４１章「紹介(しょうかい)」

モンテ・クリスト伯爵ことエドモンは、モルセール伯爵ことフェルナンと再会した。しかし、フェルナンはエドモンを見抜けなかった。しかし、メルセデスは、「お待ちいたしましょう」という彼の声を聞いた瞬間に、それがエドモンのものだとわかった。パリへ何しに来たのだろう？という疑問が、得体の知れない不安となって、彼女をおそった。しかし、自分たちにもまして、持たないものがないというのに、何を警戒したらいいのでしょうという息子の答えに、彼女はようやく安堵した。そして、息子に見守られて、眠りにおちていった。

目次

（１）画「カタロニヤの娘」 3-41-1-43これは、母が七八年前に描かせたもので、着物は、ちょっとした思いつきからこういうふうにしたということでした。１８３０年頃の母を目のあたり見せて、なかなかよく描かれております。母がこの肖像を描かせましたのは、父の留守のあいだだったと申すことで、たぶん父が帰って来て驚く顔を見ようという、やさしい気持からのことと思いますが、おかしなこと、父にはこれが気に入りませんでした。

（２）モルセール家の紋章 3-41-2-32「『つぐみ』を見ればわかります。聖地（エルサレム）遠征を企て、或いはそれに成功もおさめた武装をした巡礼者たちは、ほとんどみんな、或いは自分たちがそのために身をささげたしるしの十字架を紋章とし、或いは、その人たちが思い立ち、信仰の翼に乗って成就しようとした遠征のしるしに、渡り鳥を紋章にしました。お父様の御先祖の中に、十字軍の一員だった方がおいででしょう。聖王ルイの十字軍であたっとしても、まさに十三世紀の昔に遡りますな。

（３）モルセ−ル伯爵 3-41-3-3それから察するところ、肖像の主は、ギリシャ、スペインの両戦役に出征したか、或いは、これほどの勲章をもらうために、その両国にあって、なにか大きな外交的な使命を果たしたものと思われた。モンテ・クリスト伯は、この肖像にたいしても、前のものに劣らぬほどの注意をこめて吟味していた。そうしているところへ、横手のドアが開いて、突然モルセール伯爵が現われた。

（４）パリのメルセデス 3-41-4-3夫人は、モンテ・クリスト伯が自分のほうを振り向いたとき、身動きもせず、青ざめた顔をして、われにもあらず金色に塗った戸の『かまち』にかけていた腕をおろした。夫人は、しばらく前からそこに立っていて、このイタリーからの客の口から言われた、最後の言葉を聞いたのだった。

（５）メルセデスの動揺 3-41-5-18こう言って、彼は『ひらり』と車中に身を置いた。扉はすぐに閉められた。そして、車はたちまち矢のようにい走り出した。だが、伯爵は、夫人を残してきた客間の窓掛が、微かに揺れているのを見逃さなかった。母のもとに帰ったアルベールは、母が、居間の『びろうど』張りの大きな肘掛椅子に身を埋めているのを見出した。

（６）彼は何しにパリに？ 3-41-6-18「アルベール、これはお母さんとしてのおたずねだけれど、あなたは、モンテ・クリスト伯爵が御自分のところにおいでのところをごらんだったのね。あなたには、物を見とおす力がおありなんだし、ひとさまのことが相当わかるし、おなじ年ごろの人にくらべて勘もきいていると思うんだけれど、伯爵は、お見うけしたとおりのお方かしら？」。「見うけるとおりといいますと？」。「いま、あなたが言っていたように、りっぱな貴族のお生まれかしら？」。

（７）眠りにおちた母 3-41-7-14財産も有り余るほど持っていると自分の口から言っておいでで、僕に金を貸せなんて言い出したりされたら、それこそ、自分で自分をもの笑いの種になさるわけです。伯爵のどこに用心したらいいのでしょう？」。「たしかにお前の言うとおりさ」と、伯爵夫人は言った。

次へ

ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2016/9/30、2017/7/8-14