２７章「物語(ものがたり)」

ダンテスはダイヤモンドの力を利用して、用心するカルコントを翻意させ、カドルッスから情報を聞き出した。父のこと、モレル氏の親切以上の心遣いのこと、ダングラールとフェルナンの果たした役割についてファリア司祭の推測の正しかったこと、そして彼らが成功してパリにいること、メルセデスの結婚と子がいること、そして、カドルッスの後悔と懺悔が本心からであることを聞き出した。分配の必要がなくなったダイヤモンドをカドルッスに与え、代りにモレル氏の財布を受け取った。ダンテスは、そのダイヤモンドでカドルッスが人生をやり直すだろうと思った。しかし、このあと、カルコントの欲に引きずり込まれたカドルッスは、ダングラールらの欲を退けなかったと同じ間違いを犯してしまうのだが、その話はもっと先になって、ある男の回想として語られることになる。

目次

２７（１）まずは父親の話から　2-27-1-25「ラ・レゼルブ亭ですな！ああ、そうだ、そうだ！いまでも目の前に見えるようです」。「あの男の婚約披露の宴会のときではありませんでしたかな？」。「そうでした。食事のはじまりは愉快でした。だが、悲しいできごとで終りました。警部が、四人の銃兵を引き連れてはいってくる、ダンテスがつかまる。「わたしの知っているのはそこまででした」と、司祭は言った。

２７（２）老人の祈りを言葉では　2-27-2-20「それがあなた！」と、カドルッスは答えた。「慰めてもらいたいと思っている人間でなければ、慰めてやることもできませんので。老人は、慰めてもらいたくなかったんでございますよ。それに、わたしにはなぜだかわかりませんが、なんだかわたしに会うのが厭なようすでした。でもある晩、老人のすすり泣いているのを聞くと、どうにもがまんができなくなって、わたしは上がって行きました。

２７（３）老人の死にざま　2-27-3-25二人とも、大急ぎでやってきました。モレルさんは医者をつれておいででした。医者の診察は胃腸カタルで、絶食するようにということでした。わたしはその場に居合わせましたが、これを聞いたときの老人の微笑を忘れることができません。それからは、ずっと戸口をあけていました。食事をしないでいい口実ができたからのことなのでした。医者からは絶食を言いわたされたからのことなのでした」。司祭はうめくような声をたてた。

２７（４）恋と野心の果実　2-27-4-10さあ、倅を絶望のあまりに死なせ、父を飢え死にさせた人たちとは、いったいどこの誰なのです？」。「一人は恋のために、一人は野心のために、あの男を妬んでいた二人の男のことなのです。フェルナンとダングラールの二人でした」。「ですが、嫉妬はどんなかたちであらわれました？」。「やつらは、エドモンのことを　ボナパルト党だといって密告しました」。

２７（５）モレル氏慈善の証拠　2-27-5-43「それで、そのモレルさんとやらはまだ生きておいでなのですか？」と、司祭はたずねた。「はい」と、カドルッスが言った。「してみると、」と、司祭は言葉をついで、「その方は神の御恵みをうけておいでにちがいないと思いますが。裕福で・・・・幸福にしておいでのことと思いますが？・・・・」。カドルッスは苦笑して、「はい、それが、このわたし同様な幸福と申すわけなのでして」と、言った。

２７（６）ダングラールの成功　2-27-6-25「で、ダングラールはどうなりました？いちばんの悪党でしょう、けしかけたのはその男でしょう？」。「どうなったかとおたずねですか？やつはマルセイユを立ち退きまして、やつの犯した罪を御存じないモレルさんの御推薦（で、スペインの銀行家のところへ手代になって住みこみました。そしてスペイン戦争のときに、フランス軍の御用の一部を務めましてね、一財産つくりあげたというわけでした。

２７（７）フェルナンの出世　2-27-7-2「だが、金もなければ教育もない、つまらないカタロニヤの漁夫に、どうして身代ができたんです？まったく見当がつきませんな」。「誰にも見当がつきませんや。人に知られぬ不思議な秘密でもないことには」。「だが、外から見ただけでも、どんな経路でそうした莫大な財産だか、高い位だかを手に入れたというのでしょう？」。「両方ですよ。あなた、両方手に入れたというわけでして！やつめ、財産と地位と、その両方を持っているんでございますよ」。

２７（８）メルセデスの場合　2-27-8-38フェルナンは、これらをすっかり見て取りました。で、老人が死んだと聞いて、すぐに帰ってきたのでした。今度は中尉になっていました。はじめのときには、べつに好きとも口に出しては言いませんでしたが、次にきたとき、自分の好きでいることを女に思い出させました。メルセデスは、ダンテスの帰りを待つため、六ヶ月の猶予を求めました。そして、ダンテスのため、泣いていようと思いました」。

２７（９）さ、このダイヤモンド　2-27-9-22「しかし、子供の教育をしていたとすると、」と、司祭はつづけた、「自分も教育を受けたというわけですな？ダンテス君の話では、美しくはあっても、学問のない、ただの漁夫の娘さんということでしたが」。「驚きましたな！」と、カドルッスは言った。「自分の許嫁のことをそれほどわからずにいたのでしょうか？もし、宝冠というものが、もっとも美しい、もっとも賢い人間の頭に置かれるものだとしたら、メルセデスこそは女王さまにさえなれる女でさあ。幸運がだんだんひらくにつれ、女も進歩したのでした。絵も習いました、音楽も習いました、何もかも習いました。

２７（１０）モレル氏の財布を　2-27-10-1「えっ、わたし一人の！」と、カドルッスは叫んだ。「おからかいですか？」。「これは、あの男の友だちのあいだで分けるはずでした。だが、ダンテスには一人の友だちしかありませんでした。したがって、分配の必要がなくなったわけです。このダイヤモンドを持って行ってお売りなさい。五万フランの価値があります。それだけあったら、あなたも浮かびあがることがおできでしょう」。

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引用者：2016/8/28-9/3　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書