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| 3-41-7-1「で、あの方（かた）は、あなたとお友だちになってくだすったわけなの、アルベール？」。3-41-7-2彼女（かのじょ）は、神経的（しんけいてき）に体（からだ）を震（ふる）わせながらたずねた。3-41-7-3「そうなんです」。3-41-7-4「そして、お前のほうでも・・・・あなたのほうでもあの方（かた）がすき？」。3-41-7-5「好きですとも。3-41-7-6フランツ・デピネーなんか、あの人は、あの世（よ）から帰ってきた男だなんて言ってましたが」。3-41-7-7伯爵夫人は、おそろしいといったような身ぶりをした。3-41-7-8「アルベール、」そう言った夫人の声は変わっていた。 3-41-7-9「新しいお友だちには、用心（ようじん）するようにといつも言ってあげていましたね。3-41-7-10あなたはいまは一人前（いちにんまえ）だし、このわたしにでも、意見（いけん）が言えるくらいでしょう。3-41-7-11でも、くり返し言っとくけれど、気をつけなければいけませんよ」。3-41-7-12「御注意（ごちゅうい）はありがたいと思うのですが、なにを気をつけたらいいのでしょう。3-41-7-13伯爵は、べつに遊（あそ）びごともされませんし、酒（さけ）といったら、水の中にスペイン葡萄酒（ぶどうしゅ）を一滴（いってき）垂（た）らして、ようやく色（いろ）のついたものを飲（の）まれるくらいが関（せき）の山（やま）です。 3-41-7-14財産（ざいさん）も有（あ）り余（あま）るほど持（も）っていると自分（じぶん）の口（くち）から言っておいでで、僕に金（かね）を貸（か）せなんて言い出したりされたら、それこそ、自分で自分をもの笑いの種（たね）になさるわけです。3-41-7-15伯爵のどこに用心（ようじん）したらいいのでしょう？」。3-41-7-16「たしかにお前の言うとおりさ」と、伯爵夫人は言った。3-41-7-17「お前を助けてくだすった方だときうのに、ばかな心配をしたものでした。3-41-7-18ところで、お父さまはどんなおもてなしをなすったの？3-41-7-19伯爵には、じゅぶんすぎるほどのおもてなしをしても足（た）りないことだし。3-41-7-20お父さまは、ときどきお忙（いそが）しくって、胸（むね）につかえるお仕事（しごと）なんかがあったりすると、たといそんなおつもりではないにしても・・・・」。 3-41-7-21「申（もう）しぶんのない応待（おうたい）をなさいました」と、アルベールがそれをさえぎった。3-41-7-22「伯爵から、まるで三十年も前からのお友だちとでもいったような、わざわざ合槌（あいづち）を打（う）つというのでない、御挨拶（ごあいさつ）をお受（う）けになって、すっかり喜（よろこ）んでおいででした。3-41-7-23伯爵が、ちょいちょい褒（ほ）めてくださるのをお聞きになって、とても喜んでおいでのようで、」と、アルベールは笑いながらつけ加えた。3-41-7-24「いざお別（わか）れというときには、すっかり親（した）しくおなりになって、お父さまは、伯爵（＝エドモン）を議会（ぎかい）へ御案内（ごあんない）して、御自分（じぶん）の演説（えんぜつ）を聞いていただこうとさえなさいました」。 3-41-7-25伯爵夫人（メルセデス）は、なにも返事（へんじ）をしなかった。3-41-7-26深（ふか）い思いに沈（しず）んだ夫人は、次第（しだい）次第にその目を閉（とじ）じた。3-41-7-27青年（せいねん）は、夫人の前にたたずんだまま、ちょうど幼（おさな）い子供（こども）が、まだ若（わか）く美（うつく）しい母親（ははおや）にたいして感（かん）じるような、いつにもまして濃（こい）やかな、子としての愛情を目にこめながら、じっと母を見つめていた。3-41-7-28やがて、母の眼の閉じられたのを見た彼は、しばらく母が、やさしく身動きせずに呼吸（こきゅう）しているのに聴き入った後、母が眠ったのをたしかめると、爪先（つまさに）立（だ）ってその場をはずし、母をそのままにしておいてドアを押した。 3-41-7-29「たしかにあの人は、向うにいたとき彼にも言っておいたように、社交界に大きなセンセーションを引き起こすにちがいない」と、彼は頭を振（ふ）りつぶやいた。3-41-7-30「このおれは、くるいなしの寒暖計（かんだんけい）で、あの人の力（ちから）を計ってるんだ。3-41-7-31お母さままでが、それに気がおつきになった以上、たしかにすばらしい人にちがいない」。3-41-7-32こう言いながら、彼は厩舎（きゅうしゃ）に降りて行った。3-41-7-33だが、心の中では、ひそかにモンテ・クリスト伯爵を怨（うら）んでいた。3-41-7-34というのは、伯爵が、自分ではその気もなしに、専門家（せんもんか）の目から見て、彼の持ち馬の鹿毛（かげ）が二位（にい）に落ちざるを得ないような、みごとな馬を手に入れたからのことだった。3-41-7-35「たしかに、」と、彼は言った。3-41-7-36「人間（にんげん）、すべて平等（びょうどう）にはできていない。3-41-7-37お父さんにお願いして、ここの道理（どうり）を一つ上院（じょういん）で説（と）いてもらおう」。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/14