(7・3)無学な金持ちと学識の貧乏人の経済学

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

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7-3-1彼は私を兄弟と呼び、そして、兄弟のよしみというかこつけで、友人全部をシャイヨーの家へ連れてきて、私たちの費用でふるまってやるようなことまではじめた。7-3-2彼は私たちの金で豪奢な服装をととのえ、借金は全部私たちに払わせるようにした。 7-3-3私がこうした乱暴ぶりに目をふさいでいたのも、ただマノンにいやがられないためであった。7-3-4ときどき、彼女から相当の金額を巻きあげるところを見ても、わざと見ぬふりさえしていた。7-3-5大の博打うちである彼が、運の向いたときには、その借金の一部を彼女に返すだけの義理がたさを持っていたことは事実だった。 7-3-6しかし、私たちの運命の神はあまりにも無力で、そんな度はずれた出費にいつまでも応じてはくれなかった。7-3-7私は彼の無心を封じるために、強硬に談判しようと思っていたやさき、ある災難が起って、この面倒をなくなしてくれたが、別の面倒を引起して、私たちを文なしにまで零落させてしまった。 7-3-8ある日、私たちはパリに出てきていたが、毎度のことながら、その日はパリ泊りのつもりだった。7-3-9こんな場合、シャイヨーでは女中がひとりで留守番をしているのがつねだったが、その女中が、朝やって来ての報告だと、夜、私の家から火が出て、それを消すのに大騒動だったというのである。 7-3-10私は家具類の損害についてききただした。7-3-11彼女の答えでは。救援に来た多数の人たちで大混雑したので、なんとも請けあうことはできないという。7-3-12私はあの小さな箱の中にしまっておいた私たちのお金のことを考えてふるえあがってしまった。 7-3-13私は取るものも取りあえずシャイヨーへ向ったが、後のまつり、金庫はすでに消えていた。7-3-14人はけちん坊でなくても。金銭を惜しむものであることを、私はそのときつくづく感じた。7-3-15この損失ははげしい苦痛で私の胸をえぐり、ために、私は理性を失ったと思った。 7-3-16どんな新しい不幸に、今、私はさらされようとしているのか、私はとっさに了解した。7-3-17貧乏なんて取るにも足りないことであるが、私はマノンがどんな人間であるかを知っていた。7-3-18金のあるうちこそ、忠実でもあり、私思いでもあろうが、いったん落ち目になると、彼女を信用してならないことは、もうあまりにも試験ずみであった。 7-3-19贅沢と快楽を私のために犠牲にするには、あまりにもそれらを愛していすぎる彼女であった。7-3-20「ぼくは彼女を失うことになろう」私は叫んだ。7-3-21「なんておまえは不幸な男だ！7-3-22おまえは自分の愛しているものことごとくを失おうとしているのだぞ！」7-3-23こう考えると、私はまたしても恐ろしい不安の中に投げこまれてしまった。 7-3-24だから、こうしてわが身に降りかかってくる不幸に休止符を打つには、死を選ぶのが最上の方法ではないかと、しばらくは思いまどうほどだった。7-3-25とはいえ、これでどんな方策もつきはてたものかどうか。まず検討してみようとするだけの思慮分別は私にも残っていた。 7-3-26神は私に一つの考えを思いうかべさせて、私が自暴自棄におちいるのを止めさせてくれたのだった。7-3-27私は今度の損失をマノンにかくしておくことが必ずしも不可能ではないと思った。7-3-28なんとかやりくりすれば、それに、運ということもあるのだから、彼女に貧乏を感じさせない程度には、相当ゆたかに養っていくことができるかもしれない。 7-3-29「われわれの六万フランで十年は大丈夫だろうと見積もったのだから」私は自分をなぐさめて、ひとりごちるのだった。7-3-30「その十年が過ぎ去ったと仮定してみよう。7-3-31そして、ぼくの望んでいるような変化がぼくの家庭に起らなかったと仮定してみよう。7-3-32そしたら、そのとき、ぼくはどんな覚悟をするだろう？7-3-33そのときにならなければわからないと言ってしまえばそれまでだが、ともかく、そのときやるであろうことを、きょうやったっていっこうさしつかえないはずではないか。7-3-34今、パリで生活している者たちにしても、ぼくほどの才覚もなければ、生まれながらの特質もないのに、持ち合せの能力だけで生活費にありついている人たちがどれほどいるかわからない。7-3-35神の摂理によって」と、私は人生のいろいろの面のことを考えながら、なおもつづけた。 7-3-36「世の中は万事がうまくできているのではないだろうか？7-3-37権力や金のある者が大部分ばかであることは、すこしでも世間を知っている人にはわかりきった事実である。7-3-38ところで、この事実には、驚くほどの公平さがあるんだな。7-3-39もし彼らに、権力や金のほかに才能があったとしたら、それはあまりにも幸福すぎるというものだ。7-3-40そして、それ以外の人々はあまりにも悲惨すぎるというものだ。 7-3-42だから、こういう連中にはすぐれた肉体、すぐれた精神があたられているので、この手段によって、悲境と貧困からぬけ出ることができるんだな。7-3-43そして、金持ちにとりいって、彼らを喜ばせておいてから、彼らの富にあずかるわけなんだ。7-3-44つまり、彼らをだまくらかすのだ。7-3-45また他の者たちは、権力者の教育にあずかって、彼らを立派な教養人に仕上げようと努力する。7-3-46その人たちがそれに成功することは事実においてまれであるが、それは神の叡知の目的がそこに向けられているのではないからである。 7-3-47つまり、その人たちは、権力者を教育してやった世話代として、権力者の費用によって生活するという一つの収穫をいつもあげることになるのである。こうして、金持ちや権力者がばかだということは、その利用方法はいろいろあろうが、ともかく、貧乏人にとってはこのうえない所得の源となるのである」 7-3-48このような考えは、わたしに多少の勇気と理性をもどしてくれた。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/11

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