(15・7)マノンはアメリカ送りの最初の船に乗せられる

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(15) 7/10

15-7-1父は私のところを出て、G・・・・・M・・・・・をたずねに行った。15-7-2家には彼のほかに、その息子もいた。15-7-3例の近衛兵が几帳面に放免したとみえる。15-7-4彼らの会話の詳細は永久に知るよしもないが、その致命的な結果によって判断することは、私にとってあまりにも容易だった。15-7-5彼らは、というのはふたりの父親のことだが、連れだって警視総監のところへ行った。15-7-6そして、二つの恩典を要求した。 15-7-7その一つは、私を即座にシャトレーから出すことであり、他の一つは、マノンを一生禁固しておくか、それとも、アメリカへ流すことであった。15-7-8ちょうどそのころ、多数の浮浪人たちをミシシッピ河に向けて船に積みこもうとしていたときだった。15-7-9警視総監は、マノンを最初の船でたたせることを彼らに保証した。 15-7-10G・・・・・M・・・・・氏と私の父は、さっそく、私の釈放の通知を持ってきた。15-7-11G・・・・・M・・・・・氏は、過去のことについて丁重な挨拶をし、私がこんな父を持っている幸福を祝し、今後は、父を手本として、その訓戒を守るようにといさめた。15-7-12父は父で、私が彼の一家にいうところの不正を働いたことについて謝罪させ、私の釈放に父と協力してくれたことを感謝するように命じた。15-7-13私たちは連れだってシャトレーを出たが、私の恋人については一言もふれなかった。 15-7-14彼らの手前、私は獄卒に彼女のことを聞くのさえひかえた。15-7-15ああ！私のこのような気のくばりもむだになろうとは！15-7-16残酷な命令は、私の釈放のそれと同時に発せられているのだ。15-7-17この不運な乙女は一時間後にオピタルへ送られたのである。15-7-18彼女と同じ運命を言い渡された幾人かの不幸な女たちの仲間入りをするためだった。15-7-19父は自分の宿へ私をむりやり連れていったので、シャトレーに引返すために父の目をかすめる瞬間を見いだしたときには、もう夕方の六時近かった。 15-7-20私はマノンに食べ物を差し入れてもらい、また、門衛に彼女のことを頼む以外には計画はなかったのである。15-7-21なぜなら、彼女に会える自由があたえられようなどとは思っていなかったからだ。15-7-22それに彼女を救い出す方法を考える余裕などもなかったのだ。15-7-23私は門衛に話したいことがあると言ったところ、私の気前よさと温和な態度が気に入ったとみえ、私のために尽力しようという気持になったその男は、マノンのことを私に話してくれたことはくれたが、彼女の不幸を気の毒に思っているとか、さぞかし悲しかったろうとか、私にはさっぱり合点のいかない文句ばかりだった。 15-7-24しばらく、私たちはお互いの言うことがわからないままに話していた。15-7-25やっと、これには説明のいることに気づいた相手は、私にその説明をした。15-7-26それは先刻あなたに申上げてぞっとしたような事柄であり、いま、それをくりかえして言うのもぞっとするような事柄である。15-7-27どんなにはげしい卒中でも、これほど突然で、これほど恐ろしい結果をもたらしはすまい。15-7-28私は心臓の苦しい動悸を感じながら倒れたが、意識を失った瞬間は、これで永久に生命から解放されたと信じたくらいだった。 15-7-29ふたたびわれに返ったときにも、やっぱり、この考えのうちのあるものは残っていた。15-7-30私は部屋のあらゆる部分に、そして、私自身の上にも、視線を走らせて、自分は今もって生きている人間という不幸な資格を持っているのかどうかを確かめようとした。15-7-31ただ自分の苦痛から逃げ出そうという本能的な衝動にかられるので、こんな絶望と驚愕の瞬間には、死ほどなつかしいものはないように思われるのは事実である。 15-7-32おそらく宗教でさえ、私が受けた残酷な痙攣よりも耐えがたいものを、私に直面させたことは生涯になかったろう。15-7-33とはいえ、神が私に意識と理性を返してくれたのを感謝するだけの力を、恋に特有の奇蹟によって、私はすぐにふたたび見いだしたのだった。15-7-34そのとき、もし私が死んだとしたら、それは私にしか役だたなかったはずである。15-7-35マノンを自由にし、救い出し、その仇を報ずるには私の生命が必要だった。15-7-36そのためには私は自分を容赦なく使役することを誓った。 15-7-37門衛は私にあらゆる助力をあたえてくれたが、それは私の友人中の友人でもお呼ばないほどのものだった。15-7-38私は彼の奉仕を深い感謝の心で受けいれた。15-7-39「ああ！」と私は言った。15-7-40「そんならきみはぼくの苦しみを察してくれたんですね。15-7-41世界じゅうの人がぼくを見捨てています。15-7-42親父さえもが、もちろん、ぼくの最も残酷な迫害者のひとりです。15-7-43だれひとりぼくをかわいそうだなんて思ってくれません。15-7-44この冷酷と野蛮の浮世にあって、きみだけです、きみひとりです。15-7-45世界じゅうで最も哀れな男に同情してくれるのは」 15-7-46彼は私の興奮がすこしおさまるまでは外に出ないようにと忠告した。15-7-47「かまわないでください。15-7-48ほっておいてください」15-7-49私は出ながら返答した。15-7-50「ぼくはきみの考える以上に早くお目にかかってみせますよ。15-7-51ぼくのためにいちばん陰惨な豚小屋を用意しておいてください。15-7-52それだけの値うちのある働きをするつもりだから」

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/20

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