１７（８）インキ壷と紙とペン

1-17-8-1「では、第二の質問にうつるかな」。1-17-8-2「どうぞ」。1-17-8-3「あなたがメルセデスさんをもらわなくなることによって、誰かとくをする人があったかな？」。1-17-8-4「ええ、メルセデスを愛していた青年（せいねん）があります」。 1-17-8-5「名は？」。1-17-8-6「フェルナン」。1-17-8-7「名前でみるとスペイン人だな？」。1-17-8-8「カタロニヤの男です」。1-17-8-9「その男に、手紙が書けたとお思いかな？」。1-17-8-10「いいえ！1-17-8-11そいつは短刀（たんとう）で斬りつけることぐらいはしかねませんが、せいぜいそれくらいのところでしょう」。1-17-8-12「そうだ。スペイン人の気性（きしょう）からいって、人殺しはやりかねない。1-17-8-13だが卑怯（ひきょう）なことはやらないはずだ」。 1-17-8-14「それに、」とダンテスは言った。1-17-8-15「その男は、告訴状のなかにあるようなことをまったく知らずにいたのでした」。1-17-8-16「誰にも話したことはないか？」。1-17-8-17「誰にも」。1-17-8-18「許婚（いいなずけ）にも？」。1-17-8-19「許婚にも」。1-17-8-20「ダングラールだ」。1-17-8-21「おお、いまわたしにもわかってきました」。1-17-8-22「ちょっと待ってもらおう・・・・ダングラールはフェルナンを知っていたかな？ 」。 1-17-8-23「いいえ・・・・いや・・・・そうそう・・・・」。1-17-8-24「どうした？」。1-17-8-25「わたしの披露（ひろう）の前々日（ぜんぜん・じつ）に、二人がパンフィル爺（じい）さんのところの「あずまや」のかげで、いっしょにテーブルについているのを見かけました。1-17-8-26ダングラールは、親しげなようすで「じょうだん」を言っていましたが、フェルナンは、浮かない顔で、なにかおどおどしていました」。1-17-8-27「二人きりだったか？」。 1-17-8-28「いいえ、も一人（もひとり）連れがありました。1-17-8-29わたしがよく知っている男で、たぶん、その男が二人を紹介したのだと思います。1-17-8-30カドルッスという仕立屋（したてや：服をつくる職人）です。1-17-8-31だが、その男は、もう「ぐでんぐでん」に酔っていました。1-17-8-32お待ちください・・・・お待ちください・・・・どうしてこれが思い出せなかったのでしょう？ 1-17-8-33三人が飲んでいたテーブルのそばに、インキ壺（つぼ）と紙とペンがありました。 1-17-8-34（ダンテスは、額（ひたい）に手をあてた）。1-17-8-35おお、恥知らずめ！1-17-8-36恥知らずめ！」。

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引用者：2016/5/22　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書