(14・10)断固たるマノンの計画、ＧＭ親子に復讐の胸算用(むなざんよう)

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(14) 10/10

14-10-1私はこの論議をずいぶん辛抱しいしい傾聴した。14-10-2明らかにそこには、私に対する残忍苛酷な言葉が多量にあった。14-10-3彼女が私を裏切ろうとする計画はあまりにも明白だったので、彼女としてもその計画を特にかくそうとはしなかったわけだ。14-10-4G・・・・・M・・・・・が、彼女を一晩じゅう巫女のようにさせておくとは彼女とて思わなかったろう。14-10-5してみれば、はじめっから彼と一夜をすごすつもりでいたのだ。14-10-6これは愛人に対するなんたる告白だろう。14-10-7しかし、考えてみると、私も彼女の過去の一部の原因だった。 14-10-8というのは、G・・・・・M・・・・・が彼女に惚れていることを、最初に彼女に知らせたのは私だったし、また、彼女のあの大胆不敵な冒険に、彼女を喜ばせたい一念から盲目的にとびこんだのも私だったからだ。14-10-9そればかりか、私のもって生れた性質からだろうが、私は彼女の物語の率直さにじつは心を打たれずにはいられなかったのである。14-10-10しかも、彼女は私を侮辱するような事柄までことこまかに、平気で語ったわけだが、その話しぶりがあくまであけっぱなしで、悪気がないものだから、いっそう参ってしまうのだった。14-10-11彼女は悪気なしで罪を犯しているのだ、と私は心の中でつぶやいた。14-10-12軽薄で、向うみずだけれど、いちずで、真正直な女である。14-10-13それに私には惚れた弱味もあった。14-10-14彼女のあらゆる欠点に目をふさぐためには、彼女に惚れているというだけで十分だった。14-10-15その夜のうちに、私は彼女から自分の恋がたきを奪いとるという見込みであまりにもみちたりていた。14-10-16それでも私は彼女に言ってみた。14-10-17「それなら、今夜はだれといっしょに明かすつもりだったの？」 14-10-18私が悲しげに放ったこの質問は、彼女を困らせた。14-10-19彼女はしどろもどろの＜でも＞だの、＜もしも＞だのの言葉で答えるだけだった。14-10-20私は彼女のつらい胸のうちをあわれに思った。14-10-21そこで、この話は打切りにし、これからすぐにも自分のあとについてくるようにと、私はおおっぴらに宣告した。14-10-22「あたしだってほんとうはそうしたいんだけど」彼女は言った。14-10-23「でも、それなら、あたしの企てにご賛成じゃないのね？」14-10-24「なんだって！」私は即座に答えた。14-10-25「これまできみのやってきたことに全部賛成しただけでも十分じゃないか？」 14-10-26「そんなら、あたしたち、一万フランの金も持って行きませんの？」14-10-27彼女は言い返した。14-10-28「あれはあたしにくれたものですもの、当然、あたしのものですわ」14-10-29私は彼女に極力すすめて、何もかも捨て去り、一刻も早く遠ざかることを考えさせようとした。14-10-30なぜなら、彼女のところへ来てから、せいぜい三十分しかたっていなかったとはいえ、G・・・・・M・・・・・の帰ってくるのが気が気でならなかったからだ。 14-10-31しかし、彼女は素手で出ていくのはいやだと言って、どうしても私の言うことをきかなかったので、私としてもさんざ無理を言ったあとだったので、一つくらい彼女の言うことをきくのが当然であるように考えられた。14-10-32私たちが出発の用意をしている最中、道路に面した戸口をたたいている音が聞えた。14-10-33てっきりG・・・・・M・・・・・に相違ないと思ったので、私はすっかりあわてて、もし彼が出てきたら生かしてはおかぬとマノンに言った。 14-10-34もし彼の姿を見たとしたら、事実、私は自分をおさえるだけに十分まだ興奮からさめていなかったのだ。14-10-35結局、マルセルが私のこの不安をなくしてくれた。14-10-36というのは、彼が戸口で受取ったという一通の手紙を私に渡したからで、手紙は、T・・・・・氏からのものだった。14-10-37それによると、G・・・・・M・・・・・が金を取りに自宅へもどったので、その留守中を利用して、じつに愉快な着想を私に伝えようというのだった。14-10-38つまり、かねてG・・・・・M・・・・・の用意していた夕食を失敬し、彼が私の恋人と占領するつもりだったその同じベッドの中で、今夜いっしょに寝るほど、私の恋がたきに復讐する愉快な方法はないじゃないか、しかしそれには、街路で彼を待ち伏せして、逮捕するだけの覚悟と、翌朝まで彼を見張っているだけの忠誠を持った三、四人の男を確保する必要があるが、それさえできれば、これほど平易な仕事はないように思われる、一方、彼がもどってきたらば、かねて用意の手をいろいろと使って、すくなくとも、一時間はなんとかごまかして、引きとめておくだけの自信はある、というのがその手紙の内容だった。 14-10-39私はこの手紙をマノンに見せた。14-10-40そして、私がどんな策略を用いて、彼女の部屋にらくらくと侵入したかを披露した。14-10-41私の創意も、T・・・・・氏のそれも、彼女にはすばらしいものに思われた。14-10-42しばらく私たちは思うさま笑いころげた。14-10-43それにしても、私がT・・・・・氏の創案を冗談のようにして話したところ、彼女は実行にかかろうと、本気になってせがんできたのには私もあきれてしまった。 14-10-44それにはG・・・・・M・・・・・を逮捕したり、また、忠実に監視したりする人間が必要なわけだが、それだけの人数がどこで、一度に見つかるかと、いかに口をすっぱくして言ってもむだだった。14-10-45なにしろ、T・・・・・氏は私たちのためにまだ一時間を保証してくれたのだから、ともかく、やってみる必要はあると言いはるのだった。14-10-46そして私がその他の故障をもち出すと、私を暴君だとか、不親切者だとか言って、きかなかった。 14-10-47思うに、彼女にとってこんなに愉快な企てはなかったのだ。14-10-48「あなたはあいつの食器で晩ごはん食べるのよ。14-10-49あなたはあいつの夜具の中で寝るのよ。14-10-50そして、あした、夜が明けたら、あなたはあいつの女と金を失敬するのよ。14-10-51これでみごとに親父と息子に復讐したというものよ」14-10-52こう彼女はくりかえして言うのだった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/19

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