(14・7)Ｔ氏がＧＭを誘い出し、ＧＭ邸のマノンに恨み言の騎士

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(14) 7/8

14-7-1彼は私の願いなら例外なく全部引受けようと約束してくれた。14-7-2そして、ともかく、彼から話がある旨をG・・・・・M・・・・・に伝えて、一、二時間だけ外へ連れ出してもらいさえすればいいのだということを私はくりかえし言ったので、さっそく、彼は私の意向をみたすために、いっしょに家を出た。 14-7-3G・・・・・M・・・・・の足をそれだけ長く引きとめておくにはどんな方策をとったらいいか、私はみちみち考えた。14-7-4それにはまず簡単な手紙をどこかの酒場からT・・・・・氏の手で書いて、非常に重大な要件が起って、一刻の猶予も許されないので、ここへ来てほしいと言ってやることにした。 14-7-5「ぼくは彼の出かけるのを見張っていましょう」私は付言した。14-7-6「そして、あの家でぼくの顔を知っているのはマノンと、下僕のマルセルだけですから、造作なく中へはいることができるでしょう。14-7-7あなたとしては、そのあいだ、G・・・・・M・・・・・といっしょにいるわけですが、あなたが彼に話したいという重大な要件というのは、金策のことだと言ったらいいでしょう。14-7-8つまり、あなたは賭博で有り金を全部すったので、口約束で大きな勝負をしたところ、やっぱり失敗したということにするんですね。14-7-9あなたを自分の金庫にまで案内するには相当の時間がかかるでしょうから、ぼくが計画を実行するにはそれで十分だろうと思います」 14-7-10T・・・・・氏はこの手配に一つ一つ従ってくれた。14-7-11T・・・・・氏は、ある酒場で大急ぎで手紙を書き、私は彼をそこに残し、マノンの家から数歩のところに身をひそめた。14-7-12ほどなく、手紙を持った使者がやって来たと思うと、G・・・・・M・・・・・がひとりの従僕を連れて、徒歩でそそくさと出ていくのが見えた。14-7-13彼がこの町からかなり遠ざかったと思うころを見はからって、私は自分の不貞な女の門口に進みよると、腹こそたってはいたが、お寺参りでもするときのように、うやうやしく戸をたたいた。 14-7-14戸をあけに来たのは仕合せにもマルセルだった。14-7-15私は声をたてるなという合図をした。14-7-16私はほかの下僕たちなぞ、恐れる必要はなかったものの、それでも、だれの目にもふれずにマノンのいる部屋まで行けるかどうかを、声をひそめて彼にたずねた。14-7-17それはあの大きな階段をそっと上がっていけば造作ないということだった。14-7-18「じゃ、早いとこやろう」私は言った。14-7-19「ただ、ぼくが部屋にいるあいだは、だれも上がってこないようにしてくれるんだよ」14-7-20私はなんの障害にぶつかることなく部屋の中にはいっていった。 14-7-21マノンは読書の最中だった。14-7-22こんな調子だからこそ、私はこの奇妙な娘の性情を賛美せずにはいられなかったのだ。14-7-23私を見て、こわがったり、困ったりするどころか、彼女はちょっと驚いてみせただけだった。14-7-24遠くはなれているとばかり思っていた人に会ったときなど、つい面にあらわさずにはいられないあの驚きの色にすぎなかった。 14-7-25「あら、あなたなの」こう彼女は言って、ふだんに変わらない愛情を示しながら、私を抱こうとした。14-7-26「まあ、まあ、あなたったら、なんて無鉄砲なんでしょう！14-7-27きょう、こんなところへ現れるなんて、だれが思っていて？」14-7-28私は彼女の腕をふりほどくと、その愛撫に答えるどころか、軽蔑しきって、押しのけてやった。14-7-29そして、ニ、三歩うしろにのいて、彼女から遠ざかろうとしたので、この動作はさすがに彼女を狼狽させずにはおかなかった。 14-7-30ひとところを動こうともせず、私の上に視線を投げてよこしたが、みるみる顔色が変っていった。14-7-31ありのままに言えば、私は彼女に再会して、とてもうれしかった。14-7-32だから、怒っても当然の理由がありながら、私は彼女を叱りつけるために口を開く力もないくらいだった。14-7-33そのくせ、私の心臓は、彼女から受けた侮辱のために出血していた。14-7-34私はこの侮辱を記憶になまなましくよみがえらせて、怨恨の情をたたきつけようとし、そして、情火とは別の種類の炎を、自分の目の中に燃えあがらせようとつとめた。14-7-35しばし、私はおし黙ったままだし、相手も私の激昂に気づいたので、空恐ろしくなったとみえ、わななきふるえていた。14-7-36私はこの光景に耐えられなかった。 14-7-37「ああ！マノン」と、私は声をやわらげて言った。14-7-38「不貞で、うそつきのマノン、ぼくはどこから不平を言いだしたらいいだろうか？14-7-39きみは青ざめて、ふるえているね。14-7-40そして、ぼくはきみのちょっとした苦痛にさえあまりにも敏感なので、あんまりお小言を言ったら、きみを悲しませるのではないかと心配なくらいだ。14-7-41だが、マノン、よく言っておくがね、きみに裏切られた痛みで、ぼくの心はかきむしられているよ。14-7-42こんな打撃を自分の恋人にあたえるなんて、死を覚悟しないかぎりできるものじゃないだろう。14-7-43マノン、これで三度目だよ。14-7-44ぼくはちゃんと計算したもの、こんなこと、忘れられるものじゃない。14-7-45いったい、きみはどういう覚悟を決めるつもりか、今こそ考えるべき時だ。14-7-46なぜって、ぼくの悲しい心は、もうこれほどまでに残酷な仕打ちには我慢できないのだから。14-7-47ぼくの心臓はおしつぶされそうな気がする。14-7-48苦痛のために、今にも割れそうな気がする。14-7-49ぼくはもうだめだ」と、私は椅子に腰をおろしながら、つけ加えて言った。 14-7-50「ぼくには口をきく力もなければ、からだをささえる力もない」14-7-51彼女は一言も答えなかった。14-7-52しかし、私が椅子に腰をおろすと、彼女は膝をついて、くずおれた。14-7-53そして、私の膝の上に頭をのせ、私の手の中に自分の顔をうずめようとした。14-7-54その私の手は彼女の涙でぬれていくのがすぐにわかった。14-7-55ああ、神よ！私はなんという感動に心をみだされたことでしょう！

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/19

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