(7・5)万策つき友人チベルジュを思い出した

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

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7-5-1私は来たときよりもいっそう不満な気持で彼のもとを去った。7-5-2彼に自分の秘密をうちあけたことが後悔さえされた。7-5-3これまで私に何ひとつしたことのなかった彼なので、こんなうちあけばなしをしたところで、一文の得にもならないことに変りはなかった。 7-5-4そのうえ、マノンには口外しないという約束に、結局、そむくのではないかと、これがまた私には死ぬほど心配だった。7-5-5しかも、あのとおり彼が自分で自分の落胆を言明したことから、当然、私のいちばん気にかかるのは、彼自身の吐いた文句じゃないが、彼女を食いものにする目的で、彼女を私の手からとりあげるか、でなくとも、彼女を動かして、もっと裕福な恋人に鞍替えするために私を捨てさせるか、そんなもくろみを立てているのではないかということだった。7-5-6こんなふうにあれこれと思いわずらってみても、とどのつまりは、自分で自分を苦しめ、朝からの絶望を新たにするだけだった。 7-5-7父に手紙を書き、もういちど改心を装って、いくばくかの金を無心しようと考えたことも再三ではなかったが、あのように寛大な父でありながら、私の最初のあやまちで、六カ月も狭い座敷牢に閉じこめておいたことがすぐに思い出された。7-5-8私のサン・シュルビスの脱出は、おそらく派手な醜聞をまきちらしたことだろうから、父がいっそう厳重に私を取扱うことはわかりきったことだった。7-5-9結局、このように千々の思いに乱れたあげく、私の心を一度にほっとさせた一つの思いがうかんできたのであるが、それにもっと早く気づかなかったのは不思議なくらいだった。 7-5-10それは友人チベルジュのもとに駆けつけることだった。7-5-11いつだって、この友人のなかに熱情と友情の泉を見いだすことを私は疑わなかったからだった。7-5-12何ものといえどもその誠実の歴然としているような人びとに寄せる信頼の情ほど、立派で、また、美徳を飾るものはあるまい。7-5-13人はそこにいささかの恐れさえ感じないのである。7-5-14たとえその人びとが必ずしも救援に応じるものでないとしても、すくなくとも、親切と同情が得られることは確実である。7-5-15他の人びとの前ではあれほど用心深く閉じる心も、この人びとの前では自然と開くのである。7-5-16それは陽光を浴びてほころびる一輪の花にも似ているが、その花はただ太陽の優しい、有効な感化しか待っていないのである。7-5-17私はこんなにもタイムリーにチベルジュのことが思い出されたのを天の加護のおかげだと考え、夜を待たずに彼と会える方法を捜すことに心を決めた。 7-5-18私はその足で自分の家に引返し、彼に一筆書いて、私たちの会談に都合のいい場所を指定した。7-5-19私が何よりもまず彼に沈黙と慎重を守るようにと申入れたのも、今度の要談の性質上、これが彼の私にはたしてくれる最も重要な奉仕の一つだと見たからだった。7-5-20彼に会えると思う喜びは、私の面上から憂色を吹き消したので、マノンに何ひとつ気づかれずにすんだ。7-5-21私はシャイヨーでの災難を話すにしても、心配などする必要のない冗談事みたいに扱った。7-5-22シャイヨーでの火事のちょっとした修理をすますまではパリにいたらいいという私の意見を聞いても、パリを世界で最も楽しい場所だと考えている彼女は、いやな顔などするはずもなかった。 7-5-23一時間後に、チベルジュの返事は来た。7-5-24指定の場所に行くと書いてあったのだ。7-5-25私は取るものも取りあえず駆けつけた。7-5-26それにしても、私はその友の面前に出ることに慙愧の念を覚えずにはいられなかった。7-5-27たとえ彼が黙っていてくれたにせよ、彼がただそこにいるだけで、私は自分の不行跡をただただ感ずるばかりだったから。7-5-28しかし、彼の善良な心への信頼と、マノンを思う気持ちが、私のこの厚かましさをささえてくれた。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/12

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