(17・5)自分以外は野獣、懲りない騎士の勇猛果敢な激高

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(17) 5/8

17-5-1「マノンについては別に考えがあるんですって！」私は死ぬほど胸を刺される思いで言った。17-5-2「すると、教誨師さま、それはどんな考えなんでしょう？」 17-5-3彼の答えは-司政官殿がここの主であることぐらい知らぬことはあるまい。17-5-4そして、マノンはフランスからこの植民地に送られてきた以上、その処置が彼の権限にあるのは当然である。17-5-5ところで、これまで彼が正当な処置をとらなかったのは、彼女が結婚しているものと信じていたからである。17-5-6しかし、結婚していないということを当人から聞かされた以上、彼女に恋しているサンヌレ氏にあたえるのを彼は至当だと判断したからである、というのであった。 17-5-7かっとなった私は、慎重に事を処するどころではなかった。17-5-8教誨師にはすぐにも家を出ていってくれと、高飛車に命じた。17-5-9司政官であろうが、サンヌレであろうが、町じゅうのだれであろうが、私の妻に、彼らに言わせれば私の娼婦かもしれないが、指一本でもさわらせないとどなりちらした。 17-5-10私は今受けたばかりののろうべき伝言をすぐにマノンに知らせた。17-5-11これは私の帰ったあとでサンヌレが伯父の心を誘惑したもので、かなり以前からもくろまれていた計画の結果だと私たちは見てとった。17-5-12彼らは最大の強者だった。17-5-13それにひきかえ、私たちがニュー・オルレアンにいるのは、大海の真ん中にいるのとちがわなかった。 17-5-14言いかえれば、広大な空間によって他の世界から隔絶されているのだ。17-5-15どこへ逃げたらいいか、人跡未踏の国か？17-5-16それとも、猛獣か、さもなければ、それに劣らぬ野蛮人の住んでいる国か？17-5-17なるほど、私はこの町では尊敬されていた。17-5-18しかし、ここの住民を自分の都合のいいように動かして、この災難に匹敵するだけの援助が得られるということは、とうてい望めなかった。 17-5-19それには金もいるだろうが、私は貧乏だった。17-5-20だいいち、住民が騒いだところで、それで成功するかどうかもあやしいものだった。17-5-21しかも万一、運が向かなかったとすれば、私たちの不幸は取返しのつかないものになってしまう。17-5-22このような考えに私は思いふけっていた。 17-5-23私はその一部をマノンに告げた。17-5-24そして、彼女の返事に耳をかそうともしないで、また新しい考えをつくりあげていた。17-5-25一つの決心がうかぶと、すぐまたそれを捨てて、他の決心にとびつこうとする。17-5-26私はひとりで口をきいていた。17-5-27浮かんでくる考えに、大声で答えたりした。17-5-28要するに、私は何ものにも比較できないような狂乱のただ中にいたのだ。17-5-29なぜなら、これに匹敵するような狂乱など、これまでになかったからだ。 17-5-30マノンは私の上に目を据えていた。17-5-31この私の混乱ぶりを見て、彼女にも危険のなみなみならぬことがわかったのだろう。17-5-32自分自身のためというよりは、私のために身ぶるいしながら、この可憐な娘は、自分のこわさを私に伝えるために口を開こうとさえしなかった。 17-5-33私はいろいろと思いあぐんだあげく、司政官に会いに行くという決心に落ち着いた。17-5-34彼の名誉心に訴え、また、私の敬意と彼の愛情を思い出させることによって、彼の心を動かそうと思ったからである。17-5-35彼女は私の出ていくのをとめようとした。17-5-36涙さえうかべながら、彼女は言うのだった。 17-5-37「あんた、死ぬために出かけるようなものだわ。17-5-38あの人たち、きっとあんたを殺すわ。17-5-39あたし、もうあんたに会いないのよ。17-5-40いっそ、あんたより先に死んじまいたい」17-5-41私はどうしても出かける必要のあることを、また、彼女は小屋に残っている必要のあることを納得させるためには、非常な努力がいった。17-5-42すぐにもどってくる、と彼女に私は約束した。 神の怒りと仇敵ののろい 17-5-43彼女も、そして、私も知るよしもなかったが、神の怒りと、われわれの仇敵ののろいが降りかかろうとしていたのは、じつに彼女自身の上だったのである。17-5-44私は堡塁へ出向いた。17-5-45司政官は教誨師といっしょにいた。17-5-46私は司政官を動かそうとして、卑屈なまでにへりくだった。17-5-47もしこれがぜんぜん別の動機でこんなまねをするのだとしたら、私は恥ずかしくて死んでしまったことだろうと思う。17-5-48私は言葉をつくして彼にすがりついたが、それはもし相手が残忍非常な人間でないかぎり、必ずその心に強い印象をあたえずにはおかないはずだった。17-5-49ところが、この野獣にひとしい人間が、私の哀訴に答えたのは、たった二つの返答、ただし、それを百ぺんくりかえした。 17-5-50つまり、マノンは自分が勝手に処分する、自分は甥に約束した、というのがそれであった。17-5-51私はぎりぎりまで自分の感情をおさえつける覚悟だった。17-5-52だから、私は彼に対して-自分はあくまであなたを親友だと信じているから、よもやあなたは私の死を喜ぶようなことはあるまい。しかし、私としてももし恋人を失うようなことになれば、むしろ死を選んだほうがいいと思っている、と返事しただけだった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/21

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