５２章「毒物学(どくぶつがく)」

モンテ・クリスト伯は、ビルフォール氏訪問への答礼として、ビルフォール邸を訪ねた。伯爵は、夫人と息子と義理の娘の三人と挨拶をかわした。その後、夫人は伯爵と二人きりになると、毒物について詳しくたずねた。伯爵は、夫人の魂胆を、以前から見抜いていたのだった。ビルフォールの赤子殺人未遂、その彼の息子がベルツッチオに拾われて生きていることを、すでにわれわれは知らされている。今また、彼の娘が毒殺される芽がでていると知らされた。ダンテスの復讐カードとなっているその二つの『計画』を、ビルフォールはまったく知らずにいるのだった。

目次

（１）伯爵と検事総長夫人とエドワール 4-52-1-16「お嬢さまがおありですか？」と、伯爵がたずねた。「まだお小さい方でいらっしゃいましょうな？」。「主人の子供でございます」と、夫人が答えた。「先妻）とのあいだにできました、大きな、美しい娘でございます」。「ただし、いつも『めそめそ』しているんです」と、エドワールは、金色に塗った止り木の上で悲鳴をあげているみごとな鸚鵡の尻尾の毛を、帽子の羽飾りにしようとひき抜きながら口をはさんだ。

（２）伯爵さまはイタリーで私たちを 4-52-2-3こうしてバランティーヌは入ってきた。そして、母のそばに、いままでたびたび聞いた外国人のいるのを見ると、娘らしい取りつくろったはにかみもなく、目を伏せることもせず、しとやかに会釈をした。それがさらに伯爵の注意をひいた。伯爵は立ち上がった。「マドモワゼル・ビルフォール、わたくしの義理の娘でございます」と、夫人は、長椅子に掛けたままで身をかがめ、バランティーヌのほうを示しながらモンテ・クリスト伯に言った。

（３）ペルージャのお医者さま 4-52-3-26つまり、わたくしが医者でなかったからこそ、わたくしが患者を治すかわりに、患者のほうで治ってくれたというわけでして。ただ、化学と自然科学について、そうとう深い研究をいたしたことだけは申しあげられます。それとても、要するに素人程度ではございましたが・・・・」。ちょうどこの時、六時が鳴った。「あら、六時」と、夫人は目に見えてそわそわしだした。

（４）故事ミトリダーテス王の解毒剤 4-52-4-25夫人は、子供を出しておいてから、たんねんに扉を閉めた。伯爵は、それに気がつかないようなふりをしていた。夫人は、ちょっとあたりを見まわしてから、コーズーズの上に腰をおろした。「こんなことを申しあげまして失礼かもしれませんが、」と、伯爵は、すでにわれわれがよく知っている例のにこやかな顔つきで言った。「『おいた』の坊ちゃんに、だいぶ御厳格のようでございますな？」。「ああしなければならないんでございます」と、夫人は母親らしい、きっぱりした調子で言った。

（５）毒物・人物談義に花が 4-52-5-29こうして、一ヶ月の後には、同じ瓶の水をお飲みになりながら、ごいっしょにその水を飲んだ相手をお殺しになれます。そして、奥さまのほうでは、あの水にはなにか悪いものが入っていたな、くらいにしかお感じにならないというわけです。

（６）結果を考えない浅はか者 4-52-6-34それは、この国のお芝居、と申したところで、わたくしのは、ただ上演される脚本を読んだだけの知識ですが、たとえば、瓶のなかにあるものを飲む、でなければ、指輪の石に詰め込んだ『やつ』を飲みます、たちまち『ころり』とまいる。五分もたつと幕がおります。見物は、おのおの家へ帰ってしまう。そして、人殺しをした男が、その後どうなるかはわからずじまいというわけです。飾帯をつけた警部の姿も出てこなければ、部下を四人つれた憲兵伍長も出てこない。そうしたことから、ばかなやつらは、万事うまくゆくものと思いこんでしまうのですな。

（７）医者に命をとられた場合 4-52-7-11というわけは、医者には概して薬物のほうの知識がない。で、病気をよくすることもあり、悪くすることもあるわけでして。こうして一人の男が、じつに巧みに、法律に少しもふれることなく、殺されるということにもなるわけでして。裁判所がいくら調べてみたところで、『とん』と手掛りがつかめない。

（８）不滅性の砒素では足がつく？ 4-52-8-22さてそれからです、その翌日、お邸の御馳走にはこの四番目に毒のまわっていた『うなぎ』が出る、『かます』が出る、或いは『うつぼ』が出る。そしてお客さまは、五番目に毒がまわることになって、それから八日か十日いたしますと、腹が痛む、胸が痛む、幽門には腫瘍ができる、とうとうそのまま死んでしまう。解剖した医者は、口を揃えてこう申します。『御病因は、腎臓癌か腸チフスといったところですな』。

（９）溶液の毒では見え方が脳卒中 4-52-9-10脳溢血の形跡、それ以外になにもない。つまり牡鶏は、毒によって死んだのでなく、卒中のために死んだのでした。なるほど、これは鶏社会にはほとんど例のないことでありましょう。だが、人間社会では、きわめて頻繁に見られるところのことなのです」。

（１０）子を思うマクベス夫人の良心について 4-52-10-15ああ、母としての愛の気持は、たしかに大きな美徳です。じつに力強 い動機です。したがって、多くのことは、ただそのために許されます。ダンカンを殺させた後、もしマクベス夫人が良心を持っていなかったら、随分みじめだったろうと思われますな」。ビルフォール夫人は、伯爵の口から、彼独得のなにげない皮肉な調子で語られるこうした恐ろしい教訓や、ふるえあがるような反語の数々をむさぼるように聞いていた。

（１１）伯爵の思惑通りに 4-52-11-44一ぽうモンテ・クリスト伯は、まさに予期以上の結果をおさめることができたのだった。「よし、」と、彼は出てゆきながら言った。「地味は上乗。種をおろしておいた以上、芽が出ないというはずはないぞ」。翌日、伯爵は約束どおり、頼まれた処方箋を届けてやった。

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バルバロ聖書　「マカバイの書(上）」

将軍たちは、アレキサンダー大王の遺領をその実力に応じて領した。アンテオケの起源がわかる。

映画　「アレキサンダー大王」

アレキサンダー大王は、死の床にあって、後継者を指名しなかった。

ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
この本は、ささくら修道会の必読書
2016/5/8、2017/9/24-10/24