２７（１）まずは ２７（１）まずは
| 2-27-1-1「まず第一に、」と、カドルッスは言った。2-27-1-2「一言（ひとこと）お約束（やくそく）していただきたいことがございますんで」。2-27-1-3「どんなことですな？」と、司祭はたずねた。2-27-1-4「それは、これからわたしがお話し申しあげることを御利用（ごりよう）なさることがあっても、どうかわたしの口（くち）から洩（も）れたと言わないでいていただきたいんで。2-27-1-5なぜと申せば、わたしがお話しする方がたには、お金（かね）もあれば勢力（せいりょく）もある、ほんの指（ゆび）のさきで触（ふ）れられただけで、わたしなんかガラスでもこわすようにめちゃくちゃにされてしまいますから」。 2-27-1-6「御心配（ごしんぱい）は御無用（ごむよう）ですよ」と、司祭は言った。2-27-1-7「わたしは僧籍（そうせき）に在る身です、懺悔を聞いても、それはみんな、わたしの胸一つで忘れてしまうのです。2-27-1-8われわれは、友だちの遺志（いし）をりっぱに果してやるほかには、なんの目的もないないことだけを御承知ください。2-27-1-9さあ、憎しみを交えることのないと同時に、斟酌（しんしゃく：遠慮）なしにお話しください。2-27-1-10ほんとうのことを、洗いざらいお聞かせください。2-27-1-11わたしは、あなたが話そうとなさる方がたを知りもせず、また、おそらく知らないでしまうでしょう。2-27-1-12わたしはイタリー人（じん）であり、フランス人（じん）ではないのです。 2-27-1-13それに、わたしの体（からだ）は神さまにお仕え申しているので、人間（にんげん）とはなんの交渉（こうしょう）もないのです。2-27-1-14死にかけている人の臨終（りんじゅう）の頼みを果たすためにやってきたというわけなので、それがすんだら、元の寺へ帰って行くばかりの体なのです」。2-27-1-15こうしたはっきりした約束は、幾（いく）ぶんカドルッスを安心させたらしかった。2-27-1-16「それでは一つ、」と、カドルッスは言った。2-27-1-17「お話ししましょう。2-27-1-18いやそれ以上にあのかわいそうな、エドモンが、まじめで献身的（けんしんてき）だと思っていた連中の友情がどんなものだったかをお話しして、あなたのお目をおあけしましょう」。 2-27-1-19「あの男の父親の話しからはじめようではありませんか、いかがです」と、司祭は言った。2-27-1-20「エドモンは、自分が心から愛していたあの老人のことを、いろいろ話して聞かせました」。2-27-1-21「かわいそうな話でして」と、カドルッスは首を動かしながら言った。2-27-1-22「はじめのほうは御承知のことと思いますが」。2-27-1-23「知っています」と、司祭は答えた。2-27-1-24エドモンは、自分がマルセイユの近所の小さな酒場でつかまるところまで、わたしに話してくれました」。 2-27-1-25「ラ・レゼルブ亭ですな！2-27-1-26ああ、そうだ、そうだ！2-27-1-27いまでも目の前に見えるようです」。2-27-1-28「あの男の婚約（こんやく）披露（ひろう）の宴会（えんかい）のときではありませんでしたかな？」。2-27-1-29「そうでした。2-27-1-30食事のはじまりは愉快（ゆかい）でした。2-27-1-31だが、悲しいできごとで終りました。2-27-1-32警部（けいぶ）が、四人の銃兵（じゅうへい）を引き連れてはいってくる、ダンテスがつかまる。2-27-1-33「わたしの知っているのはそこまででした」と、司祭は言った。2-27-1-34「ダンテス君自身、一身（いっしん）に関すること以外、なにも知ってはいませんでした。2-27-1-35それからというもの、さっき名前を申したあの五人のなかの誰にも会わず、またその噂（うわさ）も聞かないのでした」。 |
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引用者：2016/8/28 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義