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| 3-42-1-1こうしたあいだに、伯爵はすでに自分の家についていた。3-42-1-2その間（かん）、六分（ろっぷん）を費やしたが、この僅（わず）か六分の間（あいだ）に、二十人ばかりの青年（せいねん＝若者）たちは、自分たちが買（か）えなかった一頭（いっとう）十万フラン（１００，０００X１，０００＝１億円）もする馬を買ったすばらしい紳士（しんし）を見ようと、馬（うま）を飛（と）ばしてやってきていた。3-42-1-3そこで伯爵は、すっかり顔をさらすことになってしまった。 3-42-1-4さて、アリの『めがね：センス』で選ばれ、これからモンテ・クリスト伯の邸宅（ていたく）になろうというその家は、シャン・ゼリゼー町を上がった右側にあって、前とうしろに、前庭（まえにわ：ぜんてい）と庭園（ていえん）とを持っていた。3-42-1-5建物（たてもの）の正面（しょうめん）は、前庭の真中（まんなか）に聳（そび）え立った『こんもり』した茂（しげ）みによって一部分（いちぶぶん）隠（かく）されていた。3-42-1-6この茂みをまわって、両腕（りょううで）のように二（ふた）すじの径（みち）が左右（さゆう）に延（の）びており、それが門（もん）から玄関（げんかん）へかけて車を導いて行くわけだった。 3-42-1-7玄関前の階段（かいだん）は二段（にだん）になっていて、その一段（いちだん）一段の上には、花（はな）を盛（も）った陶器（とうき）の鉢（はち）が据（す）えられていた。3-42-1-8邸（やしき）は、広（ひろ）い地所（じしょ）の真中にただ一棟（いっとう）建（た）てられ、正門（せいもん）のほかに、ポンティユ町に面（めん）して『も』一つ門がついていた。 3-42-1-9馭者（ぎょしゃ）が呼（よ）ぶのをまたずに、門番（もんばん）の手（て）によって、重（おも）い鉄門（てつもん）が開（ひら）かれた。3-42-1-10すでに邸内（ていない）から、伯爵のくるのが見えていたのだ。3-42-1-11こうして伯爵は、パリにおいても、ローマにおけると同じように、稲妻（いなずま）のような敏捷（びんしょう）さで仕（つか）えてもらっているわけだった。3-42-1-12馭者は、邸内にはいると、馬の足掻（あしか）きをゆるめもせずに、半円（はんえん）を描（えが）かせて馬車をすすめた。3-42-1-13門は、車輪（しゃりん）がまだ小径（こみち）の小砂利（こ・じゃり）の上をきしっているうち、早（はや）くもふたたび閉（と）ざされてしまった。3-42-1-14馬車は、車寄（くるまよ）せの左側（ひだりがわ）に止（と）まった。 3-42-1-15二人（ふたり）の男（おとこ）が、車（くるま）の戸口（とぐち）に立（た）っていた。3-42-1-16その一人（ひとり）はアリ。3-42-1-17彼（かれ）は、おどろくほどすなおな喜（よろこ）びを顔（かお）に浮（う）かべて、主人（しゅじん）に向（む）かって微笑（びしょう）を送った。3-42-1-18だが、モンテ・クリスト伯（はく）は、これにたいしてただ一瞥（いちべつ）を与（あた）えたにすぎなかった。 3-42-1-19も一人（ひとり）の男は、恭（うやうや）しく会釈（えしゃく）しながら、馬車から降（お）り立つ伯爵のために、手をかした。3-42-1-20「ありがとう、ベルツッチオ」と、伯爵は、三段になった馬車の踏み台（ふみだい）を跳（と）び下（お）りながら言った。3-42-1-21「で、公証人（こうしょうにん）は？」。3-42-1-22「小さな客間（きゃくま）のほうでお待（ま）ち申（もう）しておられます」と、ベルツッチオが答（こた）えた。 3-42-1-23「それから、番地（ばんち）がわかりしだいすぐ彫（ほ）らせるように言（い）いつけておいた名刺（めいし）は？」