(17・8)マノン死す、遺体を騎士自らの衣に包み埋葬

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(17) 8/8

17-8-1私たちは夜の一部をおだやかにすごした。17-8-2私のいとしい恋人は眠っているものとばかり思っていた私は、彼女の眠りをみだすのを恐れて、わずかの息も吐きかねていた。17-8-3明け方になって、彼女の手にさわってみると、それが冷たく、ふるえていることがわかった。17-8-4私はあたためてやろうと思って、自分の胸のところへ近づけた。17-8-5それに気づいた彼女は、私の手を握ろうとして、ある努力を試みながら、かぼそい声で、最後の時が来たように思うと言った。 17-8-6最初、私はそれを不仕合せのときなどに普通に言う言葉としか受取らなかった。17-8-7だから、恋ゆえの優しい慰安の言葉でそれに答えただけだった。17-8-8しかし、彼女のつく息がせわしかったり、私の問いに黙っていたり、私の手を握りしめたりすることで、彼女の不幸が終ろうとしていることがわかった。 17-8-9そのときの私の気持を述べることも、彼女のいまわの表情を説明することも、どうか私に求めないでください。17-8-10私は彼女を失ったのである。17-8-11そして、彼女が息をひきとるその瞬間においてさえ、私は彼女から愛のしるしを受取ったのである。17-8-12この宿命的な、いたましい出来事で、私にお話しできる勇気のあることはといえば、これくらいのものです。17-8-13私の魂は彼女の魂を追いかけはしなかった。 17-8-14おそらく神は罰し方がまだこれでは足りないと思ったのだろう。17-8-15今後も、私が無気力な、悲惨きわまる生活をつづけることを神は欲したのだった。17-8-16私にしたって、今まで以上に幸福な生活をおくることなど真っ平である。 17-8-17私はいとしいマノンの顔と手に二十四時間以上も自分の口をぴったりつけたままでいた。17-8-18私はそこで死ぬつもりだった。17-8-19しかし、二日目の明け方に気づいたことだが、もし私が死んでしまえば、彼女の死体が野獣の餌食にさらされることはわかりきっていた。17-8-20私は彼女を埋めて、その墓穴の上で死を待つことにした。 17-8-21絶食と苦悩から来る衰弱のため、すでに私は末期に近づいていたらしく。立っているだけでも非常な努力が必要なほどだった。17-8-22私はたずさえてきた酒の力を借りなければならなかった。17-8-23それは私がこの悲しい奉仕をするのに必要なだけの体力をもどしてくれた。17-8-24その場所では土を掘るのに骨は折れなかった。17-8-25砂ばかりの野原だったからだ。17-8-26剣で掘ろうとしたが、折れてしまった。17-8-27しかし、剣よりは手でやるほうがずっとはかどった。 17-8-28大きな穴ができた。17-8-29そこへ私は自分の心の偶像を移した。17-8-30砂が着かないように、自分のありったけの着物でつつむことも忘れなかった。17-8-31もとより、世にも完璧な恋の情熱を傾けつくして、千べんも接吻してからのことだった。17-8-32私はまだ彼女のそばにすわっていた。17-8-33長いこと、彼女をながめた。 17-8-34私には墓穴を閉じる決心がつかなかったのだ。17-8-35しかし、私の体力はふたたび衰えはじめた。17-8-36この仕事を終える前につきはててしまうのではないかと思われたので、私はこの地上で最も完全で、最も愛すべきものを大地のふところへ永久に埋めたのだった。17-8-37ついで、私は砂に顔をうずめたまま、墓穴の上に身を横たえた。17-8-38そして、ふたたびとは開くまいと目を閉じながら、神の救いを求め、ひたすらに死を待った。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/21

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