１７（１）地球の二つの運動

1-17-1-1身をかがめてとおらなければならなかったが、かなりわけなく地下の通路をとおって、ダンテスは司祭の室まで通じている穴の向こうへいった。1-17-1-2そこまで行くと、路（みち）は狭くなって、人（ひと）ひとりが腹ばいになって抜けて行かれるくらいの広さしかなかった。1-17-1-3室は石だたみになっていた。1-17-1-4司祭は、その石だたみのいちばん薄暗（うすぐら）い隅（すみ）にあった一枚の石を上げて、さっきダンテスがその結果を見せられたあの難事業（なん・じぎょう）をはじめたというわけだった。1-17-1-5室にはいって立ちあがるやいなや、ダンテスは深い注意をこめて室のなかをながめた。 1-17-1-6一見（いっけん）したところ、室にはなんのふしぎも見られなかった。1-17-1-7「よし」と、司祭は言った。1-17-1-8「まだ十二時十五分。これからまだ五六（ご・ろく）時間ある」。1-17-1-9ダンテスはあたりを見まわした。1-17-1-10どこの時計で司祭がこれほど正確に時間を読んだのか、それを知ろうとしてだった。1-17-1-11「この窓から射しこむ日射（ひざ）しを見てごらん」と、司祭が言った。 1-17-1-12「そして、壁の上にわしの引いておいた線を見る。1-17-1-13地球の運動と、地球が太陽の周（まわ）りに描く楕円形（だえんけい）の運動との二つを組み合わせたこの線のかげで、わしには、時計よりずっと正確に時間を知ることができる。1-17-1-14なぜかというと、時計には、狂うということがある。1-17-1-15だが、太陽と地球はぜったい狂ったりしないからだ」。 1-17-1-16ダンテスには、この説明がぜんぜん理解できなかった。1-17-1-17彼は、太陽が山々の後（うしろ）から昇って地中海のなかに沈んで行くのを見ながら、それは太陽が動くので、地球が動くのではないといつも思っていた。1-17-1-18自分がその上に住んでいながら気がつかずにいたこの地球の二つの運動、それは、彼にとってほとんどあり得ないことのように思われた。 1-17-1-19彼は、相手（あいて）の言葉の一つ一つのなかに、まだ自分がほとんど子供のじぶん、ギュサラトやゴルコンドへの旅をしたとき、金鉱（きんこう）やダイヤモンド鉱の発掘（はっくつ）を見たときと同じような、じつにすばらしい学問のふしぎを見せられた。1-17-1-20「で、」と、彼は司祭に言った。1-17-1-21「早くあなたの宝物を見せていただきたいと思いますが」。1-17-1-22司祭は炉のほうへ歩いて行きながら、いつも手にしていたのみで、むかしの火床（ひどこ）だったところ、そこにかなり深い穴がかくれている一枚の石を取りのけた。1-17-1-23この穴のなかに、さっきダンテスに話してきかせたいろいろな物がしまってあった。

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引用者：2016/5/21　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書