(15・6)父親が監獄の息子と面会、恋のせいにする騎士

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(15) 6/10

15-6-1「これは断言してもいいのですが」私は言った。15-6-2「ぼくがあなたに示すこの謙虚さは、けっしてつくりものなんかじゃありません。15-6-3これは育ちのいい息子が、自分の父親を、ことに、怒っている父親を、限りなうやまっている場合、自然にそうなってくる姿です。15-6-4ぼくは自分が人類の中でいちばん品行方正な人間だと言いはりはしません。15-6-5あなたの叱責を受けてもあたりまえだぐらいは知っています。15-6-6しかし、お願いですが、もうすこし暖かい心を持ってください。15-6-7そして、人間の中でいちばん破廉恥漢かなんぞのような言い方はしないでください。15-6-8ぼくはそれほどひどい名前で呼ばれるようなことはしていません。 15-6-9ご存じのように、ぼくの過去を引起したのはみんな恋のしわざです。15-6-10宿命的な情熱のしわざです！15-6-11ああ！あなたは恋の魔力をご存じないのでしょうか？15-6-12あなたの血はぼくの源であるのに、それがぼくと同じ情熱を感じないなんて法があるでしょうか？15-6-13恋ゆえに、ぼうはあまりにも感じやすい、あまりにも情熱的な、あまりにも忠実な人間になりました。15-6-14そして、おそらくは、美しい愛人の恋をむかえるために、あまりにも気前のいい人間になりました。15-6-15ぼくの罪悪というのは、これなんです。15-6-16そこに、あなたの顔に泥をぬるような何かがあるでしょうか？15-6-17ねえ、ぼくの愛するお父さん」と、私は優しくつけ加えた。 15-6-18「あなたの息子を、すこしばかりあわれんでやってください。15-6-19あなたの息子は、あなたに対する尊敬と愛情でいつもいっぱいなんですから、あなたの思われるようには、名誉も義務も捨ててはいませんから、そして、あなたがお考えになるよりは、千倍も、もっとかわいそうなんですから」15-6-20この最後の言葉を言いおわりながら、思わず私は数滴の涙をこぼした。 15-6-21世の父親の心臓というのは自然の傑作である。15-6-22つまり、自然は、いうならば、愛想よくそこに君臨しているのである。15-6-23そして、そのあらゆるバネを調節するのである。15-6-24私の父は、それに加うるに才知と情味をそなえた人だったが、私の弁解の仕方にひどく感動したとみえ、自分の心境の変化をかくしていることができなかった。 15-6-25「ここに来るがいい」彼は言った。15-6-26「さあ、ここに来て、わしを抱いてくれ。15-6-27おまえがかわいそうでならん」15-6-28私は父に接吻した。15-6-29父は私をかたく抱きしめたが、今、自分の胸の中で何が起っているか、それを私にわからせようとするやり方だった。 15-6-30「さてと、それならば、どんな方法をとったらばいいだろう」15-6-31父は語をついだ。15-6-32「おまえをここから出すには、どうしたものか？15-6-33事情をすっかり、ありのままに言ってごらんなさい」15-6-34結局、私の行動の大体において、あくまで私の不名誉になるというようなことは、すくなくとも、ある社会の青年たちの行動に比べれば、なかったし、それに、女を囲っているということも、賭博で金銭を引きよせる手腕を多少身につけていることとともに、われわれの生きているこの世紀ではいやしむべきこととは言えなかったので、私は父に今までの生活の詳細をありのままにうちあけたのである。 15-6-35一つの過失を告白するごとに、私はすこしでも恥を小さく見せようとして、有名な例を引くことを忘れなかった。15-6-36「なるほど、ぼくは正式の結婚もしないで、ひとりの女と同棲しています」15-6-37私は言うのだった。15-6-38「ところで、あの某侯爵が、ふたりの女を囲っているのは、全パリが周知の事実ですからね。15-6-39また、あの某華族は、十年来の情人がひとりあるのですが、奥さんに対する以上の忠実ぶりで愛しつづけていますよ。15-6-40フランスの紳士の三分の二は、情人を持つことを名誉にしていますからね。15-6-41ぼくは博打じゃペテンも多少やりました。15-6-42が、あの某侯爵にしたって、また、あの某伯爵にしたって、賭博以外に収入はないって言うじゃありませんか。 15-6-43それから、あの某親王と、あの某侯爵は、貴族社会の博徒仲間では首領株だそうですよ」15-6-44G・・・・・M・・・・・親子の財布をねらった件についても、お手本を見せようと思えば造作なくできることではあったが、自分に都合のいいようなそんなお手本ばかりを出して恬としているには、まだあまりにも私は名誉心を持っていた。15-6-45だから、このほうの罪は、復讐心と恋情という、私を駆りたてたこの凶暴な熱情に免じて許してもらうことにした。 15-6-46父は、私が放免されるいちばんの近道と、世間の評判にならない方法について相談を求めた。15-6-47私は警視総監が私に好意を持っていることを告げた。15-6-48「もし何か厄介なことがあるなら、それはG・・・・・M・・・・・親子側から来る以外にはないはずです」私は言った。15-6-49「だから、彼らにお会いしてくださるのがいちばんいいように思いますが」 15-6-50父はそれを約束してくれた。15-6-51マノンのためにも奔走してくれとは言わなかった。15-6-52それは私に勇気が欠けていたからではなかった。15-6-53こんなことをもち出しては父を怒らせるかもしれないし、ひいては、彼女と私のことで父が何か悪だくみを思いつくかもしれないという心配からだった。15-6-54そのために、私は父の心をそそのかすことをわざとさしひかえ、私の不幸な恋人に好意を持たせようとする努力もせずにいたわけだが、こうした私の心配がかえって私の最大の不幸をまねいたのではないかと、今もって私は考えている。 15-6-55おそらく私はもういちど父のあわれみをそそるべきだったろう。15-6-56G・・・・・M・・・・・老人の言葉をあまりやすやすと受けいれないように注意しておくべきだったろう。15-6-57それも後のまつりともいうものだ。15-6-58どっちみち、どんなに努力したって、私は自分の悪運にはかなわなかったのだろう。15-6-59しかも、私が自分の不幸をどんなにこぼそうと、私が見舞われるであろうものは、すくなくとも、その悪運と、敵どもの残忍性でしかなかったろう。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/20

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