１７章「司祭の室」

隣人の信頼を得たダンテスは、彼の室に入ることが許された。彼の知識と行動力に感嘆したダンテスは、その明晰な頭脳をもってすれば、自分の不幸の原因をつきとめられるのではと考えた。果たして、その犯罪が、フェルナン（横恋慕）、ダングラール（確執）、ビルフォール（自己防衛）の得る利得のために行われたことを知った。

目次

１７（１）地球の二つの運動　1-17-1-6一見したところ、室にはなんのふしぎも見られなかった。「よし」と、司祭は言った。「まだ十二時十五分。これからまだ五六時間ある」。ダンテスはあたりを見まわした。どこの時計で司祭がこれほど正確に時間を読んだのか、それを知ろうとしてだった。

１７（２）六十八本の巻物　1-17-2-8シャツ二枚、それと持っていただけのハンケチでこれを作った。もしわしが自由の身になれ、イタリーに、あえてこれを印刷しようという印刷者が出たら、わしの名声は立ちどころに成るのだ」。「なるほど、」と、ダンテスは答えた。「それはよくわかります、では、この著述にお使いだったペンというのをお見せください」。

１７（３）司祭の宝の数々　1-17-3-30ダンテスは、梯子を見ているようなようすをしながら、まったくほかのことを考えていた。一つの考えが心に浮かんだ。それは、これほど聡明な、これほど利発な、これほど考えの深い老人だったら、自分にもわからずにいるわが身の不幸が、きっと見通されるにちがいないということだった。

１７（４）頭の使い方　1-17-4-21二番目のほうはどういうことかな？」。「あなたは、わたしに身の上話を聞かせてくださいました。だが、あなたのほうでは、このわたしの身の上を御存じないということです」。「あなたの身の上といったところで、なにしろあなたはお若いことだ、大したことはおありになるまい」。「とても不幸なことがあるのです」と、ダンテスが言った。

１７（５）犯罪の利得者　1-17-5-14あなたがいなくなることによって、誰か利得する者があったかな？」。「誰も利得などはしません。わたしごとき、取るにたりない人間でしたから」。「そうした返事をしてはいけない。そこには、論理と哲学と、双方ともに欠けている。

１７（６）船長就任阻止の感情　1-17-6-18「もしあなたが船長になったとして、その男を元の位置においただろうかね？」。「おきますまい、もしそれがわたしの自由にできるのでしたら。その男の計算には、どうも不正があるように思っていました」。「よろしい。では、あなたとルクレール船長との最後の話に、誰か立ち会った人があったかな？」。

１７（７）告訴状の筆跡　1-17-7-19「ダングラールの平素の書体はどんなだった？」。「見事な草書体です」。「で、その手紙の書体は？」。「逆にのめった書体でした」。司祭は微笑を浮かべた。「偽筆をやったんだな？」。「偽筆にしては達筆に書いてありました」。「ちょっと」と、司祭は言って、ペンというより、彼がペンと呼んでいるものを手にして、それをインキにひたしながら、紙代わりの布の上に、告訴文のはじめの二三行を左手で書いてみせた。

１７（８）インキ壷と紙とペン　1-17-8-24「どうした？」。「わたしの披露の前々日に、二人がパンフィル爺さんのところの「あずまや」のかげで、いっしょにテーブルについているのを見かけました。ダングラールは、親しげなようすで「じょうだん」を言っていましたが、フェルナンは、浮かない顔で、なにかおどおどしていました」。「二人きりだったか？」。

１７（９）受刑の不条理について　1-17-9-33「というのは？」。「わたしを危険にさらす、そのたった一つの書類を焼いてしまってくれました」。「なにを？告訴状をか？」。「いいえ、手紙をです」。「たしかかな？」。「見ている前でやったのです」。「すると、問題は変わってくるぞ。その男は、あなたの考えている以上の悪党だな」。

１７（１０）ノワルティエ？　1-17-10-19気の毒に！検事代理は、親切だったとお言いだったな？」。「ええ」。「その見上げた検事代理は、手紙を焼いて、それをなくしたとお言いだったな？」。「ええ」。「その正直な首切り役人の元締先生、ノワルティエという名を決して口に出すなと誓わせたとお言いだったな？」。

１７（１１）哲学は輝く雲　1-17-11-38「では、その哲学を習えましょうか？」。「哲学は習えぬ。哲学とは、学問の用を知っている天才のみにゆるされるあらゆる学問の総和なのだ。哲学とは、輝きわたる雲だ。キリストが天に昇ったのも、つまりこの雲に足をかけたからのことなのだ」。

１７（１２）ファリア獄中大学　1-17-12-5「なにからなにまで教えてあげよう！」と、司祭は言った。まさに二人は、その夜のうちに教案をきめて、翌日すぐに実行にかかった。ダンテスは、驚くべき記憶力と素晴しい理解力を持っていた。

１７（１３）時は金なり　1-17-13-42そのあいだ、仕事をする一方（いっぽう）、ファリアはダンテスのための教育を続け、或る時は、一つの国語で語りかけると思えば、また他の時はべつの国語で語りかけ、そして、諸々の国民や偉大な人物の業績、その後に、ところどころ光栄と呼ばれる、輝きわたった痕跡を残している歴史というものを教えてやった。

１７（１４）司祭の発作対処法　1-17-14-39このことが大切だ。1-17-14-40聞きつけられたら、室を取りかえられるにちがいないから。1-17-14-41そうでもなったら、お互い永遠に離ればなれだ。1-17-14-42わしの体が動かなくなり、冷たくなり、いわば死んだようになったら、いいか、そのときわしの歯を『小刀』でこじあけ、わしの口にこの薬を八滴から十滴ほど流しこんでもらおう。

１７（１５）司祭の宿命　1-17-15-79このわしは、自由になれる日まで、ここに残っているつもりだ。といったところで、もうこうなれば臨終の時を待つよりほかにないのだが。だが、あなたは、ここを逃げるがいい！年（とし）も若い。敏捷でもあるし、力もおありだ。わしのことなら心配無用だ。あなたとの約束もこれきりだ」。

１７（１６）青年の心底かくや　1-17-16-9「よろしい」と、老人は言った。「御好意を受けよう。ありがとう」。そしてダンテスのほうへ手を出しながら、「わが身の利害をすててのそうした親切について、あなたは酬いをお受けになろう。

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引用者：2016/5/21　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会