２７（４）恋(こい)と野心(やしん)の果実(かじつ)

2-27-4-1「で、あなたは老人の死んだ原因というのが・・・・」。2-27-4-2「飢え死（うえじに）でございますよ、あなた、飢え死にで」と、カドルッスは言った。2-27-4-3「このことは、わたしたち二人がキリスト教徒であると同様、嘘偽（うそいつわ）りはございませんよ。2-27-4-4司祭は、そのひきつれた手に、まだ半（なか）ば水の残っていたコップを取りあげ、それを一息（ひといき）に飲み干（ほ）してから、腰をおろした。2-27-4-5「なんという気の毒な！」。そう言った声はしわがれていた。 2-27-4-6「神さまは少しも御存知なく、ただ人間どもの手で仕組まれたことであっただけそれだけ、気の毒なことでございました」。 2-27-4-7「では、その人間どもの話にうつりましょうか」と、司祭は言った。2-27-4-8「が、お忘れなく、」と、彼はほとんど脅（おど）すような態度（たいど）で言った。2-27-4-9「ななたは、すべて話すと約束（やくそく）なさいましたな。2-27-4-10さあ、倅（せがれ）を絶望のあまりに死なせ、父を飢（う）え死（じ）にさせた人たちとは、いったいどこの誰なのです？」。2-27-4-11「一人（ひとり）は恋（こい）のために、一人は野心（やしん）のために、あの男を妬（うら）んでいた二人の男のことなのです。2-27-4-12フェルナンとダングラールの二人（ふたり）でした」。 2-27-4-13「ですが、嫉妬（しっと）はどんなかたちであらわれました？」。2-27-4-14「やつらは、エドモンのことを　ボナパルト党（とう）だといって密告（みっこく）しました」。2-27-4-15「が、二人のうちのどちらがあの男を密告しました。2-27-4-16どちらがほんとに罪を犯（おか）したやつなのです？」。2-27-4-17「二人ともでございますよ。2-27-4-18一人が手紙を書きました。2-27-4-19一人がそれを出しました」。2-27-4-20「で、どこで手紙を書いたのです？」。2-27-4-21「結婚の前の日、あのラ・レゼルブ亭で」。2-27-4-22「そうだったのだ、そうだったのだ」と、司祭はつぶやいた。2-27-4-23「ああ、ファリア司祭！ファリア司祭！2-27-4-24あなたは人のことをも物のことをも、なんと見とおしておいでだった！」。 2-27-4-25「なんとおっしゃいます？」と、カドルッスがたずねた。2-27-4-26「なんでもないです」と、司祭は答えた。2-27-4-27「さ、話のつづきをうかがいましょう」。2-27-4-28「ダングラールは、自分の筆跡（ひっせき：本は蹟）に気づかれないように、密告状（みっこくじょう）を左の手で書き、それをフェルナンが出したのでした」。2-27-4-29「すると、あなたもその場にいたのですね！」と、突然（とつぜん）、司祭（しさい）が叫（さけ）んだ。2-27-4-30「わたしが！」と、カドルッスが驚（おどろ）いて言った。2-27-4-31「誰がいったいわたしがいたと申しました？」。2-27-4-32司祭は、自分のはやまり過ぎたことに気がついた。2-27-4-33「誰も言いはしませんでした」と、司祭は言った。 2-27-4-34「でも、そんなに細（こま）かい点まで知っておいでというのですから、見ておいでだったのではないかと思いましてね」。2-27-4-35「おっしゃるとおりです」と、カドルッスは苦（くる）しそうな声で言った。2-27-4-36「わたしもその場に居合（いあ）わせました」。2-27-4-37「それでいて、そんな破廉恥（はれんち）なことに反対しようとはしませんでしたか？」と、司祭は言った。2-27-4-38「すると、あなたも相棒（あいぼう）というわけですな？」。 2-27-4-39「あなた、」と、カドルッスは言った。2-27-4-40「やつらは、二人してわたしに、善悪の判断のできなくなるほど酒を飲ませてしまっていました。2-27-4-41わたしは、ただもうぼんやり霧（きり）がかかったように、事の成行（なりゆ）きを見ていました。2-27-4-42わたしは、そうした場合、人間として言うべきことは、すっかり言ってやりました。2-27-4-43が、奴らは二人して、これはほんの『いたずら』だ、こんな『いたずら』をしたってたいしたことにはならないと言っていました」。 2-27-4-44「翌日になると、『いたずら』の結果がどんなふうになったかおわかりでしたな。2-27-4-45だが、あなたはなんにもおっしゃらなかった。2-27-4-46つかまえられるときにも居合わせていながら」。

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引用者：2016/8/29　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義