(17・6)騎士とサンヌレの一騎打ち、なぜか騎士の二本勝ち

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(17) 6/8

17-6-1この頑冥な老人、自分の甥のためなら千べんの地獄落ちも辞さないようなこの老人からはなんの希望も得られないことが、私はこの家を出ようとしたときにはわかりすぎるほどわかった。17-6-2しかし、私は最後まで穏健な態度を保っていようという覚悟は捨てなかった。17-6-3もっとも、もし相手があんまり理不尽な挙に出るようなことがあったなら、これまで恋愛沙汰で起ったうちでいちばん血みどろな、いちばんものすごい場面をアメリカで演じてやろうという肚はちゃんとできていた。 17-6-4私はこの画策を練りながら家にもどろうとしていたところ、運命は、私の破滅を早めようとして、サンヌレに私を出くわさせたのである。17-6-5彼は私の目の中に覚悟の一部を読んだのだった。17-6-6前にも言ったように、勇敢な男である。17-6-7私のそばに寄ってきた。17-6-8「おれを捜しているのじゃないか？」17-6-9彼は言った。 17-6-10「おれの考えがきみの気にさわったことは承知している。17-6-11だから、そのうち、きみとのどの切り合いをしなけりゃならぬことは覚悟していた。17-6-12さあ、どっとのほうが幸運をかちうるか、ひとつやってみようじゃないか」17-6-13私はそれに答えて、彼の言うのはもっともである、われわれの争いを解決するのは私の死あるのみだ、と言った。 17-6-14われわれは町から百歩ばかり出はずれたところへ行った。17-6-15われわれの剣は組あわされた。17-6-16私は彼を負傷させ、それとほとんど同時に彼の武器を奪った。17-6-17彼は自分の失敗にやっきとなっていたので、命乞いをすることも、マノンを断念することも断わったくらいだった。17-6-18おそらく私は一挙に片づけて、マノンをあきらめさせることもできただろう。 17-6-19ところが、雅量に富んでいる血はよくしたものである。17-6-20私は彼に剣を投げかえしてやった。17-6-21「やりなおそう」私は言った。17-6-22「今度は容赦しないからそう思いたまえ」17-6-23彼はものすごい剣幕で打ちこんできた。17-6-24なにしろ、私はパリで三カ月しか道場に通わなかったのだから、剣術が強いとは言いかねた。17-6-25どうやら恋が私の剣を操縦してくれたのだろう。17-6-26サンヌレとてさるもの、私の腕をところどころ刺さずにはいなかったが、私は相手のすきに乗じて、強い一撃を思いきり食らわせたので、彼は私の足もとに倒れると、そのまま身動きもしなかった。 17-6-27命かけての争闘に勝った喜びのかげで、この死がもたらすさまざまの結果についてすぐ思いめぐらさなければならなかった。17-6-28刑罰の特赦も、猶予も望まれるはずはなかった。17-6-29司政官の甥に対する愛情がどんなであるかを知っているだけに、もう私には何もかもわかっていた。17-6-30私の死は、彼の死が判明した後、一時間とは延ばされないことは確実だった。17-6-31この恐怖は切実なものであるとはいえ、私の不安の最も大きな原因ではなかった。 17-6-32マノンが、マノンのことが、マノンの危急が、マノンを失わねばならないことが、私を混乱させて、私の眼前を真っ暗にし、ために、私はどこにいるのかわからないくらいだった。17-6-33私はサンヌレを殺したのを後悔した。17-6-34私もその場で死ぬことが私の苦痛の唯一の救済法であるように思われた。17-6-35ところが、ある考え方が、私に理性をはっきりと呼びさまし、私にある決心を可能にさせた。17-6-36「なんだって！おれは自分の苦痛をのがれるために、死のうっていうのか！」17-6-37私は叫んだ。17-6-38「すると、自分の愛するものを失うよりも、もっとこわいものがあるとみえるな！17-6-39ああ！それよりか、自分の愛人を救うために、どんなにひどい苦しみも、ぎりぎりまで我慢するとしよう。 17-6-40そして、我慢したのがむだだったとわかるまで、死ぬのを延ばそう」17-6-41私は町のほうへ引返した。17-6-42家にはいってみると、マノンは、恐怖と不安で死んだようになっていた。17-6-43私を見て、やっと彼女は元気づいた。17-6-44私は今しがた起った恐ろしい事件をかくしていることができなかった。17-6-45彼女は、サンヌレの死と私の負傷のはなしを聞くと、意識を失って、私の腕の中にくずれ落ちた。 17-6-46私は彼女を正気にもどすのにたっぷり十五分はかかった。17-6-47私自身も半分死んでいた。17-6-48彼女の安全、私自身の安全ということになると、もう私にはわずかの光も見えなかった。17-6-49「マノン、ぼくらはどうしよう？」17-6-50私は彼女がいくぶん力をとりもどしたのを見て、言った。17-6-51「ああ！ぼくたち、これからどうしたらいいんだろう？17-6-52どっちみち、ぼくはここを離れなければならない。17-6-53きみは町に残っていたいんだろう？17-6-54それなら、そうしてくれたまえ。17-6-55きみはここにいたってく幸福になれるんだもの。17-6-56そうして、ぼくは行くよ、きみから遠く離れてね。17-6-57野蛮人たちの中に、猛獣の爪の中に、死を求めに行くよ」 17-6-58彼女は身の疲労を忘れて立ちあがると、私の手をとって、戸口のほうへ引っぱっていった。17-6-59「逃げちゃうのよ、いっしょに」17-6-60彼女は言った。17-6-61「ぐずぐずしちゃいられないの。17-6-62サンヌレの死骸が見つかったかもしれないでしょう。17-6-63そしたら、逃げる暇だってなくなるもの」

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/21

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