(41)(4)離宮のアトリウムにローマ炎上の第一報

2-41-4-1離宮（りきゅう）のアトリウムでは若いネルワとトウリウス・セネキオが皇后（こうごう）の相手をしていた。テルプノスとディオドロスとはキタラ琴（こと）の調子をととのえていた。2-41-4-2ネロはアトリウムへはいると、べっこうを象眼（ぞうがん）したいすに腰をおろし、おそばづきのギリシャ人の少年に何か耳打ちして、そのまま待っていた。2-41-4-3少年は間もなく黄金（おうごん）の小箱をたずさえてもどっていた。2-41-4-4−−−−ネロはそれをひらき、大きなオパールをつらねた首飾りを取り出して言った。 2-41-4-5「きょうのような晩にふさわしい宝石だ」。 2-41-4-6「あけぼのの光がきらきらと光っております」ポッパエアは答えた。2-41-4-7その首飾りが自分への贈りものだと思いこんだのである。2-41-4-8皇帝はしばらくそのばら色の石を上げたり下げたりしていたが、とうとうこう言った。2-41-4-9「ウィニキウス、わしが結婚しろと命じた若いリギ族の王女に、わしからだと言ってこの首飾りをやってくれ」。 2-41-4-10ポッパエアは、怒りと不意の驚きに満ちた目を皇帝からウィニキウスへとうつし、最後にペトロニウスをひたと見つめた。2-41-4-11しかし彼はゆったりといすの肘（ひじ）に身をもたせながら、片手で竪琴（たてごと）の柄（え）をなでまわし、さもその形をしっかりおぼえこもうとでもしているような様子であった。2-41-4-12やがてウィニキウスは、皇帝に贈りものの礼をのべてから、ペトロニウスのそばへ行ってこう言った。2-41-4-13「きょうわたしのためにしてくださったことに対しては、お礼の申し上げようもありません」。 2-41-4-14「エウテルペ（叙事詩のミューズ）に白鳥（はくちょう）のひと番（つがい）供（そな）えるがいい」ペトロニウスは答えた。2-41-4-15「皇帝の歌をほめて、不吉な前兆（ぜんちょう：＝訳者ルビ、まえぶれ）などは笑い飛ばしてしまえ。2-41-4-16これからは、獅子（しし：＝ライオン）の吼（ほ）え声がおまえや、おまえのリギ族のゆりの花の眠りを妨（さまた）げることはもはやあるまい」。2-41-4-17「ええ」ウィニキウスは言った。2-41-4-18「これですっかり安心（あんしん）しました」。2-41-4-19「運命の女神がおまえたちに恵みを垂（た）れるように祈る。2-41-4-20だがいまは気をつけろ。2-41-4-21皇帝がまたフォルミンクスを取り上げようとしている。2-41-4-22息を凝（こ）らして、耳を傾けて、それから涙を流すがいい」。 2-41-4-23はたして皇帝はフォルミンクスを手に取って、目を上へ向けた。2-41-4-24アトリウムでは話し声がやんで、みんなは化石（かせき）したようにじっとすわっていた。2-41-4-25ただテルプノスとディオドロスとは、皇帝の伴奏（ばんそう）をすることになっていたので、首をかしげて互いに見つめ合ったり、皇帝の口もとを見たりしながら、歌の最初の音が出るのを待っていた。 2-41-4-26突然、次の間で人の気配とさわがしい物音がしたかと思うと、幕の影から皇帝の解放奴隷パオンが、つづいて執政官（しっせいかん：＝訳者ルビ：コンスル）のレカニウスが現われた。 2-41-4-27「お許しくださいませ、陛下」パオンは息もきれぎれに言った。 2-41-4-28「ローマが火事でございます！ 2-41-4-29市街の大部分が火に包まれております！・・・」。 2-41-4-30この知らせをきくと一座は総立ちになった。 2-41-4-31ネロはフォルミンクスを下においてこう言った。 2-41-4-32「神々よ！2-41-4-33・・・ではわしはいよいよ燃えさかる都をこの目で見て、トロイの歌を完成することができるのだな」。 2-41-4-34それから執政官のほうへ向いて言った。2-41-4-35「いますぐ出発すれば、その火事（かじ）を見物（けんぶつ）するのに間に合うだろうか」。2-41-4-36「陛下（へいか）！」執政官は壁のように青ざめて言った。2-41-4-37「都は一面の火の海でございます。2-41-4-38都民は煙に巻かれて窒息し、みんな気絶したり、気が狂って火の中へ飛びこんだりしております・・・・。2-41-4-39陛下、ローマは滅亡しつつあります！」。2-41-4-40一座（いちざ）は急にしんとなった。2-41-4-41その沈黙を破ったのはウィニキウスの声であった。 2-41-4-42「ああ、なんということだ！・・・・」。2-41-4-43そしてこの若者は外衣（がいい：=訳者ルビ：トガ）を脱ぎすて、肌着（はだぎ：＝訳者ルビ：トウニカ）一枚になって宮殿を飛び出した。 2-41-4-44ネロは両手を天に上げて叫んだ。 2-41-4-45「わざわいなるかな、プリアモスの聖なる都よ！・・・・」。

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（中・目次）

オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに制作してよい」

ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義

通称：オリジナル教会

2020/6/27、28 2022/9/24(アトリウム)

（ささくら修道会規約）当会の用いる聖書は、口語訳聖書または文語体聖書に限られる。例外として、バルバロ聖書差分を、正式文書に加える。これ以外の、聖書の引用は厳禁される。日本語以外の聖書については、文語体聖書の内容に準じるものとする。異端文例（Today's English Version)

聖句引用：日本聖書協会　口語訳聖書 新約聖書（１９５４年改訳） 旧約聖書（１９５５年改訳） バルバロ聖書（旧約差分）

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