(17・1)二ヶ月の航海の後、アメリカ、ニュー・オルレアンに到着

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

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17-1-1「これはなんということだろう！」17-1-2私は叫んだ。17-1-3「不幸になればなるほど、踏んだり、蹴ったりとは、あんまりじゃないか？」17-1-4マノンは答えた。17-1-5「ああ！17-1-6こうまで悲しい世の中で、あたしたちは苦労するかいがあるでしょうか17-1-7ねえ、あたしのいとしいひと、ル・アーヴルで死にましょう。17-1-8死にさえすれば、あたしたちの不仕合せもみんないっしょに終りますもの。17-1-9見も知らぬ国までなんでその不仕合せを引きずっていくのでしょう？17-1-10行ったところで、そこには恐ろしいどん底しか待っていないことはわかりきっています。17-1-11だって、あたしは刑罰を受けるんですもの。17-1-12ねえ、死にましょうよ」17-1-13彼女はくりかえして言った。 17-1-14「でなければ、せめて殺してください。17-1-15そして、あなたは、もっと仕合せな恋人の胸の中に、もっと別な運命を捜しに行ってください」17-1-16「ちがう、ちがう」と私は言った。17-1-17「きみといっしょにいて不仕合せなのは、ぼくにとって願ったりかなったりの運命なんだ」17-1-18彼女の文句は私をふるえあがらせた。17-1-19私は彼女が不幸におしつぶされたものと判断した。17-1-20私はつとめて平静な態度をとって、彼女から死だの絶望だのという不吉な考えを一掃しようとした。17-1-21それから先々もこの同じ態度をつづけていこうと心に決めた。17-1-22そして、女に勇気を吹きこむには、女を愛している男の勇気をおいてほかにないことをあとになって経験したのだった。 資金調達 17-1-23チベルジュの援助を受ける望みがなくなったので、私は馬を売った。17-1-24それから得た金は、あなたにいただいた残りの分に合せて、わずかながらも十七ピストールになった。17-1-25その中の七ピストールで、私はマノンをなぐさめるために必需品をニ、三買った。17-1-26そして、残りの十ピストールは、アメリカで一旗あげるための資本として、たいせつにしまっておいた。 17-1-27私が船に乗せてもらうのは面倒でなかった。17-1-28当時、植民地へ出かせぎに行こうという若者たちを募集していた。17-1-29船賃も食費も無料だったのである。17-1-30パリ行の郵便が翌日になると出るはずだったので、私はチベルジュに手紙を書いた。17-1-31それは悲痛な手紙だった。17-1-32そして、彼を極度にまで感動させることはまずまちがいがなかった。17-1-33なぜなら、その手紙は彼にある決心をさせたからだった。17-1-34それは不幸な友に対する限りない愛情と寛大の奥底からでなければ出てこないような決心だったのである。 17-1-35私たちは出帆した。17-1-36風は順風つづきだった。17-1-37船長はマノンと私のために別室をあてがってくれた。17-1-38私たちに好意を持っていた彼は、ほかのいやしい仲間たちとは別の目で見てくれた。17-1-39最初の日、私は彼を別室に呼び、多少なりと別扱いをしてもらおうと思って、自分の不運の一部をうちあけた。17-1-40私はマノンと結婚していると言っても、罪になるほどの恥ずべきうそを言ってとは思わなかった。 17-1-41どうやら彼は私の言葉を信じたらしく、保護をあたえてくれた。17-1-42私たちの航海中、その証拠はいくらでもあった。17-1-43食事も特別念入りにしてくれたし、また、私たちに対する彼のこの配慮は、哀れな仲間たちに私たちを尊敬させる結果にもなった。17-1-44私はマノンにすこしでも不自由させないようにたえず気をくばった。17-1-45彼女にもそれがよく通じた。17-1-46そればかりか、彼女のために私がおちいったこの奇妙な窮状をすまなく思う気持も手つだって、彼女は、しみじみとした、純情な女となり、私のごく些細な要求にも注意深い女となってので、彼女と私のあいだは、さながら、奉仕と愛情の絶え間ない競争だった。 17-1-47私はヨーロッパにはいささかの未練もなかった。17-1-48それとは反対に、私たちはアメリカに近づけば近づくほど、いよいよ私の心はひろくなり、落着いてくるように思われた。17-1-49かの地で生活の絶対的必需品にはこと欠かぬという確信がもし私に持てたとしたら、運命の神が私たちの不幸にこんなにも好都合の方向転換を、あたえてくれたことを、感謝したことだったろう。 17-1-50二カ月の航海のあとでようやくあこがれの岸辺に着いた。17-1-51この国土は、見た目にけっして楽しくはうつらなかった。17-1-52それは人の住んでいない、荒れはてた原野で、目に見えるものといえば、わずかに蘆と、風に吹きさらされた樹木だけだった。17-1-53人間の足跡もなければ、そうかといって、動物のもない。17-1-54ところが、船長の命令で船の大砲をニ、三発ぶっ放すと、たちまち、ニュー・オルレアン（：＝英語読み：ニューオーリンズ）の市民が、みんなうれしそうな顔をしながら、どやどやとこっちにやって来るのが見えた。

「マノン・レスコー」のアメリカ地名(ニュー・オルレアン)

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/21、22

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