３３（１０）バンパ「リタの悲鳴」

2-33-10-1カルリニは、一刻（いっこく）も早くこの吉報（きっぽう）を恋人に知らせてやろうと思って、喜びに胸を躍（おど）らせながら帰ってきました。2-33-10-2彼は空地（あきち）のところに自分たちの一団（いちだん）を見つけました。2-33-10-3みんなは、百姓（ひゃくしょう：農民）たちから年貢（ねんぐ）として、まき上げてきたもので、にぎやかに夕食をとっていました。2-33-10-4こうした陽気（ようき）な連中（れんちゅう）のなかに、彼はククメットとリタの姿を求めました。2-33-10-5だが、それはどこにも見あたりません。 2-33-10-6彼は、二人がどこにいるのかをたずねました。2-33-10-7すると、山賊（さんぞく）どもはみんなカラカラ笑（わら）い出しました。2-33-10-8冷（つめ）たい汗（あせ）がカルリニの額（ひたい）を流れました。2-33-10-9そして、彼はぞっとするような不安におそわれました。2-33-10-10彼は、ふたたび問いをくり返しました。2-33-10-11と、一人の男は杯（さかずき）になみなみとオルビエトの葡萄酒をみたし、それを彼のほうへさし出しながら、『勇（いさ）ましいククメットと美しいリタの健康（けんこう）のために！』と言うのでした。 2-33-10-12ちょうどこのとき、カルリニは女の叫び声をきいたように思いました。2-33-10-13すべてをさとった彼は、杯を引ったくると、それを差し出した男の顔に投げつけ、叫び声のした方へ向かってかけ出しました。2-33-10-14彼は、百歩（ひゃっぽ）ばかり行った叢（くさむら）の角（かど）のところで、ククメットの腕に抱かれ、気をうしなっているリタの姿を見つけました。 2-33-10-15カルリニの姿を見ると、ククメットは両手にピストルを取って立ちあがりました。2-33-10-16二人の山賊は、一瞬（いっしゅん）互（たが）いに睨（にら）み合いました。2-33-10-17一人は、唇に淫楽（いんらく）の微笑（ほほえみ）を浮かべながら。2-33-10-18他の一人は、額（ひたい）の上に死の青白（あおじろ）さを浮（う）かべながら。2-33-10-19まさに二人のあいだには、なにか恐ろしい幕（まく）が切って落とされそうなけはいでした。2-33-10-20が、だんだんカルリニの顔はゆるみました。2-33-10-21帯（おび）のピストルの一つにかかっていた手は、だらりとわきに垂（た）れました。 2-33-10-22リタは二人のあいだに横たわっていました。2-33-10-23その場を月光（げっこう）が照（て）らしていました。2-33-10-24『どうした！』と、ククメットが言いました。2-33-10-25『言いつけたことをやって来たか？』。2-33-10-26『やりました！』と、カルリニは答えました。2-33-10-27『明日（あす）九時前に、リタの父親（ちちおや）は金（かね）を持ってやってくるはずです』。2-33-10-28『それはよかった。2-33-10-29ま、それまで愉快（ゆかし）な一夜（いちや）を過ごしとしよう。2-33-10-30娘（むすめ）はべっぴんだ。2-33-10-31カルリニ、お前もなかなかいい趣味（しゅみ）をもってるな。2-33-10-32ところで、おれは利己（りこ）主義者（しゅぎしゃ）ではないことだし、これからみんなのところへ戻って行って、今度は誰のものになるか籤（くじ）を引かせることにしようや』。 2-33-10-33『では、あなたは、女を一般の掟（おきて）どおりにさせようと言うのですかい？』と、カルリニがたずねました。2-33-10-34『といって、どうしてこの女だけを特別（とくべつ）あつかいにできるもんか』。2-33-10-35『あれほどお頼（たの）み申したのに・・・・』。2-33-10-36『といって、お前と他の者とどれだけちがうと思ってるんだ？』。2-33-10-37『それはそうです』。2-33-10-38『まあ落ちつけよ』と、ククメットは笑いながら言ったのでした。2-33-10-39『遅（おそ）かれ早（はや）かれ、お前のばんもやってくるから』。2-33-10-40カルリニは砕（くだ）けよとばかり歯を喰（く）いしばりました。 2-33-10-41『どりゃ、』と、ククメットはみんなのいるほうへ一足（ひとあし）歩きながら言いました。2-33-10-42『行くとするかな？』。2-33-10-43『後から行きます・・・・』。2-33-10-44ククメットは、カルリニから眼を放（はな）たずに立ち去りました。2-33-10-45うしろからやられることを、たしかに恐れていたのでした。2-33-10-46ところが、カルリニには、そうした敵意（てきい）もなさそうでした。2-33-10-47男は腕組（うでく）みをして、気絶（きぜつ）したままのリタのそばに立っていました。2-33-10-48ふとククメットは、若者が、女を抱（かか）えて逃（に）げ出しはしまいかと考えました。 2-33-10-49だが、自分の思うものをリタから奪（うば）ってしまったいま、それも大（たい）したことではないのでした。2-33-10-50金（かね）にしたって、三百ピアストル（３００万円）をみんなに分けることにしたら、ほとんど取るにも足りない額（がく）で、問題にさえもなりませんし。2-33-10-51彼は、空地（あきち）のほうへ歩いていきました。2-33-10-52ところが、驚いたことには、カルリニは時をうつさず彼の後からやってきました。

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引用者：2016/9/24　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義