(1)(4) (1)(4)
| 1-1-4-1いいえ。1-1-4-2六脚韻の詩（し）一行（いちぎょう）も満足に書けたことはありません」。1-1-4-3「琵琶（びわ）を弾（ひ）いたり歌を歌ったりもしないのか」。1-1-4-4「ええ」。 1-1-4-5「戦車の操縦はどうかね」。 1-1-4-6「昔アンティオキアで競争（小説ベンハーのハイライト・シーン）に出たことがありますが、だめでした」。1-1-4-7「そういうことなら、おまえについては心配はいらないな。1-1-4-8戦車競技場ではどっちの組かね」。1-1-4-9「《緑組》です」。1-1-4-10「それなら安心この上なしだ。1-1-4-11それにおまえはかなりの資産家だが、パラスやセネカほど金持ちではない。1-1-4-12そこがとくにいいところだ。 1-1-4-13いいかね。1-1-4-14こちらではいま、詩を書いたり、琵琶を弾きながら歌を歌ったり、朗詠をやったり、闘技場で戦車の競技に出たりするのはいいことだが、もっといいのは、いや、それよりなによりもっと安全なのは、詩も書かず、琵琶も弾かず、歌も歌わず、闘技場での戦車の競技にも出ないことなのだ。 1-1-4-15いちばんいいのは、赤髭（あかひげ）がそうしたことをやるとき、うまくほめることだ。 1-1-4-16おまえは美男（びなん）だから、ポッパエアがおまえに惚（ほ）れ込む恐れがある。1-1-4-17しかしそうは言ってもあれはこの道にかけては経験がありすぎるくらいあるからな。1-1-4-18色恋（いろこい）のほうはふたりの夫（ルフリウス（この小説ではルフィウス）・クリスプスと前出のオト）で十分（じゅうぶん）堪能（たんのう）したから、三人めに対してはお目当てがべつだ。 1-1-4-19あの馬鹿者（ばかもの）のオトがいまでもあのあの女を気も狂わんばかり恋い慕っているという話はきいたかね・・・・。1-1-4-20奴（やつ）はヒスパニアの岩山（いわやま）の上を歩きまわってはため息（いき）をつくばかりで、昔の習慣を捨てて身だしなみをやめてしまったから、いまでは髪の手入れをするにも毎日三時間あれば十分（じゅうぶん）だそうだ。1-1-4-21あのオトにかぎって、そうまで変ろうとはだれひとり予期しなかったろうよ」。 1-1-4-22「あの人の気持はわかります」と、ウィニキウスは答えた。1-1-4-23「ですがわたしがあの人だったら、もっと違ったことをしますね」。1-1-4-24「というと、どんなことだ」。1-1-4-25「わたしなら、あの地方の山地の住民を集めて、信頼できる軍団をいくつか作ります。1-1-4-26あのイベリア人（イベリア半島＝スペイン）どもは、屈強な兵隊ですからね」。 1-1-4-27「おいおい！1-1-4-28こう言っちゃなんだが、それはおまえにはまずできない相談（そうだん）だな。1-1-4-29なぜだかわかるかね。1-1-4-30かりにそうしたことをやるとしても、他人（たにん）にはひとことも洩らさないことになっているからだ。 1-1-4-31もしおれがあの男だったら、おれはポッパエアを笑い、赤髭を笑ってやるね。1-1-4-32軍団を組織もしようが、おれが集めるのはイベリア人の男ではなく女だ。1-1-4-33せいぜいエピグラムぐらいは作るかもしらんが、だれにも読んできかせたりはしないつもりだ。1-1-4-34あの気の毒なルフィヌスの二の舞いだけは御免こうむりたいなからな」。 1-1-4-35「そのルフィヌスのお話をしてくださるはずでしたね」。1-1-4-36「では香油室（ウンクトウアリウム）へ行って話してやろう」。1-1-4-37だが香油室へ行くと、ウィニキウスはべつのものに気を取られた。1-1-4-38ほかでもない、そこで湯上りの人々世話をするすばらしくうつくしい女奴隷たちである。