７章「尋問(じんもん)」

尋問が終わらんとしていた時、検事代理はなにげなく手紙のあて先を訊いた。あて先は「パリのノワルティエ氏」とダンテスが答えた時、二人の運命の歯車が回り始めた。

目次

７（１）検事代理とモレル氏　1-7-1-39ビルフォールは、これまでのところでもわかったように、市の貴族社会に属していた。そしてモレル氏の属しているのは平民の社会だった。1前者が急進の王党であるのにたいして、後者は暗々裏にボナパルト党たることを疑われていた。ビルフォールは、さげすむような目でモレル氏をながめた。そして、冷然たる態度でこう答えた。

７（２）貴族と平民の青年　1-7-2-47そして、幸福の最中をおそわれたダンテスの、そのいかにも感動しきった声を聞くと、心の底からの同情の念が目覚めかけた。自分もまた結婚しかけていたのだった。自分もまた幸福だった。そしてその幸福は、ちょうどこの自分とおなじように、あわや幸福に手が届こうとしていた一人の男の喜びを滅ぼすために呼びにこられたため、妨げられたというわけだった。

７（３）ねたむ者の覚えは　1-7-3-51「それは間違ってると思うな。自分の身のまわりというものは、いつもできだけ『はっきり』ながめていなければいけない。そして、じつのところ、君はいかにもりっぱな青年のようにお見受けする。そこでわたしは、裁判所のいつもの規則を曲げようと思うのだ。そして、君がなぜこんなところへこなければならなくなったか、その告訴状を見せてあげて、君が思いあたるための手だすけをしてあげようと思う。

７（４）ルクレール船長の遺言　1-7-4-22「こうなのです。ナポリを出るとルクレール船長は脳膜炎にかかって床につきました。なにしろ船には医者がおりませんし、それに、船長は一刻も早くエルバ島まで行こうという考えで沿岸のどこにも寄港するのを望まれなかったものですから、病気は『ぐっ』と重り、三日目の夕方には、もう自分でもいよいよ最後であると気づいて、わたしをそば近く呼んで『ダンテス君』と、言われました、『君の名誉にかけて、これからわたしのいうことをやってくれると誓ってくれたまえ。非常に重大なことなのだ』。

７（５）宛名はノワルティエ　1-7-5-20「コック・エロン町十三番地、ノワルティエ殿」。そう読みあげる彼の顔は見るみる青くなっていった。「そうです」と、ダンテスは驚きながら答えた。「その方を御存じですか？」。「いや」と、ビルフォールはきっぱり答えた。「王に対して忠実なものは、『むほんにん』なんぞに知り合いはないのだ」。

７（６）証拠物件を灰に　1-7-6-46ただし、手紙のことだけは絶対秘密にしておくようにな」。「お約束します」。それはまるで、ビルフォールのほうが頼みこんででもいるようだった。そして、さも被告が裁判官をなだめてやってでもいるようだった。「わかったね」。ビルフォールは灰の上に一瞥を与えながら言った。そこにはまだ紙の形が残っていた。

７（７）運命の歯車　1-7-7-4《人生（じんせい）といい、運命（うんめい）といい、それは何と関係しているというのだろう！・・・・もしも検事がマルセイユにいたとしたら、もしもおれの代わりに予審判事が呼ばれていたら、おれはまさに破滅していた。おれは、この手紙、この呪うべき手紙によって深淵に叩きこまれるところだった。

次へ

引用者：2016/6/6-7　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会