１７（９）受刑の不条理について

1-17-9-1「もっとほかに知りたいことがおありかな？」と、笑いながら司祭が言った。1-17-9-2「ええ、ええ。1-17-9-3あなたはなんでも深くお考えになって、どんなことでもはっきりおわかりです。1-17-9-4だから、わたしがなぜ一度だけしか訊問（じんもん）されなかったか、なぜ裁判（さいばん）にかけられなかったか、そして、なぜ判決なしにこんな刑を申し渡されたのか、どうかそれをお教えください」。 1-17-9-5「ほほう、」と、司祭は言った。1-17-9-6「これは少々むずかしいな。1-17-9-7裁判というものは、とかく曖昧（あいまい）な、わからぬゆき方（かた）をするもので、正体（しょうたい）をつきとめることはむずかしい。1-17-9-8これまでの、二人（ふたり）」の友だちについてのことは、いわば遊びごとも同じだった。1-17-9-9だが、今度のことは、これはじゅうぶん的確（てきかく）な材料を知らせてもらわないと困るのだが」。 1-17-9-10「では、おたずねください。1-17-9-11何しろあなたは、わたし以上にわたしの身の上をはっきりおわかりになるのですから」。1-17-9-12「あなたを訊問したのは誰だったね？1-17-9-13検事かな、検事代理かな、予審判事かな？」。1-17-9-14「検事代理でした」。1-17-9-15「若い男か、年をとった男か？」。 1-17-9-16「若い男でした。1-17-9-17二十七八（にじゅう・しち・はち）の」。1-17-9-18「よろしい！1-17-9-19まだ腐敗はしていまい。1-17-9-20だが、野心（やしん）だけは持つ年ごろだ」と、司祭が言った。 1-17-9-21「あなたにたいして、その態度はどうだった？」。 1-17-9-22「厳格というより、むしろ親切に思われました」。 1-17-9-23「あなたは、すべてをお話しだったか？」。 1-17-9-24「なにからなにまで」。 1-17-9-25「その男のようすは、尋問中変わったりしたことはなかったか？」。 1-17-9-26「変わりました。1-17-9-27それは、わたしを危険なものにしたあの手紙を読んでいたときでした。1-17-9-28まるで、わたしの不幸を悲しんでくれてでもいるようでした」。 1-17-9-29「あなたの不幸を？」。 1-17-9-30「そうです」。 1-17-9-31「あなたは、その男が、たしかにあなたの不幸を嘆いていてくれたと思うかね？」。 1-17-9-32「とても同情してくれていたのですが」。 1-17-9-33「というのは？」。 1-17-9-34「わたしを危険にさらす、そのたった一つの書類を焼いてしまってくれました」。 1-17-9-35「なにを？告訴状をか？」。 1-17-9-36「いいえ、手紙をです」。 1-17-9-37「たしかかな？」。 1-17-9-38「見ている前でやったのです」。 1-17-9-39「すると、問題は変わってくるぞ。1-17-9-40その男は、あなたの考えている以上の悪党（あくとう）だな」。1-17-9-41「それをうかがってふるえあがらずにはいられません。1-17-9-42では、この世の中は、猛獣毒蛇でいっぱいだとでもいうのでしょうか？」。1-17-9-43「そうなのだ。1-17-9-44しかも二本足の猛獣毒蛇は、ほんとのやつよりも恐ろしいのだ」。 1-17-9-45「つづけましょう」。1-17-9-46「よかろう。1-17-9-47で、その男は手紙を焼いたとお言いだったな？」。1-17-9-48「そうです。1-17-9-49そしてわたしに言いました。1-17-9-50『ほら、君にたいしてはこの証拠（しょうこ）があるだけだ。1-17-9-51それをこのとおり焼いてしまうぞ』」。1-17-9-52「すなおにやったことにたいしては、どうもおりっぱすぎるようだな」。1-17-9-53「そうお思いになりますか？」。

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引用者：2016/5/22　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書