１７（１６）青年の心底かくや

1-17-16-1「わかりました」と、ダンテスは言った。1-17-16-2「わかりました！1-17-16-3そして、わたしもここに残りましょう」。1-17-16-4こう言いながら立ちあがった彼は、おごそかに、老人の上に手を差し伸べた。1-17-16-5「主の御名によって誓います。1-17-16-6わたしは、あなたがお亡くなりになるまで、決しておそばを離れません！」。 1-17-16-7ファリア司祭は、じっと、このいかにも気高（けだか）い、いかにも真率な、いかにもすぐれた青年をみつめていた。1-17-16-8そして、献身の表情にあふれた青年の顔の上に、醇真（じゅんしん＝純真：心にけがれのないこと。邪心がなく清らかなこと。）な愛情と、雄々（おお）しい誓いの色を見て取った。1-17-16-9「よろしい」と、老人は言った。1-17-16-10「御好意を受けよう。1-17-16-11ありがとう」。そしてダンテスのほうへ手を出しながら、「わが身の利害をすててのそうした親切について、あなたは酬（むく）いをお受けになろう。 1-17-16-12だが、いずれにせよ、わしもいまは逃げられず、あなたも逃げないといわれる以上、廊下（ろうか）の下（した）の穴を塞（ふさ）いでおくことが何より大切だ。1-17-16-13兵卒は、そこを歩いていて、穴の掘ってあるところの響きに気がつき、監督官の注意を促（うなが）すことになるかもしれない。1-17-16-14そうなれば、万事（ばんじ）露見（ろけん）して、二人は離ればなれにさせられよう。 1-17-16-15急いでそれをやってもらおう。1-17-16-16手伝えないのは残念だが。1-17-16-17今晩（こんばん）一晩（ひとばん）かかってよい。1-17-16-18そして、あすの朝、獄丁がまわってきてから、わしのところにきてもらおう。1-17-16-19大切なことを伝えておきたいと思うから」。1-17-16-20ダンテスは司祭の手を取った。1-17-16-21司祭は、微笑しながら、彼の心に安心をあたえた。1-17-16-22そして、ダンテスは、老人への服従と尊敬とを胸にたたんで、司祭の室を出て行った。

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引用者：2016/5/23　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書