(9・8)あわれマノンと騎士はそれぞれの監獄に直行

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(9) 8/8

9-8-1G・・・・・M・・・・・氏は、詐欺にかかったことを気づくまでに手間がかからなかった。9-8-2彼がその夜のうちに私たちを発見するためのなんらかの奔走をしたかどうか私は知らないが、ともかく、なかなかの実行家だから、いつまでもつまらない手続きなんかしているわけはないし、また、私たちといえば、パリの町のひろいことや、お互いが住む地区の離れていることなどを当てにしすぎたほどおめでたかった。 9-8-3彼は私たちの住所や、現状をつきとめたばかりではなかった。9-8-4私が何者であるか、パリでどんな生活をしていたか、マノンとB・・・・・とのあいだに以前どんな関係があったか、そのB・・・・・を彼女はどんなふうにしてだましたか、一口に言えば、私たちの身のうえばなしのうちで人聞きの悪い部分だけを知ったわけだった。 9-8-5そこで、彼は私たちを逮捕させることにした。9-8-6そして、罪人というよりは、手におえぬ与太者としてこらしめる考えだった。9-8-7警部が六人ばかりの部下を連れて私たちの部屋にはいってきたときは私たちはまだ寝ていた。9-8-8まず、彼らは私たちの金、というよりは、G・・・・・M・・・・・氏の金を没収した。9-8-9そして、私たちをたたき起こして、入口までつれていくとそこに二台の馬車が待っていた。9-8-10その一台にかわいそうなマノンはむりやりに引っぱりこまれた。 9-8-11そして、私は別の馬車でサン・ラザール（訳注　当時、品行不良の良家の子弟を監禁した獄舎、ラザリストと呼ばれた僧侶たちによって管理されていた）へ連れていかれた。9-8-12このような悲運にあった者でなければ、それがいかに人を絶望の淵につき落すものであるかはとうてい想像できまい。9-8-13警官どもは私がマノンに接吻することも、言葉をかけることも許さないほどの冷酷ぶりだった。 9-8-14長いあいだ、私は彼女がどうなったか知らなかった。9-8-15しかし、はじめのうち、それを知らずにいたのは、おそらく私にとって仕合せだったのだろう。9-8-16なぜなら、あのように恐ろしい大災難を知ったとしたら、私は意識を、ひょっとしたら、命を失ったからだ。9-8-17さて、私の不幸な恋人は、私の見ている前で引っぱりこまれて、その名前を言うさえ恐ろしい暗いところへ連れていかれた。(訳注　オボタルのこと。)9-8-18もしも世の人びとが、私のような目と心を持っていたとしたら、世界で第一の王座を占めたかもしれないこの麗人のために、その悲運を嘆かずにはいないであろう。 9-8-19なるほど、彼女は乱暴に扱われなかったかもしれないが、ただひとり、狭い牢獄に押し込められて、毎日、一定の仕事をしなければならなかったのだが、そのお礼として、吐き気のするような食事があてがわれるわけだった。9-8-20私がこうした悲しい話について知ったのはずっと後のことで、私自身も、つらくて退屈な労役の数カ月を経験した後のことだった。 9-8-21私を引きたてた警官たちも、私を連れていく場所を知らさなかったので、サン・ラボールの門前に来るまでは自分の行く末を推測することができなかった。9-8-22私は自分が今まさにおちいろうとしている境遇よりは、この際、できるものなら死を選んだことだったろう。 9-8-23この建物についてはいろいろと恐ろしい先入観を持っていた。9-8-24建物の中にはいろうとして、警官たちはもういちど私のポケットに手をつっこんで、武器や護身具の有無をたしかめるのおよんで、私の恐怖はいよいよ増大した。9-8-25そこへ院長が現れた。9-8-26私の来ることは予告してあったのである。 9-8-27彼はきわめて温和な態度で私に対した。9-8-28「神父さん、辱めることだけはしないでください」私は言った。9-8-29「そんな目にあうのなら、ぼくは千の命をなくしてもいいくらいです」9-8-30「いや、いや」彼は答えた。9-8-31「きみさえ行いをつつしんでくれれば、われわれ、どちらも満足するでしょう」9-8-32彼は私に二階の部屋へ来るようにと言ったので、私もおとなしくついていった。 9-8-33警官たちはドアのところまで私たちといっしょに来たが、院長は私と部屋にはいりながら、彼らには引きさがるように合図した。9-8-34「それじゃぼくはあなたの囚人になったのですね」私は言った。9-8-35「ところで、神父さん、ぼくをどうしようというのですか？」9-8-36そのとき、彼が私に語ったのは、私が条理をわきまえているらしいのを見てたいへんうれしく思ったこと、私に関する彼の義務は、徳操と宗教を好むように私を仕向けることであり、私の義務は、彼の訓戒と忠告を善用すること、彼が私に寄せる配慮に私がすこしでも応じようとさえすれば、孤独の中にあっても、喜びと満足を見いだすことは必至であること、などであった。 9-8-37「ああ、喜びですか」私は語をついだ。9-8-38「神父さん、あなたはご存じないようですね。ぼくにその喜びを味わわせてくれるものはたった一つしかないということを！」9-8-39「それはわしだって知っている」彼は言った。9-8-40「だが、わしはきみの心が入れかわることを望んでいる」3-8-41この返事でわかったが、彼は私の事件も、おそらくは私の名前も知っているらしかった。9-8-42私はその点をはっきりさせてくれるようにと願った。9-8-43彼は全部報告を受けていると率直に言った。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/15

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