(7・2)予想外の展開マノンの兄が闖入(ちんにゅう)

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(7) 2/5

7-2-1マノンは遊びごとには熱狂的な女だった。7-2-2私も彼女のためにそうだった。7-2-3出費の機会はひっきりなしにつぎつぎと起ってきた。7-2-4しかも、彼女が金を湯水のように使うようなときであっても、私はそれを惜しむどころか、彼女の好きそうなものはなんでも率先して買ってやるという始末。 7-2-5私たちのシャイヨーの家さえもが彼女には面倒になりはじめた。7-2-6冬が来て、人びとはいずれも都会に帰り、田舎はさびしくなった。7-2-7彼女はパリに家を借りることをもち出したが、私は同意しなかった。7-2-8しかし、何かで彼女を満足させてやるために、家具つきの部屋なら借りてもいいということにした。7-2-9そして、私たちが週に幾度か行く集会の帰りがおそすぎた場合は、そこに泊ることにした。 7-2-10というのも、シャイヨーにあまりおそくなってから帰る不便が、ここを去りたいという彼女の口実だったからだ。7-2-11こうして、私たちは二つの住まいを、一つは都会に、一つは田舎に、持つことになったのである。7-2-12このことは、私たちの破滅の原因となった二つの事件を生み、やがて私たちの生活をめちゃくちゃにしてしまうことになった。 7-2-13マノンには近衛兵になっている兄がひとりあった。7-2-14それが不幸にもパリの私たちと同じ町内に住んでいたのである。 7-2-15ある朝のこと、彼は窓にいた彼女の姿を見て、妹だとわかり、すぐさま、私たちの家へ駆けつけてきた。7-2-16粗野で、礼儀知らずの男だった。7-2-17彼は恐ろしい剣幕で私たちの部屋へはいってきた。7-2-18そして、妹の事情も多少は知っていたので、罵詈雑言を浴びせかけた。 7-2-19私はそのちょっと前に外出していた。7-2-20これは彼女にとっても、私に取っても、仕合せだったといえる。7-2-21私にしたって、こんな侮辱に耐えられるはずはなかったからだ。7-2-22私は彼と入れちがいに帰ってきた。 7-2-23マノンの悲嘆にくれているようすを見て、私はただならぬことが起ったのだと判断した。7-2-24彼女はいまさっきの情けない場面を語って、兄の乱暴な脅迫のことまでうちあけた。7-2-25私は立腹のあまり、もし彼女が涙で私を止めなかったとしたら、その場で復讐にとび出したかもしれなかった。 7-2-26私が彼女とこの事件のことを話している最中に、例の近衛兵は、断りもなしに、私たちのいた部屋の中にはいってきた。7-2-27もしこれが初対面でなかったら、私だってこれほど丁重には迎えなかったろうと思う。7-2-28しかし、彼は愛想よく私たちに挨拶をしながらも、マノンには、自分の激昂したことを詫びに来たのだと告げるだけの余裕を持った。 7-2-29彼は妹が身を持ちくずしているものとばかり思いこんでいたので、一時かっとなったものの、私たちの下男のひとりから私の身分を気かされ、私についてはいろいろと非常に有利のことを知ったので、そのために、私たちといっしょに暮したい気持ちになったのだということであった。 7-2-30うちの下僕のひとりから出たというこの情報には、何かあやしい、臭いものがあったけれど、私は彼の申込を義理がたく受け入れた。7-2-31これはマノンにもうれしいことだと思ったからだ。7-2-32事実、彼女は兄が仲なおりする気になったのを喜んでいるらしかった。7-2-33私たちは彼を昼食に引きとめた。7-2-34彼はたちまちのうちになれなれしくなって、私たちがシャイヨーに帰るというはなしを聞くと、どうしても同行したいと言ってきかなかった。7-2-35それで、馬車の仲にもう一つ彼の席をつくらねばならなかった。 7-2-36これは占有権みたいなものだった。7-2-37なぜなら、彼は私たちに対して思いのままにふるまうことに慣れ、やがて、私たちの家を自分の家となし、私たちのものも、いわば、主人顔をして処理するようになったからだ。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/11

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