(20)評議会がオプス・ディの認可を撤回

「ダビンチ・コード」ダン・ブラウン著 越前敏弥（訳）角川文庫 下巻

アリンガローサは、聖杯の血脈を絶つことに、自らの使命を感じ、実行しようとしていた。しかし、それは頓挫することになった。彼は彼なりの論理で、キリスト教の発展を願っていたのだった。

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(3-P188)頭を高くあげてガンドルフォの天文図書館へ足を踏み入れたとき、アリンガローサは歓迎の手の群れに迎えられるとばかり思っていた。アメリカでカトリックの旗手（きしゅ）として偉功（いこう）を立てたことを、だれもが絶賛すると信じていた。ところが、そこには三人しかいなかった。 (3-P189)バチカンの国務省長官。太っていて、陰気そうだ。高位にあるイタリヤ人枢機卿（すうききょう）ふたり。いかにも聖職者らしく取り澄ましている。 「長官でいらっしゃいますか」アリンガローサは困惑して言った。国務省長官は握手をし、自分の向かいの椅子（いす）を手で示した。「おかけください」アリンガローサは何かおかしいと思いながら腰をおろした。「司教、わたしは世間話（せけんばなし）が苦手（にがて）でしてね」長官は言った。「あなたをお呼びした理由について、忌憚（きたん）なく話させていただきたい」「どうぞお聞かせください」アリンガローサは、心得顔（こころえがお）を向ける枢機卿たちを横目で見た。 「ご承知のとおり、昨今（さっこん）教皇聖下とローマの一同は、オプス・デイの慣行がいっそう物議を醸（かも）していることを憂慮なさっています」 アリンガローサは瞬時にして身をこわばらせた。その件はすでに幾度となく新教皇とのあいだで論じられたことだ。残念ながら、新教皇が教会の自由化を強行に進めようとしているのは明らかだった。 「念のため申しますが」長官はあわてて付け加えた。「聖下はあなたの組織運営のあり方に口出しをなさるおつもりはありません」そう願いたいものだ！「では、わたしはなぜここに呼ばれたのですか」大男（おおおとこ）の国務省長官はため息をついた。「どうすれば差し支えのない話し方をできるかわからないので、単刀直入（たんとうちょくにゅう）に申しましょう。二日（ふつか）前、評議会はオプス・デイへの認可の撤回（てっかい）を満場（まんじょう）一致（いっち）で決定しました」。 (3-P190)アリンガローサは耳を疑った。「なんとおっしゃいました？」「わかりやすく言いますと、本日（ほんじつ）から六か月後、オプス・デイはバチカンの属人区と見なされなくなります。あなたがたは独立した教会組織になる。教皇庁はもはや無関係です。聖下も同意され、すでに正式な文書の作成がはじめられています。 「しかし・・・・そんなことをできるわけがない！」「いや可能です。必要でさえある。聖下はあなたがたの強引（ごういん）な勧誘方法や肉体的苦行（くぎょう）の慣習を疎（うと）んじておられます」長官は間（ま）をとった。「そして、女性の扱い方にも。率直（そっちょく）に申しまして、オプス・デイはわれわれの重荷であり、困惑の種になっているのですよ」 アリンガローサは呆然（ぼうぜん）とした。「困惑の種だって？」「こうなることは、あなたも予測していたのではありませんか」「オプス・デイは、カトリックの組織のなかでただひとつ信徒を増やしています！いまや千百人もの司祭をかかえている！」「そのとおり。それこそがわれわれを悩ませている問題です」アリンガローサは猛然と立ちあがった。 (3-P191)オプス・デイが１９８２年にバチカン銀行を救ったときも困惑の種だったのかと、聖下にお尋ねになるがいい！」「その件については、つねに感謝しております」長官はなだめるような口調（くちょう）で言った。「ですが、そもそも１９８２年のあなたがたによる経済的支援こそが、オプス・デイが属人区として認められた唯一の理由だと信じる者たちがいるのもたしかです」「冗談じゃない！」このあてこすりにアリンガローサはひどく傷ついた。 「いずれにせよ、こちらは誠意をもって対処します。当時借り入れた資金の払いもどしを含めて、断交の条件を検討しているところです。返済は五回に分けておこなわれます」「金（かね）で追い払うつもりか」アリンガローサは問いただした。「札束（さつたば）をよこすからだまって出ていけと？オプス・デイはただひとつ残った理性の声だというのに！」枢機卿のひとりが目をあげた。「理性だと？」 アリンガローサは机に身を乗り出し、声をとがらせた。「なぜカトリック教会から信徒が離れていくのかを、本気で考えたことがありますか。自分のまわりをご覧なさい。人々の敬意は失われています。そして、信仰の厳格さも。教義はまるでセルフサービスのメニューです。小斎、告解、聖体、洗礼、ミサ----好きな組み合わせを選んで、ほかには知らん顔というわけだ。信仰のあり方について、いまの教会はどんな指針を示しているというのですか」 (3-P192)「三世紀の教えを」もうひとりの枢機卿が言った。「現代の信者にあてはめることはできない。今日（こんにち）の社会で実行できる掟（おきて）ではないんだよ」「オプス・デイでは実行されています！」 「アリンガローサ司教」長官は断固とした口調（くちょう）で言った。「前教皇とあなたがたとの関係に配慮して、聖下はオプス・デイが自発的にカトリック教会から離脱するまで、六か月の猶予（ゆうよ）をくださいます。意見の相違を整理して、あなたがた独自の教会組織を設立なさるといい」。 「ことわる！」アリンガローサは言いきった。「聖下に直接申しあげたい！」「あいにく、聖下はもはやあなたに会うことをお望みではありません」アリンガローサは立ちあがった。「前教皇が制定なさった属人区を廃棄できるはずがない」「主は与え、主は奪う（ヨブ記1-21）」長官の目はまじろぎもしなかった。「おわかりですね」。 (3-P193)衝撃と混乱で足どりのおぼつかぬまま、アリンガローサは会合の場を立ち去った。ニューヨークにもどってからは、キリスト教の将来を思って悲しみにうちひしがれつつ、何日も地平線を見つめるばかりだった。

「ルカによる福音書」6章　 6-43悪い実のなる良い木はないし、また良い実のなる悪い木もない。6-44木はそれぞれ、その実でわかる。いばらからいちじくを取ることはないし、野ばらからぶどうを摘むこともない。6-45善人は良い心の倉から良い物を取り出し、悪人は悪い倉から悪い物を取り出す。心からあふれ出ることを、口が語るものである。

「ダビンチコード」のうんちく

（完）

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ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義

略称：オリジナル教会

2020/4/29、5/1

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聖句引用：日本聖書協会　口語訳聖書 新約聖書（１９５４年改訳） 旧約聖書（１９５５年改訳） バルバロ聖書（旧約差分）

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作成履歴

ページ制作者：ささくら修道会　総長　笹倉正義
2012/2/4、2012/2/5、2012/2/28、2012/3/24、2012/5/12
聖句引用：日本聖書協会　口語訳聖書
旧約聖書（１９５５年改訳）
新約聖書（１９５４年改訳）