(13・1)ブローニュの森でマノンに近づくイタリヤ人侯爵

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第二部

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13-1-1私のいることと、T・・・・・氏の愛想よさが、マノンの心痛の跡を一掃した。13-1-2「ねえ、マノン、恐ろしかった過去を忘れてしまおう」私は着くなり彼女に言った。13-1-3{そして、今までより幸福な生活をはじめよう。13-1-4ともかく、恋愛はいい先生だ。13-1-5運命がぼくたちにあたえる艱難など、恋愛がぼくたちに味わわせる快楽にはとうてい及びもつくまい」 13-1-6私たちの晩餐の場面は、じつに喜びそのものだった。13-1-7マノンと、百ピストールを所有している私は、財宝を山と積むパリでいちばん富裕な金貸しよりも得意であり、満足だった。13-1-8富というものは、自分の欲望のみたし方によって計算するひつようがある。13-1-9ところが、私にはみたす必要のある欲望など一つもなかった。13-1-10未来のことを考えてさえ、私にはなんらの心配も起きなかった。13-1-11私がパリで相当の生活をしていくだけのものを父が出ししぶるとは思えなかった。 13-1-12それというのも、ニ十歳になれば、母の財産について、私は自分の分け前を要求する権利があるからだった。13-1-13私は自分の財産がひっくるめて百ピストールしかないことをマノンにかくしはしなかった。13-1-14私の当然の権利からにせよ、賭博からにせよ、よりよき幸運がおとずれてくるのを静かに待ってさえいればいいのであって、それを私がとり逃がすとは思われなかった。13-1-15こういうわけで、最初の数週間というもの、私は現在の境涯を楽しむことしか考えなかった。 13-1-16そして、体面上から言っても、また、警察に対する用心からも、私はオテル・ド・トランシルヴァニの仲間と往来するのを日に日にさしひかえるようになった。13-1-17そして、これらの仲間ほど下等ではない他のグループと遊ぶことにしたが、いつも運がついたものだから、腰をひくくしてまで金策にとびまわる必要もなくてすんだ。 3-1-18午後の一部はパリですごし、夕食にはシャイヨーに帰るのがつねだった。13-1-19たいてい、T・・・・・氏といっしょだったが、彼の私たちに対する友情は日一日と増していった。13-1-20マノンも退屈をまぎらわす方便を見つけた。13-1-21春になってこの地にもどってきた若い婦人たちと隣近所の付合いをするようになったのだ。13-1-22散歩だの、女の稽古ごとなどがそれぞれ彼女たちの仕事になっていた。 13-1-23あらかじめ賭金の限度を決めておいて、カルタでもうけた金を馬車の費用にあてるというぐあいだった。13-1-24彼女たちはブーローニュの森へ散歩に出かけるのだったが、夕方、私は家に帰ると、今までになく美しい、みちたりた、そして、情熱的なマノンを見いだすのだった。 13-1-25それにもかかわらず、一片の暗雲がたちのぼって、私の幸福の殿堂を脅かすかと思われた。13-1-26もっとも、その雲も跡かたなく吹き散らされたことだし、また、マノンの剽軽な性質が、その幕切れをひどく喜劇的なものにしたので、そのときの彼女の優しさ、彼女の才知の快味を思い出すことに、今もって私は何かいい気分にならずにはいられない。 13-1-27私たちの使用人といえば、下僕ひとりきりだったが、ある日のこと、私を物かげに呼ぶと、ひどくもじもじしながら、私に伝える重大な秘密があると、こう言ったのである。13-1-28私は遠慮なく言うようにと勇気づけた。13-1-29彼は幾度か言いよどんだあとで、ある外国の貴族がマノン嬢に夢中になっているらしいと言ったのである。 13-1-30私は血管じゅうの血液が逆流するのを覚えた。13-1-31「マノンのほうでもそうなのか？」私は白黒をはっきりさせたい一念から、慎みも忘れて荒々しげにさえぎった。13-1-32相手は私の剣幕におじけてしまった。13-1-33そして、自分もそんなに深く見きわめたわけでもないと、びくびくしながら答えた。13-1-34ただ、ここ数日以来、彼の観察するところによれば、その外人は熱心にブーローニュの森へ通ってきて、馬車を乗り捨てると、ひとりわき道にはいり、お嬢さんの姿が見えるような、あわよくば、直接会えるような機会をねらっているらしいので、下僕は相手の従者たちと近づきになって、その主人の名前をきいてみようと思いついた。13-1-35それによれば、なんでも相手はイタリアの侯爵とかで、主人に何か情事があるらしいことは従者たちもうすうす感づいていたらしいという。 13-1-36下僕はもうそれ以上の手がかりを得ることはできなかったと、ふるえながらつけ加えて言った。13-1-37それというのも、ちょうど、そのとき、例の侯爵は、森から出てくると、なれなれしげに下僕のそばにやって来て、その名前をたずねたりしたからだった。13-1-38すると、侯爵は、この下僕が私たちに仕えている者であることを見抜きでもしたのか、世界じゅうで最も美しい人に奉仕していることを下僕に祝福したそうである。 13-1-39私はこの話のつづきを待ちかねていたが、彼はおどおどした言いわけといっしょにぷっつりやめてしまった。13-1-40それも私が不用意にも激昂したせいだった。13-1-41ありのままに話をつづけるようにとせがんでもむだだった。13-1-42もうこれ以上何ひとつ知らぬ、それに、いま話したのは、ついきのうのことなので、その後、まだ侯爵の従者たちと会っていない、という一点張りだった。 13-1-43私は下僕にただのほめ言葉ばかりでなく、ちゃんとした現金さえあたえて安心させるようにした。13-1-44そして、私としてはマノンを疑っているような気ぶりなどこれっぽっちも見せないようにしながら、ただ、その外人の一挙一動には注意しているようにと、いとも落着いた口調で命じた。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/18

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