(9・5)マノンと騎士の痴話げんか、GM氏の贈物が終止符

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(9) 5/8

9-5-1彼は三、四日してパリにもどってきた。9-5-2彼は執事が借りておいた家へ自身でマノンを案内した。9-5-3彼女はすぐに自分の帰京を兄に知らせ、彼は私にそれを伝えてきたので、私たちはふたりで彼女の家へ出かけていった。9-5-4好色じいさんは帰ったあとだった。 9-5-5マノンの思うがままになろうと観念していた私ではあったが、彼女を見ると、胸中の不平をおさえることができなかった。9-5-6私は悲しそうな、つかれきった顔をしてみせた。9-5-7彼女に再会してうれしくはあったが、やっぱり、彼女の不貞の打撃にはうちかてなかった。9-5-8彼女のほうは反対で、私に再会した喜びで有頂天になっているらしかった。9-5-9彼女は私の冷淡をとがめた。 9-5-10私は不義だの不貞だのという言葉を溜息まじりにもらさずにはいられなかった。9-5-11最初にうちこそ、彼女は私の一本気をからかったりしたものの、しかし、私の視線が彼女の上にいつまでも悲しそうに注がれているのに気づいて、自分の気分や念願とこうまでうらはらな変りように耐えかねている私を見ると、彼女はひとりで自分の部屋へはいってしまった。9-5-12私もすぐあとからついていくと、彼女はそこに泣きくずれていた。9-5-13私はどうして泣くのかとたずねた。 9-5-14「わかっているじゃないの？」9-5-15彼女は言った。9-5-16「せっかく会ったのに、陰気くさい、悲しそうな顔ばかりされたのでは、あたし、どうしたらいいとおっしゃるの？9-5-17ここへ来て、一時間にもなるのに、あんたったら、一度だって抱いてくれないんだもの。9-5-18そして、あたしが抱いてあげようとしたって、まるでトルコの王さまみたいにもったいぶっているんだもの」 9-5-19「お聞き、マノン」と、私は彼女を抱きながら答えた。9-5-20「なるほど、ぼくはぼくの心が死ぬほど苦しんでいるのをかくすことはできなかったかもしれない。9-5-21きみが急にいなくなってぼくがどんなに心配したか、また、ぼくを捨てていったことを、ぼくはどれほど残酷な仕打ちだと思ったか、今さら、そんなこと言わないつもりだ。9-5-22きみに美しい姿を見れば、いやでもそんなことを忘れてしまうもの。9-5-23だけど、この家で、きみの希望どおり、こんなに情けない、こんなにみじめな生活を送るのに、ぼくが溜息をもらさないで、涙さえこぼさないでいられるだろうか？」 9-5-24私は数滴の涙をこぼしながらつづけた。9-5-25「ぼくの家柄とか、名誉とか、そんなものは問題外だ。9-5-26そんなのは、ぼくの場合のような恋愛と競争をはじめる筋合いのものじゃなかろう。9-5-27しかし、この恋愛自体が、恩知らずの冷酷な恋人によってこうまでむざんに取扱われた、とまで言わなくとも、こうまで薄くしか報いられなかったのを知ったとしたら、不平を言うのがあたりまえだときみは思わないだろうか？」 9-5-28彼女は私をさえぎった。9-5-29「まあ、まあ、あんた、お待ちなさい」彼女は言った。9-5-30「そんな胸をつき刺すようなお小言であたしを苦しめたって、つまらないじゃないの。9-5-31だって、それはあんたのお口から出るお小言なんだもの。9-5-32なんであんたが気持ちを害しているか、それはあたしにだってわかるわ。9-5-33でも、あたしたちの運命をすこしでも盛りかえそうとして、あたしの考えついたことだから、あんただって承知してくれるだろうと思っていたわ。9-5-34そして、あんたに黙って決行しようとしたのも、あんたの神経をそっとしておきたいからだったの。9-5-35でも、いいわ、ご賛成でないなら、あたし、あきらめるから」 9-5-36彼女はなおもつけ加えて、きょうはもうこれでご機嫌をなおしてほしいと言った。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/15

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