ルカ文書のローマ皇帝

ルカ文書には「ルカによる福音書」と「使徒行伝」の二つがある。それらには、ローマ皇帝の名が、あたかも「刻印」されている。それによって、イエスと使徒の物語が、ローマ帝国世界の歴史に、その痕跡（こんせき）をとどめることができた。(続きは年表の下)

1．アウグスト 「ルカによる福音書」2章 2-1そのころ、全世界の人口調査をせよとの勅令が、皇帝アウグストから出た。 2．テベリオ 「ルカによる福音書」3章 3-1皇帝テベリオ在位の第十五年、ポンテオ・ピラトがユダヤの総督、ヘロデがガリラヤの領主、その兄弟ピリポがイツリヤ・テラコニテ地方の領主、ルサニヤがアビレネの領主、3-2アンナスとカヤパとが大祭司であったとき、神の言が荒野でザカリヤの子ヨハネに臨んだ。 3．クラウデオ 「使徒行伝」11章 11-27そのころ、預言者たちがエルサレムからアンテオケにくだってきた。11-28その中のひとりであるアガポという者が立って、世界中に大ききんが起るだろうと、御霊によって預言したところ、果たしてそれがクラウデオ帝の時に起った。11-29そこで弟子たちは、それぞれの力に応じて、ユダヤに住んでいる兄弟たちに援助を送ることに決めた。11-30そして、それをバルナバとサウロとの手に託して、長老たちに送りとどけた。 4．クラウデオ 「使徒行伝」18章 18-1その後、パウロはアテネを去ってコリントへ行った。18-2そこで、アクラというポント生まれのユダヤ人と、その妻プリスキラとに出会った。クラウデオ帝が、すべてのユダヤ人をローマから退去させるようにと、命令したため、彼らは近ごろイタリヤから出てきたのである。

ローマ皇帝コンスタンティヌスの権威の下で、膨大な類似文書、異端文書を選定、抜き出し挿入ができないように巻物に書き写して確定させたキリスト教の文書一式、すなわち新約聖書は、そのほとんどがルカの関係したものである。キリスト教は、テオピロの信仰と、その僕（しもべ：＝彼がどれだけ有能であったかは、「ルカによる福音書」の「カペナウムの百卒長と僕」のエピソードが明らかにする）ルカの業績の上に成り立っている。 「ルカによる福音書」は、聖母マリヤにとって、ユダヤ人を敵にまわすことは確実であり、身に危険を及ぼす文書である。ルカは、テオピロの意向を受けて、聖母と女性たちを、アンテオケのテオピロの私邸に招聘（しょうへい）したことだろう。その館で、主従は客人（異邦人たち）を招き、朗読会を催したと考えるのが妥当である。これがローマ教会へと続く「福音」のひとつの「キリスト教の歩み」となる。そして、もうひとつがパウロの手紙による、キリスト教神学の樹立である。 ただ、パウロの宣教相手は、帝国内都市にあるユダヤ人居住区のユダヤ人たちであって、帝国の市民ではない。「わたしは異邦人に行く」というパウロの言葉は、彼の文書がキリスト教に結び付けておくためである。「キリスト教」は、はっきり言って、ローマ帝国市民の「聖母子」信仰の広まりであって、ユダヤ人からでたものではない。キリスト教は、カペナウムの将校テオピロことクレオパの信仰から生まれたのであり、聖母となられたマリヤさま、ルカ、奉仕の女性たち、漁師のペテロたちの愚直な「証言」によるのである。クレオパは自分が表(おもて)にでれば茶番になる、だから、福音書のエピソードにちょっと登場するだけで、それ以上のことは文書に残さなかったのである。 パウロは、聖母とその一行である女性たちの活動を意識した。その「女」たちへの反発感情が、彼による「キリスト神学」の展開につながっている。そして、その重要性に着目したルカは、その後パウロの旅行に密着した。すなわち、パウロの文書をコピーして保管したのは、ルカにほかならないのである。 二つの文書は、ローマ軍将校テオピロへの報告書なので、単純明快にして簡潔なものであったはずである。それらが福音書として4世紀に確定した時には、それら原文にさまざまな、エピソード、説話、「人の子」思想などの文章が追加されている。そう考えると、通読したら意味不明な文書になることも理解できる。

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