２７（５）モレル氏 ２７（５）モレル氏
| 2-27-5-1「ええ、わたしはそこにおりました。言ってやろうと思いました、なにもかもぶちまけてやろうと思いました。2-27-5-2が、ダングラールがわたしを引き留（と）めました。2-27-5-3彼は、『万が一（まんがいち）、あの男が罪人（ざいにん）で、ほんとにエルバ島によって、パリのボナパルト党（とう）本部（ほんぶ）宛（あて）の手紙をことづかり、その手紙を持っていることがわかりでもしたら、尻押（しりお）しをした人間（にんげん）までも同類（どうるい）とみなされるにちがいないぞ』 と申しました。 2-27-5-4打ち明けてお話ししますと、当時の御政道（ごせいどう：政治のやり方を庶民の立場から見て・・・）というものはまったく恐ろしいものでございましてね。2-27-5-5で、わたしは黙（だま）ってしまいました。2-27-5-6卑怯（ひきょう）でございました。2-27-5-7それはわたしも認（みと）めます。2-27-5-8が、罪を犯しはしませんでした」。2-27-5-9「わかりました。2-27-5-10あなたはつまり、なすがままにまかせておいたというわけですな」。2-27-5-11「」さようでございます」と、カドルッスが答えた。2-27-5-12「それが明けても暮れても後悔（こうかい）の種（たね）でございました。2-27-5-13一生（いっしょう）を通じてほんとうに自分を責（せ）めなければならないこの行（おこな）いが、たしかに今日（こんにち）の不仕合（ふしあわ）せの原因（げんいん）になっていますだけ、幾度（いくど）となく神さまにおゆるしを願いました、まったくの話しでございます。 2-27-5-14つまりわたしは、わが身のおかした一時（いっとき）の身勝手（みがって）の罪滅（つみほろ）ぼしをしているのでございまして。2-27-5-15カルコントにも、彼女が泣き言（なきごと）を申しますと、いつもこう言うのでございますよ。2-27-5-16黙（だま）っているんだ、これも神さまの思召（おぼしめ）しだ、って」。2-27-5-17こう言って、カドルッスは、ほんとに後悔（こうかい）しているようなようすを見せて、低く頭を垂（た）れてみせた。2-27-5-18「よろしい」と、司祭（しさい）は言った。2-27-5-19「あなたは正直（しょうじき）にお話し下（くだ）すった。2-27-5-20それほどに自分の罪を責めておいでになるのです。2-27-5-21とうぜん神さまのおゆるしがあるべきです」。 2-27-5-22「情（なさけ）ないことに、エドモンは死んでしまいました。2-27-5-23あの男は、あっしをゆるしてはくれませんでした」。2-27-5-24「あの人はなにも知りませんでした・・・・」と、司祭は言った。2-27-5-25「でも、いまでは知っているかもしれません」と、カドルッスは言った。2-27-5-26「死んだ者にはなんでもわかると言いますから」。2-27-5-27二人（ふたり）はしばらく黙っていた。2-27-5-28司祭は立ちあがって、もの思いに沈みながら、室の中を歩きまわっていた。2-27-5-29そしてまた、自分の椅子（いす）にきて腰（こし）をおろした。 2-27-5-30「あなたは、ニ三度（にさんど）モレルさんとかいう人のことをお話しでしたな」と、司祭は言った。2-27-5-31「それはいったいどういう方（かた）なのです？」。2-27-5-32ファラオン号の持ち主（もちぬし）で、ダンテスの主人（しゅじん）でございました」。2-27-5-33「してまた、その人は、この痛（いた）ましい事件のなかで、どういう役割（やくわり）を務（つと）めました？」と、司祭がたずねた。2-27-5-34「正直な、男らしい、そして情愛（じょうあい）のある方（かた）でございます。2-27-5-35幾度（いくど）となくダンテスのために『とりなし』しておやりになりました。2-27-5-36皇帝（こうてい）がお帰（かえ）りになると、あの方は手紙（てがみ）を書き、お願いをされ、強談（ごうだん）までなさいました。 2-27-5-37そのため、第二（だいに）王政（おうせい）時代になりますと、ボナパルト党員（とういん）とみなされて、えらい迫害（はくがい）をお受けでした。2-27-5-38前にも申しましたとおり、あの方は、ダンテスの父親（ちちおや）のところへ行って、御自分の家に引き取ろうとされ、死ぬ前日（ぜんじつ）か前々日（ぜんぜんじつ）には、これまた申しあげましたとおり、暖炉（だんろ）棚（だな）の上に財布（さいふ）を置いておいででした。2-27-5-39それで爺（じい）さんの借金（しゃっきん）も払えましたし、葬式（そうしき）の費用（ひよう）も出ました。2-27-5-40おかげでかわいそうな老人（ろうじん）は、誰（だれ）にも迷惑（めいわく）をかけず、せめて生きていたときと同じように死んでいくことができたのでした。2-27-5-41その財布をいまもこのわたしが持っております。2-27-5-42緋色（濃い紅色）のレースの大きな財布でございまして」。 2-27-5-43「それで、そのモレルさんとやらはまだ生きておいでなのですか？」と、司祭はたずねた。2-27-5-44「はい」と、カドルッスが言った。2-27-5-45「してみると、」と、司祭は言葉をついで、「その方は神の御恵（おめぐ）みをうけておいでにちがいないと思いますが。2-27-5-46裕福（ゆうふく）で・・・・幸福にしておいでのことと思いますが？・・・・」。2-27-5-47カドルッスは苦笑（くしょう）して、2-27-5-48「はい、それが、このわたし同様な幸福と申すわけなのでして」と、言った。 |
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引用者：2016/8/30 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義