(17・3)見えているものから見えないものへ、経験が誘(いざな)う

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

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17-3-1「あんたのこの並みたいていでない愛情に、あたしが値しているとは思わないわ。17-3-2なにしろ、あんたにはさんざんの迷惑をかけたんだもの。17-3-3あんたのようないい人ででもなかったら、あたし、とうてい許されっこないことわかっているわ。17-3-4あたしっていう人間、軽薄で、移り気だったのね。17-3-5あのとおり、いつでもあんたを夢中になって愛していながら、それでいて、恩知らずの女っていうことになるんだわ。17-3-6でも、あれから、あたしの人柄がどんなに変わったか、あんたにはわからないでしょうよ。 17-3-7フランスを出てから、あんたはあたしが涙をこぼすのをなんべんも見たでしょうけれど、でも、自分の不幸のためにこぼしたことなんて、ただの一ぺんもなくってよ。17-3-8あんたがあたしの不幸を半分にするようになったとたんに、あたし、一ぺんにそれを感じなくなってしまったわ。17-3-9あたしの泣いたのは、ただあんたがいとおしかったからだけ、17-3-10あんたがお気の毒だったからだけ。17-3-10あたし、自分の一生で一分間あんたを悲しませたと思っただけでも無念だわ。17-3-11どうしてあたしはこう浮気なのだろうと、あたしは自分を叱ってばかりいますわ。17-3-12そして、そんなことされる値うちもないような不幸な女に、恋のためならどんなことでもしかねないあんたを見ると、あたし、すっかり感心しちゃって、ただただ驚くばかりだわ。17-3-13あたしはありったけの血を流したって」17-3-14彼女は多量の涙をこぼしながら、つけ加えた。 7-3-15「あんたにおかけした苦労の半分にもならないでしょうよ」17-3-16その涙、その言葉、そして、それを述べる語調は、私に驚くべき印象をあたえ、ために、私は自分の心が張り裂けるのではないかと思ったほどだった。17-3-17「もういいよ」17-3-18私は言った。17-3-19「ぼくのいとしいマノン、もういいよ。17-3-20ぼくはきみのそんなにはげしい愛の言葉に耐えるだけの力なんか持ってない。17-3-21そんなはげしい喜びというものにぼくは慣れていないのだ。 神さま 17-3-22おお、神さま！」17-3-23私は叫んだ。17-3-24「ぼくはもうこれ以上あなたになんにもお願いしません。17-3-25もうぼくはマノンの心をしっかり握っています。17-3-26これさえできたら、ぼくは幸福になれると思っていたのですから、もう幸福でなくなるっている法はありません。17-3-27ようやっとぼくの幸福もうちたてられました」 17-3-28「もう大丈夫だわ」17-3-29彼女は語をついだ。17-3-30「あんたさえその幸福をあたしに求めさえすればね。17-3-31そして、あたしだって自分の幸福をどこに捜したらいいかくらい、ちゃんとわきまえているわ」17-3-32わたしはこのあばら家をも世界一の王さまが住むのにふさわしい宮殿に変えるような、そんな楽しい思いをいだきながら寝についた。17-3-33だから、アメリカはまたとない楽土に思われた。 17-3-34「人が恋の真の楽しさを味わうためにはね」17-3-35私はしばしばマノンに言うのだった。17-3-36「このニュー・オルレアンに来る必要があるんだよ。17-3-37ここでこそ人は、欲得ぬきで、嫉みも起さず、いつまでも変らずに愛しあえるのだから。17-3-38ぼくたちの同国人らはここへ黄金を捜しに来る。17-3-39ところが、ぼくたちがここで黄金よりももっともっと値打ちのある宝物を見つけたことなど、彼らは夢にも知らないのだ」 17-3-40私たちは司政官の友情を丹念に育てた。17-3-41親切な男で、私たちが着いてニ、三週間もしたら、堡塁（ほうるい）にちょっとした仕事の口があると言って、それを私たちにあてがってくれた。17-3-42あんまり立派な仕事とはいえなかったが、それでも私は天からの恵みのようにおしいただいた。17-3-43これで私はだれの世話にもならずに生活できるようになったわけだ。 17-3-44私は自分のために下男をひとり、そして、マノンのためには女中をひとり雇った。17-3-45私たちのささやかな暮しも一段落した。17-3-46私は日常生活も規則正しくなり、マノンも私にひけをとらなかった。17-3-47私たちは隣人に善行を施したり、また、その世話をみたりするのに機会を見のがさなかった。17-3-48私たちのこの世話好きの性質と、ものやわらかな態度は、全植民地の信頼と愛情を得ることができた。 17-3-49こうして、私たちはわずかのあいだに尊敬されるようになり、町でも司政官についで第一流の人物に数えられるにいたった。 宗教 17-3-50私たちのしている仕事といえば、単純至極なものだったし、それに、生活環境も平穏無事だったので、自然、私たちは宗教ということを思うようになった。17-3-51マノンははじめから不信心の女などではなかったし、私にしても、身持ちの悪さに無宗教を加えて、得意然としているような遊蕩児でもなかった。17-3-52私たちの乱行も、これを要するに、恋と若さのせいだった。 17-3-53経験というやつが年齢のかわりをするようになってきていた。17-3-54実際、経験は私たちに幾月と同じ効果を及ぼしたのである。17-3-55私たちの会話というのは、いつも反省的な性質をおびたものだったが、それはいつの間にか私たちに清浄な恋をあこがれさせるようになった。17-3-56この心境の変化を私は自分のほうからマノンに告白した。17-3-57私は彼女の心のあり方を知っていたからだ。 17-3-58彼女は自分のどんな感情にも正直ですなおな女で、いつでも美徳に向うことのできる特質を持っていた。17-3-59私は自分たちの幸福に欠けているものが一つあることを彼女に理解させようとした。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/21

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