(2)(8)老将軍のシチリヤ島

1-2-8-1アウルスはそこに自分の領地と広大な農園があって、それがひどく気に入っていたのである。1-2-8-2シキリアへ移住して、そこでしずかに余生（よせい）を終わりたいと思ったことも一度や二度ではない、とも彼は言った。1-2-8-3いくたびも冬にめぐり会ってもう頭が白くなった者には、冬の霜（しも）はいとわしい。1-2-8-4まだ木々の葉は落ちないし、都の上では空（そら）がにこやかな笑顔を見せているが、やがてはぶどうの木が黄色くなり、アルバヌスの山地（さんち）に雪が降り、神々がカンパニアの野に肌を刺すような烈風を下す時が訪れよう。1-2-8-5その時になったら、一家（いっか）をまとめて田舎（いなか）のしずかな住まいへ移ることになるかもしれない。 1-2-8-6「ローマを立ち退（の）いてしまうおつもりなのですか、プラウティウス」突然不安に駆られてウィニキウスはたずねた」。1-2-8-7「だいぶ前からそのつもりでいるのだ」アウルスは答えた。1-2-8-8「あそこのほうがしずかだし、それに危険も少ないからな」。 1-2-8-9そしてまたもや自分の果樹園や、家畜の群れや、緑にかくれた家や、たちじゃこうそうやしその間で蜜ばちの群れが唸っている丘を賛美しはじめた。 1-2-8-10しかしウィニキウスはこの牧歌的（ぼっかてき）な話に耳を傾ける気になれなかった。1-2-8-11----自分はリギアを失うことになるかも知れない。1-2-8-12ひたすらそのことばかり考えながら、彼はペトロニウスのほうを見た。1-2-8-13救いを期待できるのはこの男のほかにはないとでも思っているかのように。 1-2-8-14その間、ペトロニウスはポンポニアのそばにすわって入り日や庭のたたずまい、養魚池（ピスキナ）のそばに立っている人びとの姿などに見とれていた。1-2-8-15その人びとの白い衣裳（いしょう）は、てんにんかの黒々とした背景の前で、夕映（ゆうば）えの光を受けて黄金色にかがやいていた。1-2-8-16空では夕焼けの色が紫からすみれ色になり、さらにオパールの色に変わった。1-2-8-17天蓋（てんがい）はゆり色になった。1-2-8-18いとすぎの黒いシルエットが昼間にくらべて一層くっきりと際立ってきた。1-2-8-19人にも木にも、庭全体にも、夕べの静けさが訪れた。 1-2-8-20ペトロニウスはこの静けさに、わけてもこの家の人びとの静けさに心を打たれた。1-2-8-21ポンポニアや老アウルスや、その子や、リギアの顔には----彼が毎日、というよりはむしろ毎夜自分を取り巻いている人びとの顔に一度も見かけたことのない何物かが現れていた。1-2-8-22そこにあるものはある種の光明（こうみょう）、ある種の安息（あんそく）、ある種の晴朗さであり、それらはこの家の人びと全部が営んでいる生活から直接流れ出ているものであった。1-2-8-23ペトロニウスはいくらか驚きながら、明けても暮れても美と快楽を追求している自分でさえまだ知らずにいた美と快楽とがありうることを思った。 1-2-8-24その考えを自分の心に秘めておくことができなかったので、彼はポンポニアにこう言った。1-2-8-25「あなたがたの世界は、われわれのネロが支配している世界とはずいぶん違いますね。1-2-8-26いまわたしは心の中でそのことをあれこれと考えていたのです」。1-2-8-27彼女は小さな顔を夕映えの空に上げて、飾らぬ口調（くちょう）で答えた。1-2-8-28「世界を支配しておられるのはネロではありません。1-2-8-29----神さまでございます」。 1-2-8-30一瞬、沈黙が訪れた。1-2-8-31食堂の近くの並木道（なみきみち）から老将軍、ウィニキウス、リギア、小アウルスなどの足音がきこえてきた。1-2-8-32----だが彼らがそばまで来ないうちに、ペトロニウスはひとつだけたずねた。1-2-8-33「では、ポンポニア、あなたは神々を信じていらっしゃるのですね」。1-2-8-34「わたくしの信仰しておりますのは、単一、正義、全能にまします神さまでございます」。1-2-8-35アウルス・プラウティウスの妻は答えた。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに制作してよい」

ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義

略称：オリジナル教会

2019/9/10

（ささくら修道会規約）当会の用いる聖書は、口語訳聖書または文語体聖書に限られる。例外として、バルバロ聖書差分を、正式文書に加える。これ以外の、聖書の引用は厳禁される。日本語以外の聖書については、文語体聖書の内容に準じるものとする。異端文例（Today's English Version)

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