(8・5)使用人の裏切りで二人は無一文に転落

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(8) 5/5

8-5-1彼の説法は私にある影響をあたえずにはおかなかった。8-5-2だから何かにつけ、私の心が善にもどろうとする機会が何度もあったような気がする。8-5-3なぜなら、その後、私の生涯での最も不幸な場合に際して、私が自分の勇気の一部を負うたのは、この思い出のせいだったからだ。 8-5-4この場面が私にもたらした悲しみの情も、しかし、マノンの愛撫によって一瞬でけし飛んでしまった。8-5-5私たちは歓楽と愛欲のみの生活を相変らずつづけた。 8-5-6私たちの財産の増加は、私たちの愛情を倍加した。8-5-7恋の神と運の神とは、私たちくらい幸福で、愛情の奴隷をもったためしはなかったろう。 8-5-8神々よ、なぜに人はこの世を苦界などと呼ぶのであろうか、人はこんなすばらしい楽しみを味わうことができるではないか！8-5-9ただ惜しむらくは、その過ぎ去ることのあまりにも早いことだ。8-5-10もしその楽しみが永久につづくものなら、人は何を好んで他の幸福など求めよう？8-5-11私たちの楽しみもまた世間一般の運命をまぬかれなかった。 8-5-12つまりは、つかの間に過ぎ去って、あとに来たのはつらい悔恨ばかり。8-5-13私は賭博でかなりの利益を得たので、その一部をしまっておこうと考えた。8-5-14私の使用人たちは私の成功を知らなくはなかった。8-5-15ことに私の従僕と、マノンの小間使の前では、私たちも安心して話しあうようなことが多かった。8-5-16この娘はなかなかの美人で、私の従僕とは恋仲だった。 8-5-17彼らは若くてのんきそうな主人に目をつけて、これならたわいなくだませると見てとった。8-5-18そこで彼らは計画をめぐらし、しかも、それを実行にうつしたことは、私たちにとってかえすがえすも不幸なことであった。8-5-19というのは、彼らのおかげで、私たちはふたたび永久に立ちあがることができないようにさせられたからだった。 8-5-20ある日、私たちはレスコー君から晩飯のご馳走になり、家に帰ったのは真夜中すぎだった。8-5-21私は自分の従僕を呼び、マノンは彼女の小間使を呼んだが、どちらも出てこなかった。8-5-22家人のはなしによれば、彼らは八時ごろから家の中には見えなかったそうで、しかも、私の命令だと称して、幾個かの箱を運びださせてから、自分たちも外に出たのだという。 8-5-23ピンと来たものはあったが、まさかこれほどとは思わなかった。8-5-24私が部屋にはいるなり見たものは、私の疑念をはるかうわまわっていた。8-5-25箪笥の錠前はこじあけられていて、私の金は、衣類もろとも盗まれていた。8-5-26私がこの事件にひとり呆然としていると、マノンが血相かえて飛んできて、自分の部屋も同じように荒らされていることを告げた。8-5-27この打撃はあまりにも残酷だったので、私は理性にむち打って、ようやく、泣き叫ばずにすんだほどだった。8-5-28自分のこの絶望をマノンにまで伝えてはいけないと、私はわざと平気そうな顔をしていた。 8-5-29いずれこのかたき討ちは、いいカモでも見つけて、オテル・ド・トランシルヴァニで晴らすつもりだと、私はふざけ半分に言ったものだ。8-5-30それにしても、この災難に彼女はひどく参ったらしいので、私の空元気が彼女の落胆を防ぐどころか、彼女の悲嘆のほうが私をどれほど悩ます力を持っていたか知れなかった。 8-5-31「あたしたち、めちゃくちゃだわ」と、彼女は目に涙をためながら言った。8-5-32私は彼女を愛撫してなぐさめようと試みたが、むだだった。8-5-33そもそも、私自身が涙を流してしまって、自分の絶望と落胆を暴露するのが落ちだった。8-5-34事実、私たちはシャツ一枚残ってないほど完全に無一物にされてしまったのだ。8-5-35私はすぐにレスコー君を捜しにやることにした。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/13

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