）そうと、原のなかをかけまわりました。2-33-9-42彼は、ちょうど羊の群れを囲いに入れようとしていた若い羊飼いを見つけました。2-33-9-43山賊どもの使いは、町と山の間、未開（みかい）の生活と文明（ぶんめい）の生活との間に暮らしている羊飼いということに自然に定まっているのでして。2-33-9-44若い羊飼いは、一時間とたたないうちにフロジノーヌに行くことを約束して、すぐに出かけて行きました。

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引用者：2016/9/23　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義