(8・2)千エキュの奨励金から百ピストールの手形

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(8) 2/5

8-2-1私のほしいのは彼の財布だとはさすがに言えなかった。8-2-2しかし、彼もしまいごろには感づいたらしく、私の言う意味がわかるような気がすると明らさまに言いはしたものの、決しかねているようすでしばらくは宙ぶらりんのままだった。 8-2-3「ぼくがどっちつかずの気持ちでいるのは、熱意や友情がさめたためだなどとは思わないでくれたまえ」彼はやがて語をついだ。8-2-4「ぼくはきみが要求する唯一の援助を断らなければならないか、それとも、承諾することによって自分の義務を傷つけなければならないか、きみは二者択一をぼくに迫っているわけなんだ。8-2-5なぜって、きみを放蕩三昧（ざんまい）に放っておくことは、それに手を貸すことになるんだからね。8-2-6ただぼくが思うには」と、彼はしばらく考えたあとでつづけた。8-2-7「おそらくきみは貧乏のために極端な状態におちいっているので、最上の方法を選ぶだけの心のゆとりがないのだろう。8-2-8やっぱり、精神の落着きがあってこそ、はじめて叡知と真理のありがたさがわかるというものだ。8-2-9金策のことはなんとかしよう」 彼は私をいだきながら、つけ加えて言った。8-2-10「それには一つの条件をつけることだけは許してくれたまえ。8-2-11それは、きみの住所を教えてくれることだ。8-2-12そして、きみには迷惑だろうが、きみを道徳的な生活にもどすためにすくなくともぼくらしく尽力するのを大目に見てもらいたいことだ。8-2-13ぼくは知っているが、もともときみはそういう道徳的な生活を愛している男だし、ただ、きみをそれから遠ざけるのは、きみのはげしい欲情のせいでしかないのだ」 8-2-14私は彼の欲するところをいちいち心からもっともだと思った。8-2-15そして、私の運命のいたずらのため、このように高徳な友人の忠告をすなおに聞くことのできないのを悲しんでくれと願った。 8-2-16さっそく、彼は私を知合いの金貸しのところへ連れていって、自分の手形で百ピストール借りてくれた。8-2-17なぜなら、彼は現金は一文も持っていなかったからだ。8-2-18すでに言ったように、彼は金持ちではなかった。8-2-19彼の奨励金は千エキュだったが、これを受けるのは、これが最初の年だったから、まだこの所得というものを手にしていなかったのである。8-2-20この未来の収入をかたにして、私のために前借りしてくれたわけだった。8-2-21私は彼の寛容のありがたさを知って感動した。8-2-22そして、私にあらゆる義務を破らせた、あの命とりの恋の迷いを情けなく思わずにはいられなかった。 8-2-23なるほど、徳性は、私の欲情に反抗して、私の心中で立ちあがることができたほど、しばらくは強力であった。8-2-24そして、この光明の一時期には、私といえども、自分の悪因縁を恥ずることも、さげすむことも知った。 8-2-25ところが、マノンを一目見るや、たちまち、私は天からつき落とされたのに相違なかった。8-2-26だから、彼女のそばにもどってくると、これほど美しいものに対するこれほど正当な愛情を、一時にせよ、恥ずべきもののように考えた自分が不思議でならなかったのだ。

次へ

オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/13

（ささくら修道会規約）当会の用いる聖書は、口語訳聖書、文語体聖書、バルバロ聖書差分の３つに限定する。これ以外の、聖書の引用は異端行為として厳禁される。日本語以外の聖書については、文語体聖書の内容に準じるものとする。異端文例（Today's English Version)世事に迎合した改編文章など異端以外の何ものでもない。（異端：=故意に対立すること）

ささくら修道会の指定聖書：「日本聖書協会　口語訳聖書」に準拠 新約聖書（１９５４年改訳） 旧約聖書（１９５５年改訳） バルバロ聖書（旧約差分）

いろいろ聖書　　ささくら宗の聖書

（修正履歴）