1-1-4-39そのうちのふたりは黒人（こくじん）で、りっぱな黒檀（こくたん）の彫像（ちょうぞう）に似ていたが、そのふたりが彼らのからだに上等（じょうとう）のアラビア香油（こうゆ）を塗りはじめた。 1-1-4-40また髪を梳（す）くことの上手（じょうず）なプリュギアの女たちは蛇（へび）のように柔（やわ）らかくてよくしなう両手に、櫛（くし）と鋼（はがね）をみがいて作った鏡（かがみ）とを持ち、女神と見まがうばかりのコス生まれのふたりのギリシャ娘は襞（ひだ）つけ師（ウエステイプリカ）で、主人（しゅじん）たちの外衣（トガ）に、彫刻にあるような襞をつける順番がまわってくるのを待っていた。 1-1-4-41「雲を集めるゼウス（これはギリシャ名、ローマ名はユピテル）に誓って！」と、マルクス・ウィニキウスは言った。1-1-4-42「じつによく吟味（ぎんみ）してありますね！」。1-1-4-43「数（かず）よりは吟味が大事（だいじ）だからな」と、ペトロニウスが答えた。 1-1-4-44「ローマに置いてあるおれの《家の子》（原注：邸（やしき）に勤める奴隷たちは《ファミリア》と呼ばれた）は全部で四百人足（た）らずだ。1-1-4-45自分だけの用にそれ以上の頭数（あたまかず）が要（い）ると思うのは成り上がり者ばかりだろうよ」。1-1-4-46「赤髭（皇帝ネロのあだ名）だってこれよりうつくしい肉体はそろえていませんね」。1-1-4-47ウィニキウスは鼻の孔（あな）をふくらませながら言った。1-1-4-48この言葉に対して、ペトロニウスは一種（いっしゅ）親しみのこもった投げやりな調子でこう答えた。1-1-4-49「おまえはおれの身内（みうち）だから言うが、おれはバッススみたいな人ぎらいでもなければ、アウルス・プラウティウスみたいな堅物（かたぶつ）でもないのさ」。 堅物プラウティウスと貞女ポンポニア 1-1-4-50だがウィニキウスは、プラウティウスの名をきくと、一瞬（いっしゅん）コス生れの娘たちのことも忘れ、急に頭を上げてたずねた。1-1-4-51「どうしてまたアウルス・プラウティウスのことなんぞを思い出したりなさるんです。1-1-4-52じつはわたしは郊外（こうがい）で手をくじいて、あの人の家で十（じゅう）なん日（にち）も世話になったのです。1-1-4-53プラウティウスは、折りよくわたしが怪我（けが）をしたところへ来合わせて、わたしがひどく痛そうにしているのを見ると、自分のうちへ連れていってくれ、あの人の奴隷のメリオンという医者がすっかり治（なお）してくれました。1-1-4-54そのことをお話ししようと思っていたのです」。 1-1-4-55「どうして？1-1-4-56まさかおまえはひょっとしてポンポニアに惚（ほ）れたわけではあるまいな？1-1-4-57もしそうならつくづくおまえがかわいそうだと思うよ。1-1-4-58あの女は若くもないし、それに貞女（ていじょ）だからな。1-1-4-59これ以上不似合いな取り合わせはおれには想像もつかないよ。1-1-4-60やれやれ」。 1-1-4-61「ポンポニアじゃありませんよ−−−−まさか！」と、ウィニキウスは言った。1-1-4-62「では、だれだ？」。 |
| 次へ |
 |
| （ささくら修道会規約）当会の用いる聖書は、口語訳聖書または文語体聖書に限られる。例外として、バルバロ聖書差分を、正式文書に加える。これ以外の、聖書の引用は厳禁される。日本語以外の聖書については、文語体聖書の内容に準じるものとする。異端文例（Today's English Version) |
| 聖句引用：日本聖書協会 口語訳聖書 新約聖書（１９５４年改訳） 旧約聖書（１９５５年改訳） バルバロ聖書（旧約差分） |
いろいろ聖書 ささくら宗の聖書  |
| ページ制作者 （ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表 笹倉正義 |
| 2019/8/20 |
 |
 |