３３（２０）夜のコリゼーへの道筋

2-33-20-1「どうだいアルベール君、」と、フランツは友だちの方をふり返って言った。2-33-20-2「さて、わが友ルイジ・バンパ君のことをどう思うね？」。2-33-20-3「神仙譚（しんせん・たん：つくりばなし）だよ」と、アルベールは答えた2-33-20-4「そんな人間なんかいなかったのさ」。2-33-20-5「神仙譚とはどんなことでございます？」と、亭主がきいた。2-33-20-6「そいつを君にわからせるには時間がかかるさ」と、フランツが答えた。2-33-20-7「で、そのバンパ親分（おやぶん）が、いまこのローマ近在（きんざい）で商売（しょうばい）をやっておられるって言うわけなんだな？」。2-33-20-8「いままでどんな山賊もやらなかった、大胆（だいたん）不敵（ふてき）なことをやらかしているんでございますよ」。 2-33-20-9「で、警察（けいさつ）のほうでも手の下（くだ）しようがないって言うのか？」。2-33-20-10「どうできるこってござんしょう。2-33-20-11野原（のはら）にいる羊飼いや、チベール（テベレ？）川の漁師たちや、沿海（えんかい）の密輸入者たちとぐるになっていますんですから。2-33-20-12山のほうへ手を入れると川に出る。2-33-20-13川のほうを追いかけると海へ出る。2-33-20-14ジリオ、グワヌーチ、モンテ・クリスト島なんかにかくれたと思っていますと、たちまちアルバノ、チボリ、リチアなんかに姿をあらわすんでございますから」。2-33-20-15「ところで、旅人にたいして、どんなことをするって言うんだ？」。 2-33-20-16「いや、それは至（いた）ってかんたんなんでございまして。2-33-20-17町からどれくらい離れているかで、或いは八時間、或いは十時間、或いは一日（いちにち）の猶予（ゆうよ）をやって、身代金（みのしろきん）を払（はら）わせるんでございまして。2-33-20-18その時間が過ぎると、一時間の延期（えんき）をくれます。2-33-20-19その一時間の六十分（ろくじゅっぷん）目（め）がたちましても、まだ金（かね）ができないあかつきには、つかまえた男の頭にピストルを一発（いっぱつ）撃（う）ちこみます。2-33-20-20でなければ、心臓（しんぞう）に短刀（たんとう）を突（つ）き刺（さ）します。2-33-20-21これで万事（ばんじ）終りでございますんで」。 2-33-20-22「どうだい、アルベール君、」と、フランツは友だちの方を見返りながら言った。2-33-20-23「これでも君は、城外（じょうがい：ローマの城壁）の往来（おうらい）を通ってコリゼーへ出かけるつもりなのかね？」。2-33-20-24「もちろんさ」と、アルベールは言った。2-33-20-25「そのほうが、途中（とちゅう）の景色（けしき）さえいいんだったなら」。2-33-20-26ちょうどそのとき、九時が鳴った。 2-33-20-27戸があいて馭者（ぎょしゃ）が顔を出して、「御前、」と言った。2-33-20-28「お馬車が待っております」。2-33-20-29「よしきた、」と、フランツが言った。2-33-20-30「ではコリゼーへ出かけようぜ！」。2-33-20-31「ポポロ門を出ますか、それとも町を通ってまいりますか？」。2-33-20-32「町だ、畜生（ちくしょう）（意味：人をののしって、また、怒ったときやくやしいときに発する言葉）！2-33-20-33町を通ることにするんだ！」と、フランツがどなった。2-33-20-34「やれやれ！」と、アルベールは自分も立ちあがって、三番目の葉巻（はまき：タバコの種類名）に火をつけながら言った。2-33-20-35じっさい僕（ぼく）は、君（きみ）がもっと大胆（だいたん）だとばかり思っていたぜ」2-33-20-36こう言いながら、二人の青年は階段（かいだん）をおりて馬車に乗った。

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引用者：2016/9/29　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会