（著者註：名刺を彫るとは、つまり銅版の名刺のその原版を彫ること）。3-42-1-24「できております。パレー・ロワイヤル随一（ずいいつ）という彫師（ほりし）のところへまいりまして、見（み）ている前（まえ）で原版（げんばん）をつくらせました。3-42-1-25最初（さいしょ）に刷（す）れました御名刺（おめいし）は、お申しつけどおり、すぐにショセ・ダンタン町七番地の代議士（だいぎし）ダングラール男爵さまのところにお届（とど）けいたしておきました。3-42-1-26残（のく）りは、御寝室（ごしんしつ）の暖炉棚（だんろだな）の上にございます」。 3-42-1-27「よし。3-42-1-28ところで、いま何時（なんじ）だな？」。3-42-1-29「四時（よじ）でございます」。3-42-1-30モンテクリスト伯は、さっき、車を呼ぼうとモルセール伯の家の控（ひか）えの間（ま）から跳（と）び出していったあのフランス人の下僕（げぼく）の手（て）に、手袋（てぶくろ）と帽子（ぼうし）と杖（つえ）とを渡（わた）した。3-42-1-31そして、案内（あんない）をつとめるベルツッチオに導（みちび）かれて、小（ちい）さな客間（きゃくま）の方（ほう）へ通（とお）って行（い）った。3-42-1-32「この控室（ひかえしつ）の大理石（だいりせき）像（ぞう）は貧弱（ひんじゃく）だな」と、モンテ・クリスト伯は言った。3-42-1-33「これはすっかりとってもらおう」。3-42-1-34ベルツッチオは、ていねいに体（からだ）をかがめた。 3-42-1-35家令（かれい）の言ったように、公証人は小さな客間のほうで待っていた。3-42-1-36正直（しょうじき）そうな顔（かお）をしていて、以前（いぜん）パリ市（し）の二等（にとう）書記（しょき）を勤（つと）めていたが、異常（いじょう）な出世（しゅっせ）というわけで、郊外（こうがい）の町（まち）の公証人になったという男だった。 3-42-1-37「あなたが、わたしの買（か）おうという別荘（べっそう）の売却方（ばいきゃくかた）をお引（ひ）き受（う）けの公証人さんですか？」と、モンテ・クリスト伯がたずねた。 3-42-1-38「はい、伯爵」と、公証人が答えた。 3-42-1-39「売買（ばいばい）契約書（けいやくしょ）はできておりますか？」。 3-42-1-40「はい」。 3-42-1-41「それを持（も）ってきてくださいましたか？」。 3-42-1-42「ここにございます」。 3-42-1-43「けっこう。3-42-1-44ところで、わたしの買おうという家はいったいどこにあるのかな？」と、モンテ・クリスト伯は、気乗（きの）りのしないようなようすで、なかばはベルツッチオ、なかばは公証人のほうへ向かってたずねた。 3-42-1-45家令は《さあ・・・・》といったようすをした。3-42-1-46公証人は、びっくりしたように、モンテ・クリスト伯の顔を見つめた。 3-42-1-47「では、お求（もと）めになる邸（やしき）が、どこにあるのか御存（ごぞん）じないので？」。 3-42-1-48「知（し）りません」と、伯爵が言った。 3-42-1-49「御存じない？」。 3-42-1-50「知っているはずがありましょうか？3-42-1-51わたしは、今朝（けさ）デディスから着（つ）きました。3-42-1-52これまで一度（いちど）もパリに来（き）たことがなかったばかりか、フランスへ足（あし）をふみ入れたことさえ、これがはじめてというわけですから」。 3-42-1-53「なるほど。それでは御無理（ごむり）もございませんな」と、公証人は答えた。 3-42-1-54「お求（もと）めになろうというお邸は、オートィユなのでございます」。 3-42-1-55それを聞いて、ベルツッチオは見るみる顔の色をかえた。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/7/16