(9・2)繰り返される騎士の諸哲学

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(9) 2/8

9-2-1これを読み終わったときの私の気持はとうてい言い表わすことのできないものだった。9-2-2なぜなら、今日でさえ、あの時、私がいかなる種類の感情によって激昂したかがいまだにわからないからである。9-2-3それはかつて人が同じ種類のものなど経験したこともないような、あの一種特別な心的状態の一つだった。9-2-4それは想像もつかない状態だから、他人に説明することなどできないだろう。 9-2-5自分自身に解き明かすことさえむずかしいくらいだ。9-2-6というのは、性質上、それは独自のものだったから、記憶の中の何ものにも結びつかないし、また、どんな通念にも近づきえないからだった。9-2-7ともかく、私自身の心的状態がどんな性質のものであったにせよ、そこには、悩み、怨み、嫉み、恥ずかしさがはいっていたはずである。 9-2-8もう一つ、恋愛がはいっていなかったとしたら、どんなに都合がよかったろうに！9-2-9「彼女はぼくを愛しているんだ。9-2-10どうしたって、そうとしか思えない。9-2-11だって、もしぼくをきらうようなことがあれば、彼女は悪魔でなければならないのだから」 9-2-12私は心の中で叫んだ。9-2-13「ぼくが彼女の心に持っているような権利を、人はだれかの心に持ったためしがあったろうか？9-2-14いっさいを彼女の犠牲にしてしまった現在、まだ彼女のためになすべき何かが残っているだろうか？9-2-15それだのに、彼女はぼくを捨てようとする。9-2-16そして、この恩知らずの女は、ぼくを愛するのをやめたのではないと称して、ぼくの非難をまぬかれると思いこんでいる。 9-2-17腹がへるのが何よりの心配なのだ。9-2-18愛の神さまよ！9-2-19なんという下劣な根性でしょう！9-2-20そして、ぼくの繊細な感情になんて不似合いなことでしょう！9-2-21ぼくは空腹なんてこわくなかった。9-2-22だからこそ、彼女のために、自分の幸運もかえりみず、父の家の楽しさも見捨てて、みずから飢えに身をさたしたぼくなのだ。9-2-23彼女の取るにも足りない気まぐれや、出来ごころを満足させるために、必需品まで節約したぼくなのだ。 9-2-24そのぼくを、彼女は熱愛している、と言うのだ！9-2-25おまえがぼくを熱愛していたって、恩知らずめ、おまえがだれから知恵をかりたかくらいわかっているぞ。9-2-26さもなければ、さよならも言わずに、別れていけるものじゃあるまい。9-2-27熱愛している者と別れるのは、どんなにつらくて悲しいものか、それはこっちにきくのが当然だ。9-2-28自分から志願してからだを張るなんて、とんでもない」 9-2-29私の嘆きは思いがけない訪問によって中断された。9-2-30レスコーの訪問だ。9-2-31「この畜生め！」私は剣に手をやりながら言った。9-2-32「マノンはどこにいる？9-2-33マノンはどうした！」

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/13

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