１７（１０）ノワルティエ？

1-17-10-1「たしかにそうだ。1-17-10-2で、その手紙の名宛は？」。1-17-10-3「パリ、コック・エロン町十三番地ノワルティエ氏」。1-17-10-4「その手紙がなくなることによって、検事代理になにか利益があったようには思わんかな？」。1-17-10-5「おそらくそうだったことでしょう。1-17-10-6というのは、二度だったか三度だったか、その男は、そうするのがわたしの「ため」だといって、その手紙のことを誰にも話すなと約束させました。1-17-10-7そして、宿所のところに書いてあった名前を、決して口外（こうがい）しないことを約束させました」。 1-17-10-8「ノワルティエ？」と、司祭はくり返した・・・・「はて、ノワルティエ？1-17-10-9わしは前のエトルリー王妃の宮廷にいたノワルティエという男を知っているぞ。1-17-10-10革命当時にはジロンド党に属していた。1-17-10-11で、あなたの言われる検事代理の名は？」。1-17-10-12「ド・ビルフォール」。1-17-10-13司祭は、たちまちからからと笑い出した。1-17-10-14ダンテスは驚いて顔を見あげた。 1-17-10-15「どうなさいました？」。1-17-10-16「あなたには、この日の光が見えるかな？」と、司祭がたずねた。1-17-10-17「ええ」。1-17-10-18「それならばだ、わしには、すべてのことが、こうして透きとおり、輝きわたっている日の光りより、もっとはっきり見えてきたのだ。1-17-10-19気の毒に！1-17-10-20検事代理は、親切だったとお言いだったな？」。1-17-10-21「ええ」。1-17-10-22「その見上げた検事代理は、手紙を焼いて、それをなくしたとお言いだったな？」。1-17-10-23「ええ」。1-17-10-24「その正直な首切り役人の元締先生、ノワルティエという名を決して口に出すなと誓わせたとお言いだったな？」。 1-17-10-25「ええ」。1-17-10-26「そのノワルティエという男だが、あなたは気の毒に目が見えなかった。1-17-10-27ノワルティエというのが、誰のことかおわかりかな？1-17-10-28ノワルティエは、まさにその男の父親なのだ！」。1-17-10-29たとい雷霆（らいてい）にしてたちまちダンテスの足許（あしもと）にとどろき、そこに深淵（しんえん）を穿（うが）ってその底に地獄の口をあけたとしても、この思いがけない言葉にくらべれば、彼の驚きはずっとおだやかであり、これほどまでに彼を打ち砕きはしなかったろう。1-17-10-30彼はさも、頭が割れないためとでもいったように、それを両手で抱えながら立ちあがった。 1-17-10-31「あの男の父親！」と、彼は叫んだ。1-17-10-32「そうなのだ。1-17-10-33あの男の父親で、ノワルティエ・ド・ビルフォールという男なのだ」と、司祭は言った。1-17-10-34その瞬間、ダンテスの頭は閃々（せんせん：きらめくさま）たる光りに貫かれ、いままで不可解だったことは、たちまち晃々たる日の光に照らし出された。1-17-10-35訊問（じんもん）していたときのビルフォールの逡巡（しゅんじゅん）遅疑（ちぎ）、手紙を焼いたこと、誓言（せいげん）しろと言ったこと、おどすかわりに、さも哀れみを乞い嘆願するといったような声の調子、すべては記憶によみがえった。1-17-10-36彼は声をたて、一瞬、酒に酔った男のようによろめいた。1-17-10-37そして、司祭の室から自分の室へ通う入口のところまで飛んで行きながら、「一人になって、いろいろ考えてみたいと思います」と、言った。 1-17-10-38ダンテスは、自分の牢までたどりつくなり、ベッドの上に倒れてしまった。1-17-10-39そして、夕方（ゆうがた）やってきた獄丁（看守）は、腰をかけ、目を据え、顔をひちつらせ、石像のようにじっとだまりこんでいる彼の姿を見出した。1-17-10-40彼は、沈思（ちんし）しながら何時間かがまるで数分のように流れ去ったそのあいだに、恐ろしい決心をし、恐ろしい誓いをたてていたのだった。

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引用者：2016/5/22　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書
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