１７（４）頭の使い方

1-17-4-1「なにを考えておいでだな？」ダンテスの放心（ほうしん）しているようなのを、おそらく、この上なく感心したためだろうと考えた司祭は、微笑しながらこうたずねた。1-17-4-2「まず、こんなことを考えました。1-17-4-3それは、こうした目的にお達しになるまで、あなたがどれほど頭をおしぼりになったことだろうということでした。1-17-4-4もし自由の身でおいでだったら、どんなことをおやりになれたでしょう？」。1-17-4-5「なにもできなかったことだろうよ。1-17-4-6この「はち」切れそうな頭にしても、おそらくくだらないことのために発散してしまったことだろう。1-17-4-7人智（じんち）のなかにかくれているふしぎな鉱脈を掘るためには、不幸というものが必要なのだ。 1-17-4-8火薬（かやく）を爆発させるには圧力がいる。1-17-4-9監獄生活という「やつ」は、ほうぼうに散らばっていたわしの才能を一つの点に集めてくれた。1-17-4-10才能は、狭い領域でぶつかり合った。1-17-4-11そして、御存じのことと思うが、雲がぶつかると電気ができる。1-17-4-12電気からは火花（ひばな）が出る。1-17-4-13火花からは光が出る」。1-17-4-14「いや、わたしはなにも知っていません」と、ダンテスは、自分の無智をさみしく思いながら言った。1-17-4-15「いまおっしゃったお言葉のなかでも、わたしにとってまったくなんのことかわからない言葉があります。1-17-4-16それほどな学者でいらっしゃるとは、なんとお仕合せなことでしょう！」1-17-4-17司祭は微笑を浮かべた。 1-17-4-18「さっきあなたは、も一つなにか考えているといわれたな？」。1-17-4-19「そうです」。1-17-4-20「で、その第一のほうだけはお話しだった。1-17-4-21二番目のほうはどういうことかな？」。1-17-4-22「あなたは、わたしに身の上話を聞かせてくださいました。1-17-4-23だが、あなたのほうでは、このわたしの身の上を御存じないということです」。1-17-4-24「あなたの身の上といったところで、なにしろあなたはお若いことだ、1-17-4-25大したことはおありになるまい」。 1-17-4-26「とても不幸なことがあるのです」と、ダンテスが言った。1-17-4-27「自分で種を播（ま）いたのでない不幸なのです。1-17-4-28で、できればその不幸を、それを播いた者の手に返してやりたいと思っています。1-17-4-29そうしなければ、わたしもやっぱり、これまでたびたびやったように、神様を呪いたくなるでしょうから」。1-17-4-30「では、あなたは、犯したことにされている罪について、ぜんぜん「むじつ」だと言われるのだな？」。1-17-4-31「ぜんぜん。1-17-4-32わたしの愛している二人の者の命（いのち）にかけて、父とメルセデスの命にかけて誓いましょう」。1-17-4-33「では、」と、司祭は、かくれた穴に蓋（ふた）をしながら、そして、ベッドをもとのところへ押しやりながら言った。1-17-4-34ひとつお話を承（うけたまわ）るかな」。

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引用者：2016/5/21　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書