(17・7)マノンと騎士、イギリス人居住区まで徒歩の逃避行

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(17) 7/8

17-7-1「だって、いとしいマノン！」17-7-2私は生きた心地もなく言った。17-7-3「逃げるって、どこへ行ったらいいの。17-7-4何かいい逃げみちでもあるの？17-7-5ぼくがいなくたって、きみは辛抱してここにいたまえ。17-7-6そのほうがいいよ。17-7-7そして、ぼくは司政官のところへいさぎよく自分の首をさし出すほうがよかろう」 17-7-8この提案は、彼女の逃亡熱をあおるだけだった。17-7-9彼女に従うよりほかはなかった。17-7-10それでも私にはまだ機転が残っていたとみえ、出がけに、部屋にあった数本の強い酒と、ポケットにはいるだけの食料を運び出すことを忘れなかった。 17-7-11隣室にいた使用人たちには、夕方の散歩に行ってくると言った。17-7-12毎日、私たちにはこの習慣があったからだ。17-7-13こうして、私たちは町を遠ざかった。 17-7-14足弱のマノンには無理なほどの強行軍だった。17-7-15私たちの隠れ場所については未解決のままとはいえ、私には二つの希望が残っていなくはなかった。17-7-16もっとも、この希望がなかったとしたら、私はマノンのことで心配するよりは、とっくに死んでしまっていたことだろう。17-7-17だから、これはぎりぎりの希望だった。 17-7-18アメリカに来てから、もうかれこれ十カ月になってもい、私はこの土地がらにかなり通暁していたので、土人たちを手なずける方法をわきまえていた。17-7-19彼らに捕えられたからといって、必ず殺されるとは限っていなかった。17-7-20それに、私は彼らとさまざまの機会に会っているので、その言葉や習慣について、多少の知識さえ持っていた。 17-7-21このあぶなっかしい頼りの綱に加えて、一方、イギリス人という頼りがあった。17-7-22つまり、彼らもわれわれフランス人同様、新世界のこの地方に植民地を持っていたのである。17-7-23ただ、それが遠いのが心配だった。17-7-24その植民地に行きつくまでには、幾日もかかるような広漠とした不毛の原野を横断しなければならないし、また、屈強な、荒くれ男にさえ容易でないような、高く、けわしい山々を越えなければならなかった。17-7-25それでも私はこの二つの頼りの綱をあてにして、わずかにみずからなぐさめていた。 17-7-26つまり、土人には案内してもらうこと、イギリス人には、その居住地に入れてもらうことの二つだった。17-7-27私たちはマノンの元気がつづくかぎり歩いた。17-7-28つまり四キロ近かった。 17-7-29なぜなら、この比類ない恋人は、もっと早く休息することを拒みつづけたからだった。17-7-30ついに、疲労しつくした彼女は、もう一歩も進めないと告白した。17-7-31夜になっていた17-7-32宿るべき一本の樹木とて見当らず、私たちは広野のただ中にすわってしまった。 17-7-33彼女の最初の心づかいは、私たちの出発前、彼女が手当てをしておいてくれた私の包帯をかえることだった。17-7-34私がそれにいくら反対してもむだだった。17-7-35私の傷の心配も去って、私がくつろぐのを見とどけて安心したいという彼女の願いをしりぞけて、もし私が彼女の身の保全のほうを先に考えたとしたならば、それは彼女を殺すほど苦しめるようなものだった。17-7-36だから、しばらくのあいだは私も彼女の言うがままになっていた。17-7-37黙って、しかし、心に恥じながら、彼女の手当てを受けていた。 17-7-38しかし、彼女が自分の情愛をみたし終えたとき、今度は私の情愛がなんと猛烈にわきおこったことだろう！17-7-39私は自分の着ているものを全部ぬぎすてると、彼女の下に敷いて、硬い地面をやわらかくしてやろうとした。17-7-40私はむりやりにも納得させて、自分にできることなら、すこしでも彼女を居心地よくさせようと工夫した。17-7-41私は熱い接吻と、溜息の熱気で、彼女の両手をあたためてやった。17-7-42私は彼女のそばに一晩じゅうまんじりともせずに付き添っていた。17-7-43そして、天が彼女に平和な眠りをあたえてくれるようにと祈りつづけた。 おお神よ 17-7-44おお、神よ！17-7-45いかに私の祈願ははげしく、真摯であったことよ！17-7-46しかも、いかにきびしい審によって、あなたはそれも聞き入れるのを拒否したことよ！17-7-47どうかこのせつない物語を数言で終るとしてもお許しください。 17-7-48私はかつて世に類例のなかったような一つの不幸な出来事をお話ししようとしています。17-7-49私の一生は、それを嘆き悲しむように運命づけられているのでしょう。17-7-50私はたえずこの不幸を記憶の中に持っていながら、それでいて、それを口にしようとするごとに、私の魂は恐怖のために身じろぐかと思われます。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/21

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