(14・4)マノンが手紙を託した美少女を騎士の慰めに

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(14) 4/8

14-4-1G・・・・・M・・・・・は父親よりも狡猾だった。14-4-2彼は銭を払う前に自分の餌食をつかもうとしたのだ。14-4-3私たちはマノンのとるべき行為について協議した。14-4-4私はこの計画を彼女の頭から一掃しようとして、なおいろいろと努力を試み、それから生ずるあらゆる危険を彼女に想起させようとしたが、彼女の決心をゆるがすことさえできなかった。14-4-5彼女は彼に短い返事を出して、指定の日にパリへ行くのにむずかしいことはないので、待ってくれていてもいいと伝え、相手を安心させておいた。 14-4-6ついで、私たちの決めた段取りは、こうであった。14-4-7私はすぐにも出発して、今度はパリの反対側の村にあたらしく宿を借り、身のまわりのわずかな家財道具とともに移り住む、彼女は支払い日である明日の午後、早めにパリへ出かける、G・・・・・M・・・・・の贈物を受取ってしまうと、すぐにコメディ座へ連れていってほしいとせがむ、受取った金額のうちで自分の持てるだけは身につけ、あとはいっしょに連れていくはずの下僕にあずける。 14-4-8これはオピタルから彼女を救い出したあの男で、私たちにひどくなついていた。14-4-9一方、私は辻馬車でサン・タンドレ・デ・ザルク街の入口まで行き、七時ごろ、車をそこに残したまま、夕闇にまぎれてコメディ座の前までいく。14-4-10マノンは何か口実をつくり、ちょっとのあいだ彼女の座席をはずし、下へおりてきて、私と合流する、ここまで筋書どおりにいけば、あとはもうわけなかった。14-4-11私たちは時をうつさず馬車まで引返し、サン・タントワーヌ郊外からパリをぬけ出れば、ひとりでに私たちの新居に行けるというものだった。 14-4-12この計画はじつに無法なものであったが、筋書はなかなか上手にできているように思えた。14-4-13しかし、その底には、ばかげた不用意がかくされていたのだった。14-4-14つまり、この計画さえ首尾よく運べば、その後の事件からものがれることができるものとばかり思いこんでいたわけだった。14-4-15それにしても、なんと私たちはむちゃな確信でいい気になっていたものだろう。 14-4-16マノンはマルセル（私たちの下僕の名前だった）といっしょに出発した。14-4-17私は彼女が出ていくのを見ると胸さわぎがしたので、彼女をかきいだきながら、言った。14-4-18「マノン、ぼくをだましたりなんかしないね。大丈夫だろうね？」14-4-19彼女は私の不信を優しくこぼし、例のありとあらゆる誓いをくりかえした。14-4-20彼女の予定では三時にパリに着くはずだった。私は彼女におくれて出かけた。14-4-21私は、サン・ミシェル橋のたもとにあるコーヒー店のフレで午後の時間をつぶすことにした。14-4-22日が暮れるまでそこにいた。 14-4-23日が暮れると、外へ出て、辻馬車をひろい、筋書どおり、サン・タンドレ・デ・ザルク街の入口でとめ、それから、歩いて、コメディ座の前まで行った。14-4-24驚いたことには、そこで待っているはずのマルセルの姿が見えなかった。14-4-25私は下僕たちの群れの中にわけいったり、通行人のひとりひとりに目をやったりしながら、待つこと一時間。14-4-26とうとう七時が鳴ったけれども、自分たちの計画に関係のある人物はひとりとして見かけなかった。 4-4-27私は平土間の切符を買って、マノンとG・・・・・M・・・・・が桟敷にいるかどうかを見に行った。14-4-28彼らはどちらもいなかった。14-4-29私は入口に引返し、そこでまた十五分間を、焦慮と不安のうちにすごした。14-4-30何者も現れてこないので、なんの決心もつかないままに馬車のところまで引返した。14-4-31御者は私に気づくと、こっちにやって来て、何か怪訝そうなようすで言うには、ひとりの美しいお嬢さんが一時間も前から馬車の中で待っているとのこと。14-4-32彼女は私を捜していたわけだったが、彼女の言う私の特徴を御者も認めたから、私が必ずここにもどってくることがわかり、それまで辛抱して待っていると言うのだった。 14-4-33それは、マノンであろうとすぐ私は思った。14-4-34私はそばへ寄った。が、そこに私の見た可憐な顔は、マノンのそれではなかった。14-4-35騎士グリュウさまにお言葉をかける名誉が許されるでしょうか、と、まず私にたずねたのは、その見も知らぬ少女だった。14-4-36それは私の名前でありますが、と私は答えた。14-4-37「私はあなたさまにお渡しする手紙を持っています」彼女は語をついだ。14-4-38「それをお読みになれば、どういう用向きで参りましたか、また、どういう関係であなたさまのお名前を知ることができましたか、おわかりになるでしょう」 14-4-39私は近所の酒場でそれを読む余裕をあたえてくれないかと言った。14-4-40彼女もいっしょに来たいと言い、なお、別室を借りるようにと私に勧めた。14-4-41「いったいだれの手紙ですか？」と、私は部屋に上がりながらたずねると、お読みになるようにと、彼女は私にそれを手渡した。 14-4-42それはマノンの筆跡であることがすぐにわかった。14-4-43手紙の言うところはだいたいつぎのようであった。14-4-44すなわち、G・・・・・M・・・・・は、彼女の想像以上の慇懃と丁重と贅美をつくして彼女を歓待してくれた。14-4-45彼は彼女を贈物でうずめ、彼女に未来の女王を思わせた。14-4-46とはいえ、彼女はこの新奇の豪華の中にあっても、私を忘れてはいないと断言していた。14-4-47しかし、今後、コメディ座に連れていくことをG・・・・・M・・・・・に承諾させることができなかったので、彼女は私に会える喜びをまたの日にのばすより仕方がなかった。 14-4-48そして、この知らせがおそらくは私にあたえるであろう悲しみを予想して、せめてそれをすこしでもなぐさめるために、パリで最も美しい娘のひとりを私のために獲得することができたので、彼女がこのお手紙をおとどけするであろう。 4-4-49＜あなたの忠実なる恋人、マノン・レスコー＞と署名がある。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/18

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