(15・8)マノンが翌々日にアメリカ送り、それを知った騎士は

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(15) 8/10

15-8-1実際、私の最初の決心は、G・・・・・M・・・・・親子と、警視総監をまず片づけたうえで、私の喧嘩に加勢しそうな者を総動員して、手に手に武器をかざしながら、オピタル目がけてうちよせることでしかなかった。15-8-2このように、あくまで私の復讐は正当なものに思えたので、私は父さえ容赦するどころではなかった。15-8-3なぜなら、父と、G・・・・・M・・・・・が、私の破滅の張本人であることを門衛はかくさなかったからだ。 15-8-4しかし、私が街路に数歩ふみ出て、外気が私の血液と気分をすこしばかりさましたとき、私の憤怒は、より理性的な感情にすこしずつ移動していった。15-8-5私たちの敵が死んだところで、マノンにたいして役だつわけでもあるまいし、彼女を救い出すあらゆる手段を奪われてしまうくらいがおそらく関の山だろう。15-8-6だいいち、暗殺などという卑劣手段に頼らねばならないだろうか？15-8-7といって、他に復讐できるような方法があるだろうか？15-8-8何よりマノンの救い出しを先決問題とし、私は自分のあらゆる力と、あらゆる知恵を集中することにして、その他のことは全部、この重大な計画が成功してからのことにした。 15-8-9私にはほとんど金が残っていなかったが、この必要欠くべからざる軍資金なしには何ひとつ手がつかないはずだった。15-8-10さしあたり、あてのできる人として、三人しかなかった。15-8-11T・・・・・氏と、父と、チベルジュだった。15-8-12この三人のうち、父とチベルジュからはまずむずかしい、そうかといって、残るひとりにうるさくねだるのにも恥を感じた。15-8-13しかし、人は絶望しているときは遠慮なんかしないものだ。15-8-14すぐその足で私はサン・シュルビスの神学校へ行ったが、そこの人たちが自分の顔を覚えているかもしれないなどということには頓着しなかった。15-8-15私はチベルジュを呼んでもらった。 15-8-16彼が口にした最初の言葉で、彼がまだ私の最近の事件を知っていないことがわかった。15-8-17こうとなれば、私は彼の同情に哀れっぽくすがるという最初の計画を変更することにした。15-8-18私は父に会えてうれしかったというようなことをただ漠然と話したうえで、いくらか金を貸してもらえないかと頼んだ。15-8-19父には内密にしておきたいニ、三の借金をパリ出発以前に支払いたいからだという口実にしたのである。15-8-20彼はすぐに財布を提供してくれた。15-8-21私は財布にあった六百フランのうち五百フランを借りた。15-8-22私は借用証を出そうとしたが、寛大な彼はそれを受取るどころではなかった。 15-8-23私はその足でT・・・・・氏のところへ回った。15-8-24私は彼には何ひとつかくさなかった。15-8-25自分の不幸と悲しみをさらけ出した。15-8-26彼は若いG・・・・・M・・・・・の事件の成行きを注視していたので、すでに細かな事情まで知っていた。15-8-27しかし、彼は私の言うことに耳を傾け、また、非常に同情してくれた。15-8-28マノンを救い出す手段について彼の意見を求めたところ、神の特別の助けでもないかぎり、その見込みはほとんどないので、望みを捨てるよりほかはない、と悲しそうに答えた。 15-8-29なお、彼の言うところによれば、彼はマノンが監視されてからわざわざオピタルへ出かけていったが、彼自身さえ会える自由が得られなかったそうである。15-8-30そして、警視総監の命令は厳重をきわめているばかりか、不運はそれにも増して、彼女が加わるべき不幸な一隊は、翌々日に出発することに決定ずみだそうだった。 15-8-31私は彼のこの話にはまったく狼狽してしまったので、彼は一時間もしゃべりつづけることができたほど、私は彼をさえぎることなど考えもしなかった。15-8-32その言うところによれば、彼がシャトレーへ私に面会に来なかったのは、私とのあいだに関係がないと思わせておいたほうが、私のために働きやすいからだった。15-8-33彼は私がシャトレーを出てから数時間にもなるのに、私がどこへ消えたのかわからなくて困っていた。 15-8-34そして、マノンの運命を一転させることができそうに思える唯一の助言をあたえようと、一刻も早く私に会いたがっていた。15-8-35しかし、それは危険きわまる助言だから、彼がそれにあずかったことは永久にかくしてほしいということだった。15-8-36それは、マノンの護衛どもがパリを出はずれたころを見はからって、彼らを襲撃するだけの勇気がありそうな、剛の者を数人捜してくることだった。15-8-37彼は私が自分の一文なしを口にするまで待っていなかった。15-8-38「ここに百ピストールありますよ」彼は財布を提供しながら言った。15-8-39「これでも多少のお役にはたつでしょう。15-8-40運命の神があなたの事件を片づけてくれたときにでも返していただくとしましょうか」 15-8-41もし彼が自分の家名など無視して、私の恋人の救出にみずから手をくだすことが許されるものなら、自分の腕と剣を貸すことも辞さないだろうにと、遺憾の意をあらわした。15-8-42この至れりつくせりの親切ぶりに、私は涙の出るほど感動した。15-8-43私は感謝の意を示すために、悲しみのあとでもまだ残っている熱情のことごとくを使った。 15-8-44私は警視総監に仲へはいってもらえるような方法の望みはもうないのかとたずねた。15-8-45彼もそれを考えないではなかったが、しかし、この手段はむだだろうと言った。15-8-46なぜなら、この種の恩典は、何かのキッカケなしには請求されがたいからだった。15-8-47しかも、彼としては、押しのきく有力な人を仲介人にするような、どんなキッカケも見つけることができなかった。15-8-48もしこの方面に何か期待できるものがあるとすれば、G・・・・・M・・・・・氏と、私の父の気を変えさせて、彼ら自身が警視総監のところへ行って、判決の取消しを願い出るようにさせるよりほかはなかった。 15-8-49彼は若いG・・・・・M・・・・・のほうは自分が受持つと申出た。15-8-50今度の事件で、彼は自分にいくらかの疑いをかけているので、すこし冷淡になってきたように思われはするが、彼を手に入れるためにあらゆる努力を払うつもりだと言った。15-8-51そして私には父の我を折るために、力惜しみしないようにと勧めた。15-8-52これは私にとって楽な仕事ではなかった。15-8-53父を説得すること自身が当然むずかしいという理由ばかりではなく、私には父のそばに寄るのさえぞっとするほどの他の理由があった。 15-8-54私は父の命令にそむいて、その宿から逃げ出しているのである。15-8-55しかも、マノンの悲しい運命を知って以来、二度とそこへ帰るまいとかたい決心をしているのである。15-8-56父は私をむりやりに引きとめておいて、そのままいっしょに田舎へ連れていくのではないかという心配も当然ある。15-8-57私の兄は以前にこの手を使ったのだ。15-8-58もとより、あのときよりは私も年齢をとっているのは事実だが、しかし、年齢なんて、暴力に対するはかない理由でしかないのだ。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/20

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