(8・4)チベルジュの堪忍袋もこれまで

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

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8-4-1私の腕をふるうべきおもな舞台はオテル・ド・トランシルヴァニ（「ホテル・トランシルバニ」訳注　パリのマケラ川岸に現存する建物。十七世紀に建てられたが、トランシルヴァニ公ラコッチ二世が、オーストリアに対する革命に失敗して、部下とともにパリに亡命し、1714年に、ここを賭博場にするに及んで、こう呼ばれるようになった。 アベ・プレヴォーも言っているように、公自身はクラニイに住んでいたが、部下たちがここを住家にしていた）であった。8-4-2そこの広間にはファラオン賭博の卓が備えつけてあり、ギャラリーには、カルタやサイコロなど、その他種々雑多の博打道具がおいてあった。8-4-3この賭博場は、当時、クラニイに住んでいたR・・・・・侯爵のために開帳されていたもので、彼の部下の大部分が、われわれの結社の仲間だった。 8-4-4恥をさらして言うなら、私は短時日のうちに教えられた手をすぐ利用することができるようになった。8-4-5とりわけ、裏をかいたり、札をかくしたりする手際は非常に上達した。8-4-6そして、長い袖口を利用しては、まんまとごまかして、どんなに機敏な目をもかすめ、正直者はあっさり無一物にしてやった。 8-4-7この異常なほどの技量は、たちまちに私の幸運をひらいていったので、仲間うちの仁義で分ける金を引き去っても、一、二週間で、私の手にはかなりの金額が残された。 8-4-8もうこうなれば、私はシャイヨーの損失をマノンにかくしておく必要はないと思った。8-4-9そして、この不幸な報告を告げるにあたって、彼女をなぐさめるためには、私は家具つきの家を借りてやり、私たちは裕福で，小ぎれいな生活をいとなんだ。 8-4-10このあいだにも、チベルジュは私をひんぱんに訪れることを欠かさなかった。8-4-11彼のお説教はつきるところを知らなかった。8-4-12彼は、私が自分の良心を、名誉を、幸福を、どれほど毒しているかを諄々と説きはじめるのであった。8-4-13私は彼の忠言をありがたくいただいた。8-4-14そして、その忠言に従う心は毛頭なかったとはいえ、私がその熱情に感謝せずにはいられなかったのは、その熱情の泉を知っていたからだった。 8-4-15マノンのいる前でさえ、私は彼をおもしろおかしくからかってやったことも幾度かあった。8-4-16世の司教司祭の大多数は、奨励金に応じて情婦とよろしくやっているほどだから、きみだって、何もそんなに気がねすることはあるまいと、逆に私のほうから彼を激励してやったりした。 8-4-17「これを見たまえ」と、私は自分の女を目で彼に示しながら言った。8-4-18「どうだい、こんなにまで美しいのがいるんだから、そいつのためにすこしばかりのへまをしたって、かまわないと思わないかい」 8-4-19彼は我慢していた。8-4-20しかも、そのぎりぎりのところまで我慢したのだ。8-4-21それだのに、私の財産が急にふえたことに気づくと、私がまだあの百ピストールを返していないばかりか、家はあたらしく借りるし、おしゃれはするし、いよいよ道楽にはおぼれるし、そういう私を見て、彼はがらりと語調と態度を変えてしまった。 8-4-22彼は私の性こりないのを嘆いて、天罰という言葉までもち出して私をおどしてかかった。8-4-23そして、やがてほどなく私を訪れるにちがいない災難の一部を予言した。8-4-24「きみが放蕩に使っている金は、正当な道をとおってきたものだとはどうしても思えない」 彼は言った。8-4-25「悪銭というものは身につくものじゃない。8-4-26神にあたえる恐るべき罰は、きみに安閑とその悪銭を使わせておくことなのだ。8-4-27ぼくの忠告もきみには全部むだだった」彼はなおもつけ加えて言った。8-4-28「ぼくの忠告など、そのうち、邪魔になるだろうくらい知っている。8-4-29きみは恩知らずの、弱い男だ、8-4-30さようなら。8-4-31きみの罪深い快楽が亡霊のように消えうせることを祈ろう！8-4-32きみの幸運も、きみの財宝もなくなって、なす術のなくなることを祈ろう！8-4-33そして、きみを狂気のように酔わせた富のむなしさを悟るために、きみがただひとりで無一物になることを祈ろう！8-4-34そのあかつきこそ、きみを愛し、きみに手をかそうとするぼくをふたたび見いだすだろう。8-4-35しかし、きょうから、きみとのいっさいの交わりを絶つ。8-4-36それに、ぼくは現在のきみのような生活につばを吐きかける」 8-4-37彼がこの使徒的演説をなしたのは、私の部屋の中、マノンの面前であった。8-4-38彼は引きあげるために立ちあがった。8-4-39私は彼を引きとめようとしたが、マノンは私をさえぎりながら、あれは気ちがいだから勝手に帰したほうがいいと言った。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/13

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