(13・2)騎士の資産形成は賭博、マノンの場合は好色資産家

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

(13) 2/3

13-2-1じつを言えば、この下僕のびくびくしていることが、私に耐えがたい疑念をいだかせたのだった。13-2-2なぜなら、びくびくしていることは、彼に真相の一部をかくさせることもありえたからだった。13-2-3しかし、しばらく考えたあとで、私は不安からたちなおり、こんなに弱味を見せたことを後悔するようになった。13-2-4マノンが人から好かれたといって、それはとがめだてする筋合いのものではなかった。13-2-5男の心を征服しているのを彼女自身が知らないということも大いにありそうなことだった。13-2-6だいいち、こんなにたわいなくやきもちを焼くようだったら、これから先どうして生きていったらいいというのか？ 13-2-7その翌日はパリへもどった。13-2-8というのは、何かあやしいと思う材料でも見つかった場合、いつでもシャイヨーを去ることができるように、早いとこ、大勝負で金をつくっておく必要があったので、ただその一念にかられたからだった。13-2-9その夜は、私の安眠をさまたげるほどのことは何ひとつ聞かなかった。13-2-10例の外人はブーローニュの森にふたたび現われたが、前日のことにかこつけて、私の探偵のそばに来ると、自分の恋をうちあけたのだった。13-2-11しかし、その口ぶりから察するに、マノンとのあいだになんの連絡もないらしかった。 13-2-12彼は根ほり葉ほりいろいろの質問をした。13-2-13おしまいには、相当の保証金で、下僕を抱きこもうと誘惑した。13-2-14そして、用意していた手紙を取出すと、それを自分の意中の人に渡してもらうために、何枚かのルイ金貨を無益にも下僕に提供しようとした。13-2-15二日間はべつにさしたることもなく過ぎた。13-2-16三日目はいささか荒れ模様だった。 13-2-17その夜、私はかなりおそくパリから帰って聞いたことだが、散歩中、マノンがちょっとのあいだだけ仲間から離れると、わずかの間隔をおいてうしろからついてきていた例の外人は、彼女から合図されたものだから、そばへ行くと、彼女から手紙を渡されたので、彼は有頂天になっておしいただいたのだそうである。13-2-18彼はその上書きにほれぼれと接吻するだけで、自分の感激を述べるひまがなかった。13-2-19というのは、彼女は手紙を渡すなりすぐに逃げてしまったからだった。 3-2-20しかし、それからというもの、彼女はひどくうれしくて仕方がないらしかった。13-2-21家に帰ってからも、はしゃぎきっていることに変りなかった。13-2-22もちろん、私は下僕の一語一語に身ぶるいした。13-2-23「それは確かなんだね？」 私は悲しそうに下僕に言った。13-2-24「おまえの目にまちがいはないね？」13-2-25彼は神さまを引っぱり出してきて、自分の公正を誓った。13-2-26たまたま、私の帰ってきた物音を聞きつけたマノンは、私の帰りのおそいのを待ちかねていたような、不平らしいようすで出迎えにきたからいいものの、もしそうでもなかったら、私は心の憤懣のやり場をどうしたらいいかわからなかったろう。13-2-27彼女は私の返事も待たずに私を愛撫でうずめるのであった。 13-2-28そして、ふたりきりになると、このごろ、おそく帰る癖がついたといって、きびしいお小言だった。13-2-29私が黙っていたものだから、いよいよ彼女は思うぞんぶんにしゃべることができた。13-2-30この三週間というもの、まる一日、私が彼女といっしょにいたためしはなかったとか、こんな長いこと家をあけられてはたまらないとか、すくなくとも、たまには一日くらい自分のためにさいてもらいたいとか、あすからは、朝から晩まで私の顔をそばで見ていたいとか、不平たらたらだった。 13-2-31「大丈夫だよ」私はかなり荒い語調でいった。13-2-32「これからは家にいるから」13-2-33彼女は私が悩んでいることなど気づかないらしかった。13-2-34実際、私には腑に落ちかねるほどうれしくて仕様ないといった調子で、彼女はきょう一日のことをおもしろおかしくいろいろと述べたてるのだった。 13-2-35＜不思議な女だなあ！＞13-2-36私は思った。13-2-37＜この序幕のあとがどうなることやら？＞13-2-38私たちが最初に別れたときのことが思いうかんできた。13-2-39それにしても、彼女のこのはしゃぎ方と、愛撫の仕方の奥に、私はうわべと一致する何か真実のものを見たような気がした。 13-2-40夕食をとりながらも、私は暗い気持ちになるのをどうしようもなかったが、しかし、それを博打で負けたいまいましさのせいにするのは造作もなかった。13-2-41あす、シャイヨーを離れないという提案が彼女自身から出されたのを、私はこのうえない幸いと思った。13-2-42これは考えを練るのに時間をかせぐことになった。13-2-43自分が家にいるということは、明日に関するかぎり、あらゆる心配を遠ざけるはずだった。13-2-44そして、私は自分の知りえたことを表面化してさわぐ必要は何ひとつ見いださなかったが、それでも、翌々日、パリに住居を移す決心はすでについていたのである。 13-2-45侯爵さまなどという連中と角突き合わすことのないようなところへ行くつもりだったのだ。13-2-46この手はずは、私にいっそう安穏な一夜をすごさせてくれたとはいえ、彼女がまたしても不貞を働いたのではないかという不安は一掃されなかった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/18

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